悪魔使いは悪役令嬢を仲間にする③
ロイドとレヴィが見習いとしてそれぞれの持ち場に配置されたという事をエミリアはオーガストから報告を受けた。
「随分とあの新しい使用人達の事を気になさっていますね。エミリア様」
オーガストを退出させた後、乳母のモリーがエミリアの気安く話し掛ける。モリーは、この屋敷で唯一エミリアの父が侯爵になる前から仕えている。
「別に。この家の主人として把握したいだけよ。元が孤児だから、盗みでもしないか見張ってるだけ」
「まぁ、あの綺麗な男の子は気になりますものね」
「そんなんじゃないわよ!」
エミリアは頬を膨らませる。どちらかといえばエミリアが気になったのはあの黒髪のレヴィの方だ。何が気になるのかはよくわからないが。
ふふふ。と穏やかに笑う。エミリアとこんな風に話せるのは彼女だけだ。
「しかし、本当にどうされたんです? 今まで使用人の事になんて気にかけませんでしたのに」
「最近、使用人の入れ替わりが多い気がして」
不思議そうに訊ねるモリーにエミリアが答えるとモリーは目を見開いた。
「気付いていらっしゃったのですか? 元々入れ替わりが多いので気付いていらっしゃっらないかと思っておりましたのに」
「多いといっても半年か一年に一人か二人だったでしょう!? こんなに頻繁に人が変わるなんて無かったわ!」
憤慨するエミリアにモリーは冗談ですよと嗜めると真面目な顔になる。
「確かにおかしいですね。半年前にいなくなった子も3ヶ月前に居なくなった子も前触れもなく急に居なくなったようですし」
今度はエミリアが目を見開いた。
「居なくなった? 辞めたのではなくて?」
「えぇ。どちらも若い子だったので仕事が嫌になって逃げ出したのだろうという事になったのですけど。そんな素振りも無かったので、おかしいとは思ったんです。私はあまり関わりが無い子達でしたし詳しい事は分かりませんが」
モリーが眉をひそめる。そして何か思い当たる事があったらしい。
「そう言えば、居なくなった子達は私やお嬢様と関わりが少ない子達でしたわ。それも若い子達ばかり。……私、少し辞めた子達について調べてみます」
「そうね。お願いするわ。それと、あの新人達も見張っておいて欲しいわ」
「畏まりました。お嬢様」
モリーは恭しくお辞儀をし、退出した。
◇◇◇
「全くお嬢様は人使いが荒い……」
モリーは呟いた。まぁ、自分が好きでやっているのだがと、口元に笑みを浮かべた。それに屋敷の使用人は新しく入った者が多く、お嬢様には自分以外に信用出来る人間がいないのだから仕方ない。
数日掛けて居なくなった使用人達を調べていた。使用人達の雇用を管理しているオーガストに訊ねれば早いのだろうが、今はオーガストに隠れて調べている。単に面倒事を避ける為だったが──。
そもそもモリーはオーガストがイマイチ信用出来なかった。仕事振りも真面目だし、不満が在るわけではなかった。ただ、何となく胡散臭いのだ。オーガスト自身も新しく入った使用人の一人で、以前はロナルドという先々代からノースブルック侯爵家に仕える老齢の執事がいた。ロナルドは何かと誤解されやすいエミリアにも良くしてくれていたのだが、エミリアの父に解雇されてしまったのだ。
その後に来たのがオーガストだ。そして、オーガストが来てから頻繁に使用人が居なくなるようになった。
怪しいわ──。オーガストが裏で何かしている?居なくなった使用人達は何処へ?不味い事にならなきゃ良いけど……。
一抹の不安を胸に抱き、モリーはエミリアの元に急いだ。
「モリーさん?そんなに急いでどうしたんです?」
突然、背後から声を掛けられモリーは肩をびくりと振るわせる。恐る恐る振り返るとそこには、最近新しく雇った使用人の一人──レヴィがいた。
「あら、レヴィ。貴方こそどうしたんです」
レヴィはあははと苦笑いしながら頬を掻く。
「そのロイドを見ませんでした?」
「ロイドって、あの銀髪の? 見ていないわ……もしかして居なくなったの!?」
「いっいえ! 休憩なので一緒に食事を取ろうかと思って探してたんです。断じてサボったりしてる訳では!!」
レヴィは"居なくなった"を"サボっている"と勘違いしたらしい。慌てて否定する。その様子にモリーは「居なくなった訳では無いのね」とほっと胸を撫で下ろした。
「そう、なら良かった。食堂で待っていればその内来るんじゃないかしら」
「そうですね。行き違いで食堂にいるかもしれません。……あのモリーさんも急いでいらっしゃったのに、引き留めてしまって申し訳ありませんでした。もしお手伝い出来ることがあればいつでも仰って下さい」
「えぇ、何かあれば頼むわ」
申し訳無さそうにするレヴィにいいのよと声を掛けてその場を後にした。
モリーの姿が見えなくなった後、レヴィはモリーの出てきた部屋の扉の前に立ち少し首を傾げた。
「ここは……」
オーガスト執事の執務室だ。乳母のモリーが執事であるオーガストに用があるのはおかしい事ではない。だが、今オーガストは所用で出掛けている。その事をモリーが知らないはずはない。
「主の居ない部屋に何の用が……」
ふと、モリーの言った言葉が気になった。
モリーさんは"居なくなった"と言っていた。その時僕は"サボっている"と言われたと思ったが、その後、"なら、良かった"とも彼女は言った。もしかして、使用人は解雇されたのではなく、居なくなっている?それに執事のオーガストが関わっていると?
そこまで考えてレヴィはニヤリと笑う。
「何だか面白い事になりそうだね、ロイド」
すると、すっと物陰からお仕着せを着たロイドが現れる。
「それより、俺は腹が減った。早く飯が食いたい」
「待たせてごめんね。さぁ、食堂に行こう」
二人は踵を返して、食堂に向かった。




