悪魔使いは潜入する①
──寒い、……けどあったかい。
うつらうつらしながら、誰かの背に背負われているのをレヴィは感じた。布でぐるぐる巻にされているせいで息苦しい。熱でぼんやりとする頭に、心地の良い声が響いた。
「もう直ぐ街につくからそれまでの辛抱だ」
ふわりと熱で潤んだ視界に雪がチラつく。
「……うん」
息苦しさの中で何とかそれだけ答えた。
◇◇◇
「……ん?」
──懐かしい夢を見た気がする。
まだぼんやりとする頭でレヴィは自分が今何処にいるのか考える。視線だけを動かし、部屋の中を見回した。まず目に入ってきたのは、見慣れなぃ天井。整えられた布団はあるが、質素な室内だ。
──本当に何処だろう? 宿屋とも違うみたいだ。
レヴィは記憶を呼び戻す。リード領の入り口で上級精霊による霧の結界に阻まれた事までは覚えているが、その後の事は朧気だ。
「レヴィ、目が覚めたか?」
「……此処は何処?」
見慣れた銀髪の少年の顔がレヴィの顔を覗き込んでくる。薄紫色の瞳が心配そうに揺れている。
──相変わらず綺麗な顔だな。
等と関係の無い事を考えた。
「ロイド、顔が近いよ……」
「レヴィ! 起きたの!?」
レヴィが目が覚めたことに気付き、ロイドを押し退けて、今度は燃えるような赤毛の少女の顔がレヴィの顔を覗き込んできた。
「もう大丈夫なの?」
「ケイシー? あれ、マーティンは?」
起き上がって辺りを見回すと一人足りないことに気がついた。
「マーティンは教会の孤児院よ」
「孤児院? 無事行けたんだ?」
何故か不満そうに言うケイシーに首傾げながらレヴィが尋ねる。
「一度は子爵家まで来たたけど、その後お父様が送って行ったのよ」
「子爵様が態々?」
ケイシーの言葉にレヴィは目を丸くした。子爵が孤児を態々送るとは破格の対応だ。
「そうよ。精霊様が霧の結界の中にレヴィを閉じ込めたじゃない? 一緒にいたマーティンに何もしないとは限らないし、一人で帰して何かあったらいけないって、お父様が送って行ったのよ。精霊様相手ならお父様しか対応出来ないんですもの」
別に私はマーティンに一日くらい此処に泊めても良かったのよ。と不貞腐れている。
「にしても、本当に精霊は厄介だね。僕なんて完全に目を付けられちゃったし、此処にいる間何も無ければ良いけど」
レヴィが溜息を吐くと、ロイドが「そう言えば……」と何か思い出した様に言った。
「あの精霊、アナの事を知ってるみたいだったぞ」
「アナ様を? まあ、有り得ない事ではないけど……」
何せアナスタシアについては知らない事が多い。
「レヴィはアナから何か聞いて無いのか?」
「特に何も聞いてないよ。ロックウェルの泉に住んでるって事しか……」
「そう! そのロックウェルの泉何だけど……、私達リード領の入口いたじゃない?」
ケイシーが二人の会話に割り込む。
「何故か、ロックウェルの泉に転移させられてたのよ」
「!」
レヴィはケイシーの言葉に唖然とした。
──全然気付かなかった……。
「じゃあ、あの結界は目眩ましだったの?」
「みたいだな」
ロイドの言葉にレヴィは更に目を丸くした。
「ロイドも気付かなかったの?」
「同じ水の匂いがずっとしてたからな……」
ロイドがムッとした表情で言う。余程面白く無かったのだろう。
──本当に上級精霊なんて厄介だ。感知能力の高い人狼であるロイドが気付かないなんて。この様子だとロイドが人狼だって事もバレているだろうな。
コンコンと扉を叩く音が聞こえた。「誰?」とケイシーが尋ねると「私だ」と扉の向こうから男性の声がした。
「お父様が戻られたみたいだわ!」
声の主はケイシーの父親──ルイス・リード子爵だったらしい。扉を開けると背の高い赤毛の男性が現れた。
「お父様早かったのね」
「ああ、無事に送って来たぞ。そっちも起きたみたいだな。もう大丈夫か?」
ベッドから起き上がったレヴィを見てルイスが言うと、レヴィは頷いた。
「さあ、ケイシー。俺もお前達に聞きたい事がある。聞かせてもらえるかな?」
にこりと威圧的に笑うルイス子爵にケイシーの表情が引き攣った。




