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悪魔使いは悪役に憧れる  作者: 空色
第三章
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悪魔使いは潜入する⑥

「──マーティンがランドルフ侯爵家の隠し子だったとはね」


 はぁ〜と盛大なため息がルイスの口から漏れた。「よりにもよって」ルイスの言葉には言外にそんな言葉も含まれていそうだ。ただ、リード子爵家とランドルフ侯爵家の関係性を考えれば至極当然だとも言える。


「では、私は何をすれば良いかな」


 項垂れた姿勢から立ち直ると頬杖をついた体勢でルイスがレヴィに投げかける。ルイスは案外切り替えが早そうだ。


「まず、マーティンに合わなければなりません。それから紹介状を書いて頂けませんか?」

「紹介状?」


 ルイスが首を傾げた。


「はい、ランドルフ侯爵家は今腕の良い薬師を探しています」

「お前が立候補するのか? 薬師の心得でもあるのか?」


 ルイスが目を丸くした。


「いいえ。幸い腕の良い薬師の()()()()がおりまして……」


 レヴィはニッと笑った。



 ◇◇◇



 その日、サイモンは自ら営む薬屋【宿り木】に入ってきた客に目を丸くした。


「初めまして君がサイモン君かい?」


 にこやかに笑う燃えるような赤毛の男性。サイモンはこの男性に見覚えがあった。


 ──リード子爵がどうして薬屋【宿り木】(うちの店)に!?


 そうルイス・リード子爵様だ。

 以前、サイモンがリード領に立ち寄った時、リード子爵家の面々を遠目に目にした事があった。特に一族の燃えるようなその赤毛はとても目立つ。


「どうかしたかい?」


 呆然とするサイモンを不思議そうに問いかける。


「リード子爵様が何故……?」


 消え入る様な声で言うとルイスは目を丸くした。


「おや、俺を知っているのか?」


 ルイスは驚いた顔で頭をガシガシと掻いた。


「すみません。サイモンさん、僕だけでくる予定だったんですけど」


 気付けば、ルイスの後ろに3日前に訪れた客──レヴィの姿があった。レヴィは申し訳なさそうにサイモンに言うとサイモンの前に一通の書状を出した。書状には『紹介状』と書かれている。


「これは……紹介状?」


 全く状況の読めないサイモンがレヴィと紹介状を交互に見た。


「これを持ってランドルフ侯爵家に薬師として行って欲しい。頼めるか?」


「頼めるか?」と言われても、子爵自らの頼みを庶民であるサイモンは断れる筈が無いのだが、一応尋ねてくれるあたりルイスは良心的な人物なのだろうとサイモンは解釈した。


「えと、態々紹介状を渡す為だけに子爵もいらっしゃったのですか? そもそも何故僕に紹介状を? その子でも良かったのではないですか?」


 そう言ってレヴィを見るとルイスはレヴィとサイモンを見比べて言った。


「この子、レヴィの推薦だ」

「推薦!? 君が立候補をすれば良いのにどうしてだい?」

「勿論僕も行きますよ。サイモンさんの()()として」

「助手だって!?」


 サイモンは思わず素っ頓狂な声をあげてしまった。


「サイモンさんの言を借りるなら、僕たちは()()なのでしょう? こういう時に協力しないと」


 ──こういう時ってどんな時だ!?


 状況が飲み込めずサイモンはただ狼狽える。おまけに完全に言質を取られている。


『ライバルね……。仲間は多い方が良いだろう? それに、生憎僕はお貴族様のゴタゴタはご遠慮したいね』

『それは僕も同意見です』


 サイモンは顔を引つらせながら3日前の会話を思い出す。言った。確かに()()と言った。サイモン自身は言ったことに嘘は無いし、後悔もしていない。してはいないが、こういう風に使われるとは思わなかった。


 ──それに貴族のゴタゴタは遠慮したいと言ってなかったか!?


 一体何処で方針転換をしたのかと考えつつ、サイモンは植木鉢の方に一瞬だけ目を向けた。きっとピクシーは植木鉢の影で「だから言ったじゃない!」と憤懣やる方ない顔をしているに違いない。


「まあ、こちらにも事情があるんだ。悪いが協力してくれ。報酬は……上手くいけばランドルフ侯爵家が出してくれるだろう。向こうは喉から手が出るほど腕の良い薬師を探しているのだから」


 ──報酬はランドルフ侯爵家に丸投げなんだ。


 若干呆れつつそんな風に言われてはサイモンは更に断る事は出来なくなってしまった。


「どうして子爵様自らお越しになったのですか?」


 サイモンは素直な疑問を口にする。別に子爵本人が来なくても、別の人間を寄越せば良い事だ。


「俺もサイモンがどんな奴か見てみたかったしな」

「はあ」


 サイモンは既に気の抜けた返事しか出来なくなっていた。幸いルイスは特に気にしていない。


 ──子爵自ら出向くとはなんとフットワークの軽い事だろうか。


 元々、リード子爵家は貴族らしく無いとはいえ、子爵自らこんな庶民の薬屋に来るなど有り得ないとサイモンは悶々とした。


「お互い頑張りましょう? サイモン師匠?」


 にっこりとレヴィに微笑まれ、サイモンはこの黒髪の悪魔使いを少しだけ恨めしく思った。


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