挿話 悪魔使いと一年の終わりに
ヨハンは台所でレヴィがバスケットに嬉々としてジュースとパンを詰めているのを見つけた。
「レヴィ何をやっているのです?」
「お弁当だよ!」
「お弁当? こんな時間にですか?」
ヨハンは窓の外を見た。もう日も暮れている。
「だって今日は1年の終わりでしょ?」
レヴィの一言でヨハンは合点がいった。フォーサイス王国では1年の終わりに教会で祈りを捧げ、花火を打ち上げる風習がある。レヴィはきっと夜更かしをして、花火を見るつもりなのだと理解した。
「まあ、1年に一度ですし、今日ぐらいはいいでしょう」
ヨハンは珍しくにっこりと笑う。レヴィは瞳を輝かせた。
レヴィは楽しそうにしているし、今までの放浪生活では出来なかった事だ。
「やったー」と両手を上げてレヴィは喜んだ。駄目だと言われると思っていたらしい。
「その代わり、きちんと礼拝をして、しっかり厚着をするんですよ」
それだけ言ってヨハンは台所を後にした。
◇◇◇
夕暮れ時、町の人々が丘を登り教会へやって来る。一年でもっとも教会へ人の集まる時期だ。
──ガラーン、ゴローン
教会の鐘が鳴ると人々は礼拝堂へ入っていく。
この礼拝堂で1年の感謝と、来年への願いを祈る。王都では盛大に祭りが開かれ、田舎町でも簡易な祭りが開かれ朝まで賑やかだ。
「──」
ヨハンは礼拝堂で神父ウィリアムの美しい声に耳を傾けながら、一年を思い返す。
──今年は色々あった。良い事も悪い事も…………。
「…………」
一年にあった出来事を思い出し、微妙な気持ちになりながらも、1年の終わりを穏やかに過ごせる事に感謝した。横目でレヴィとロイドの様子を見ると大人しく座っている。
恙無く礼拝を終え、今夜は何も無く過ごせるとヨハンは安堵していた。
◇◇◇
礼拝が終わり、レヴィとロイドは教会の一番高い場所、鐘つき場にやって来た。手には礼拝の前に用意したパンとジュース。ヨハンに言われたようにしっかりと厚着もしている。
「さあ、ロイド。後は此処で花火を待つだけだよ!」
レヴィはジュースの瓶をロイドに渡しながら言った。ロイドの方は眠いのか既にうつらうつらしている。
「もー、ロイド半分寝てるし!」
ぷーと頬を膨らませながらも、レヴィは「まぁ、いいか」とジュースを一口飲んだ。
◇◇◇
ヨハンが自室で寛いでいると、空に嫌な気配を感じた。慌てて外を見ると教会の屋根の上に魔法陣が浮かんでいる。
「な!?」
ヨハンは部屋を飛び出し、慌てて教会の鐘つき場に行くとそこには大量の小悪魔達が湧き出していた。
「これは一体何なのですか!?」
「あはは、よはんだ〜!」
レヴィを見ると楽しそうにジュースを飲んでいる。しかし、様子がおかしい。呂律が回っていない。
──酔っぱらっている?
ヨハンはレヴィの近くに転がっていた空瓶を拾って匂いを嗅ぐ。僅かにアルコールの匂いがした。
「ジュースじゃない! 酒だ!」
慌ててレヴィから酒瓶を取り上げるが、レヴィの方は完全に出来上がっている。レヴィの横では何故か物凄く申し訳なさそうな黒犬が小悪魔を咥えていた。
「…………み、水を持って来ます」
ヨハンは急いで台所に行くと、そこで更に衝撃的なものを見た。転がる酒瓶に酔っ払い二人。そこで、お酌をする不気味な姿をした小悪魔。
「もう一杯寄こせ!」
「あはははっ! ウィルったらもう酔ってる!」
「…………」
──こっちも酔っている!?
何時も穏やかなウィリアムは小悪魔相手に管を巻いているし、何時も妖艶な笑みを讃えているはずのアナスタシアが陽気に笑っている。
──バーン、ババーン。
空に花火が打ち上がる音でヨハンははっ我に返った。
──まずは小悪魔達をどうにかせねば!
ヨハンは小悪魔達を手掴みで捕まえていく。小悪魔達を小脇に抱え、そのままレヴィの所に戻ると、黒犬が小悪魔達を捕まえては魔法陣の中に放り込んでいるのを見つけた。ヨハンは近くで寝ていたロイドを叩きお越し、酔っていないのを確認すると、一緒に小悪魔達を回収していった。
──ドーンドドーン
ヨハンが教会の中を小悪魔を追いかけて駆けずり回っていると、一際盛大な花火が上がった。何故か教会から上がっている。気付けばレヴィが屋根に昇って魔法を打ち上げている。
「何時の間に!?」
ヨハンは唖然とする。
「おー! もっと上げろー!」
「私も派手なの打ち上げるわよ〜!」
気付けば、何時の間にか教会から出て来た酔っ払い二人が更に煽っている。ヨハンはその様子に頭を抱えた。
それは空が白けるまで続いた。
新年早々、二日酔いに苦しむ酔っ払い達はヨハンに盛大に説教をされ、暫くの間、教会内はヨハンによる禁酒令が敷かれた。
因みに、レヴィ達がジュースだと思っていたものは、酒屋が誤って配達したものでした。




