悪魔使いは霧の中⑥
「お父様!?」
「ケイシー? それにマーティンも!? お前達どうしてこんな所にいるんだ!?」
ケイシーは突然現れた父──ルイス・リードを見て固まった。ルイスの方も何故娘であるケイシーが此処に居るのか分からず戸惑っているようだ。
「どうしてお父様がいるの!?」
ケイシーが叫ぶように尋ねるとルイスは怪訝そうに眉を顰めた。
「どうしてって……。空を見ろ。お前達こそあれを見て何とも思わないのか?」
「空?」
ルイスが頭上を指し示す。ケイシー達は空を見上げた。すると、朝は澄み渡っていた筈の空を暗雲が覆っている。その雲は霧の中心部に向って渦を巻いている。
「何よあれ……」
──普通の雲じゃないわ。 霧に覆われていたとしても、どうして気付かなかったのかしら……。
ケイシーは肌が粟立つのを感じた。
「──レヴィ」
空を呆然と見つめるケイシーの横でロイドが小さく呟いた。ケイシーが横目でロイドを見ると酷く難しい顔をして考え込んでいる。
──レヴィに何かあったのかしら!?
「ねえ、ロイド……」
「ケイシー、その子は? お前達の仕業なのか?」
一抹の不安を感じながらケイシーがロイドに話しかけようとした。しかし、ケイシーがロイドに問いかけるよりも早くルイスによってその言葉は遮られてしまった。ケイシーがルイスに視線を移すとルイスはロイドを睨む様に見ている。ケイシーは小さく溜息を吐いた。
──もう! どう説明すればいいのよ!
ケイシーは心の中で悪態をつく。
「彼はロイド。私達がノースブルック領からリード領まで一緒に来てくれたの。もう一人いるのだけれど、精霊様に結界の中に閉じ込められたみたいなの」
ケイシーの説明にルイスが目を丸くする。
「精霊様に!? またどうしてそんな事になっているんだ!?」
「知らないわよ! そんなの精霊様に聞いてよね!」
「教えてやろうか?」
「さっさと教えなさいよ!」
突然割り込んだ声の主に、ケイシーとルイスはピタリと固まった。二人揃ってギギギと首だけを声のした方向に向けると、紫がかった銀髪の美しい御仁が宙に浮いている。
「せ……精霊様?」
「嘘?」
呆然するルイスとケイシーを上から眺めながら精霊様──ウンディーネは楽しそうに笑った。
「おや? 赤毛のが二人おるな」
唖然とするケイシー、マーティン、ルイスを面白そうにウンディーネは眺めている。
「おい、レヴィを結界から出せ」
ロイドが唸るような低い声で言うと、ウンディーネは眉を顰めた。
「犬如きがキャンキャンと五月蠅いのう。そう威嚇せんでも直ぐに出してやるつもりじゃ」
「なら早く……むぐ」
「精霊様、お願いします!」
更に突っかかろうとするロイドの口をルイスが慌てて手で塞いぎ、ロイドの代わりに頭を下げる。冷や汗をかきながらケイシーがウンディーネを見ると、ウンディーネは特に気にした様子もないのでひとまずほっと胸を撫でおろした。ウンディーネが軽く手を振ると、あっという間に霧が晴れる。それに続いて暗雲も消えていく。
「レヴィ!」
霧が晴れた途端ロイドがルイスを振り払い一目散に走り出した。ケイシーとマーティンもそれに続く。
レヴィがいたのはロイド達がいた場所から大して離れていなかった。ロイドは駆け出して直ぐの場所で、レヴィが木に背中を預けて座っているのを見つけた。
「レヴィ!?」
「レヴィ!」
木に背中を預けぐったりとしているレヴィにケイシーとマーティンは顔を青褪めさせた。意識の無いレヴィをロイドがレヴィを軽く揺ると、レヴィは目を薄く開いた。
「ん……、ロイド?」
目を覚ましたレヴィがぼんやりとロイドを見る。まだ、意識がはっきりしないようで頭を軽く振っている。
「精霊様、何故この様な事をなさったのですか?」
子供達の後を追いながらルイスが、フラフラと宙を漂うウンディーネに問かけた。
「何処ぞの魔女のお気に入りだそうだからな。少しばかり遊んでやっただけじゃ」
ふんとウンディーネが拗ねたように言い放つ。
「魔女?」
ルイスが訝しげに眉を顰める。
「御主には話した事は無かったかの?」
「アナの事か?」
ウンディーネとルイスの会話にロイドが割って入った。ロイドはレヴィを背中に抱えていた。その後ろには心配そうなケイシーとマーティンがいる。
「アナ……? そんな名前だったかの? そうだったかもしれん」
「その子は大丈夫なのですか?」
「少しばかり当てられただけじゃ、休ませれば良くなるじゃろ」
ウンディーネは面白く無さそうに、ロイドに担がれたレヴィを一瞥すると、さっと消え失せてしまった。ルイスははぁと溜息を吐くと、子供達の方を見て告げた。
「全くあの方は……。まずは私の屋敷へ話はそれからだ」




