悪魔使いは潜入する②
ルイス子爵の威圧的笑顔に顔を引き攣らせるケイシーを横目で見る。
──うわあ……、これはかなーりご立腹なご様子。
それもその筈、ケイシーは子爵に秘密で侯爵家に使用人として潜り込んでいたのだ。それも別人に偽って。バレない訳がない。
「ケイシー、一体どういう事か俺にも分かるように説明してもらえるか? おかしいとは思っていたんだ。どうして行儀見習いとしてミッシェル家に行っている筈のお前が此処にいるのか。ノースブルック侯爵家に働きに出た筈のクレアがミッシェル家に居たのか」
──がっつり、バレている。
レヴィは目を半眼にした。
「お父様?」
「ミッシェル家に所要があってな、ついでにお前の顔を見ていこうと思ったら、居たのはクレアじゃないか。可哀想にクレアは顔を真っ青にしていたよ」
一歩一歩近付く子爵にじりじりとケイシーは後退る。しかし、ケイシーの後ろはレヴィの寝ているベッドがあるので、ケイシーはそれ以上後ろに下がる事は出来ない。
「ミッシェル家に行儀見習いに行くと言い出す前に、マーティンから連絡が来ないと騒いでいたのを思い出したよ」
「お、お父様。此処にはお客様もいるわ」
「そうだな。彼等にも聞きたい事があるんだ。丁度良いだろう?」
にっこりと笑みを浮かべたままルイスが躙りよる。ケイシーヒッと小さく悲鳴を上げた。
「でも、ほら、レヴィはさっきまで寝ていた訳だし! もう少し安静にしていた方が良いわ! そうよね、レヴィ?」
狼狽えながらケイシーがレヴィに視線だけで助けを求めると、ロイドがその様子を白い目で見る。
──ケイシーは帰ってどう説明するつもりだったのだろう。てっきり何か策があるのかと思ってたけど、ノープランだったのか。
レヴィはルイスとケイシーを見比べて苦笑を浮かべた。
「いえ、僕はもう大丈夫です」
「レヴィ!?」
「だそうだぞ」
レヴィの返答にケイシーは悲鳴の様な声を出す。対象的にルイスはニヤリと笑った。
「ですが、子爵様。僕達はノースブルック侯爵家のお使いでリード領に来たのです。ケイシー。ノースブルック侯爵家のロベルト執事から預かった手紙があったでしょう?」
レヴィが言うとケイシーははっとする。慌てて荷物を漁り出した。色々な事が起きすぎて忘れていたのだろう。
「ロベルト執事から俺宛に手紙?」
「そうよ」
目を丸くした子爵がケイシーから手紙を受け取った。
「最近は姿をお見かけしなかったが……」
「お父様はロベルト執事とは知り合いなの?」
「ああ、先代の侯爵がご顕在の時に何度かあった事がある。それにロベルト執事は精霊使いだろう? 彼は此処で精霊使いとして修行した事があるんだ」
「ロベルト執事は精霊教会には属してないの?」
「いや、登録はしていた筈だ。しかし、侯爵家の専属精霊使いだからな」
ケイシーが不思議そうに首を傾げた。
精霊使いとしは大抵の精霊使いは精霊信仰の教会に属しており、そこで精霊使いとしての基礎を学ぶ。稀に精霊教会に属さない精霊使いも存在するが、その場合は師匠となる人について基礎を学ぶのだ。ロベルトは後者だった様だ。
「──まあ、大体の事情は分かった」
手紙を読み終えるとルイスは苦い物でも食べたような顔をしている。
「ケイシー。ノースブルック侯爵は正式にお前を行儀見習いとして招きたいそうだ。エミリア嬢の友人としても期待していると。そこにいるレヴィとロイドは護衛だそうだな」
「そうなのよ!」
ルイスがレヴィとロイドを何とも言えない顔で見ている。
──まぁ、子爵様には不安でしかないよね。精霊の加護持ちと悪魔使いじゃ相性も悪いしね。護衛が面倒事を招いてちゃ、子爵も心配だよね。
レヴィはふと教会の面々を思い浮かべた。
──ヨハンも心配しているかな?
そんな事を考えながら、リード親子を見る。ルイスは酷く苦い顔をしているが、それはケイシーが心配だからだろう。
「俺としては簡単に許容は出来る事ではないが、お前の意思を尊重しよう。どうする? と言ってもケイシー、此方が侯爵家の申し出を断る事は出来ないが」
「勿論行くわ。エミリアとも約束したのよ!」
「そうか」
元気の良いケイシーの返事を聞き、ルイスは一気に疲れたような顔になった。
「では、此方からも返答の手紙を持たせよう」




