悪魔使いは霧の中⑤
──白い。霧?
炎の魔法を使おうとした途端、霧に包まれた。レヴィは視界の悪い状況での魔法の発動を危険と判断し直ぐに止めた。
──精霊の気配は無かった。
レヴィは眉を顰めた。
「ロイド! ケイシー! マーティン!」
3人の名前を叫んで見るが、反応も気配もない。霧の中を彷徨いながら、レヴィは考えを巡らせる。
──これ、結界? リード領には上級精霊が住んでるって聞いてたけど、これも精霊の仕業なのかな? まだ、リード領の入口だっていうのに……。
レヴィ自身、悪魔使いである以上悪魔を嫌う精霊からの何かしらの反応は予期していた。しかし、少々早すぎる反応に流石のレヴィも戸惑った。精霊が住むと言われているのはロックウェルの泉、リード領の入口とは位置的に離れていた筈だ。
「此処からどうやって出よう」
此処で魔法を発動させて無理矢理結界を壊すという方法もあるが、ロイド、ケイシー、マーティンと分断されており、正確な居場所が分からない以上、3人に危害を加えてしまう恐れもある為避けたい。
──骨が折れそうだ。
レヴィは小さく溜息を吐いた。
「グルルルゥ……」
影の中で犬が唸り声を上げる。どうやらレヴィを結界内に閉じ込めたことが気に入らないらしい。何時もは静かに隠れているというのに今は随分と苛立っている。
「落ち着きなよ」
レヴィが影の中の犬に話しかけるが、興奮した状態で影の中を蠢いている。
──これってあんまり良くない状況かも?
比較的マイペースなレヴィにしては珍しく少し焦っていた。レヴィは上級精霊に遭遇したことが無い。精霊使いのロベルトの使役する精霊はせいぜい中級だろうと予測していた。中級でも珍しい方なのだが、リード領にいる相手は上級精霊、力量も段違いでどんな手を使うか分からない事から危機感を持っていた。
──何だか少し頭がぼんやりする。これも結界の影響?
レヴィは近場の木に背を預け、小さく溜息を吐いた。
◇◇◇
ロイドはくんくんと匂いを嗅いでいた。
「どう?」
マーティンとケイシーが不安そうにロイドを見る。
──水の匂いが充満している。レヴィの匂いが追えない。結界のせいか……?
「駄目だ。レヴィと俺達で分断したらしい」
「「えっ!?」」
呆然とするケイシーとマーティンを横目にロイドはチッと舌打ちをする。
──ただ、そこまで悪意を感じないのが幸いか……。
ロイドの予想では結界の雰囲気から、ただ分断──特にレヴィだけを切り離す事を目的としているように感じた。でなければ、ロイドがケイシーやマーティンとともにいる事に説明がつかない。
「ただの悪戯か、試しているんだろうな」
「悪戯って何よ!?」
「試す?」
「俺に一度に聞くな。分かるわけ無いだろ」
二人に一度に問われロイドはまたチッと舌打ちする。
「レヴィは大丈夫なの?」
マーティンが心配そうにロイドに問いかける。
「本気を出せば、レヴィならこれくらいの結界は敗れる」
「本当?」
マーティンが心配そうに尋ねる。
──まあ、俺だけならの話だが。
ロイドはレヴィは魔法の制御が上手くない事を知っている。頑丈な人狼であるロイドだけならば、まだしもケイシーやマーティンがいる以上、強力な魔法を使う事は無いだろう。
「俺らは俺らで結界を張ってる奴を見つけるぞ」
「見つけるってどうやってよ!?」
キーキー噛み付くケイシーをロイドが睨みつける。
「此処の上級精霊はお前達、リードの一族に加護を与えてるんだろ? お前こそ何か知らないのか?」
「知らないわ……。精霊様と会えるのは基本リードの一族の長、リード子爵だけよ」
「使えない」
ロイドが吐き捨てる様に言うと、ケイシーはバツが悪そうに顔を歪める。一応気にはしているらしい。その時、ロイドの耳に遠くで誰かを呼ぶ声が聞こえた。ロイドが耳を澄ます。
「ロイド?」
「どうしたの?」
ロイドはシッとケイシーとマーティンに黙るように促した。
「……さま! 精霊様!」
──聞こえた!
ロイドの耳が精霊を呼ぶ声を捕らえた。
「こっちだ」
「ちよっ!?」
ロイドはケイシーとマーティン連れ、声の聞こえた方向に向かった。
ロイドに引っ張られるまま、ガサガサと森の木を掻き分けて行くとそこにはケイシーの最もよく知る人物がいた。ケイシーは目を丸くしてその人物に向って叫んだ。
「お父様!?」
ケイシーが見つめるその先には、ケイシーと同じく燃えるような赤毛の男性が立っていた。その男性はケイシーを見るなり蒼い瞳を大きく見開いて叫んだ。
「ケイシー? それにマーティンも!? お前達こんな所で何をしているんだ!」
この男性こそ、ケイシーの父であり、現リード家当主──ルイス・リード子爵であった。




