悪魔使いは東を目指す⑦
ランドルフ領の城塞都市に着いてすぐ一行は宿を取った。近道をしているとはいえ、かなりハイペースで進んでいる。
──ちょっとやり過ぎちゃったかな?
宿の部屋で疲れ切っているケイシーとマーティンの様子を見て、レヴィは少しだけ反省した。リード領はここから馬車で約一日程度の距離だ。明朝早く出発するが、二人は大丈夫だろうかと心配になる。
元々、ランドルフ領を通過する際、ロベルトに頼まれた情報収集をする為に二人とは別行動を取りたくて、ロイドに態と無茶をさせたのだが、やはり少々無理があったようだ。その二人は現在、ロイドに任せて宿に置いて来ている。ロイドの方も大人しく様子を診ている事から少々やり過ぎたと内心思っているのだろう。
そして、当のレヴィ自身は馬車で乗り合わせたあの老人が教えてくれた薬屋【宿り木】に向かっていた。
──【宿り木】ねぇ……。
レヴィはヤドリギという言葉を思い浮かべる。
ヤドリギと言えば寄生樹の一種で、その葉や枝を乾燥させ煎じて飲めば神経痛などに効果がある。あの老人がよく効くと言っていた腰痛の薬ももしかするとヤドリギを煎じたものかもしれない。寒い地方でも育つ樹木で手に入りやすい植物であるし、アーロン山脈の山間でもよく見かけた。よく使われる薬なので特に不思議は無いのだが、少しだけ引っ掛かった。老人曰く、店主は元行商人だったらしいが、何年か前に店を構えたそうだ。薬の効果も上々で評判も良いらしい。
──アーロン山脈は元々珍しい薬草や山の綺麗な水も豊富。嘗て、《魔女の国》があった場所は──。
レヴィは思考を巡らせる。《魔女の国》は珍しい薬草や澄んだ水が豊富だったと言われている。特に《森の民》と言われる薬草の知識が豊富な一族が占めていたそうだ。彼等は自然や精霊を信仰していたらしい。精霊信仰であったにも関わらず、何故魔女とされていたのかはレヴィはよく分からない。そもそも、レヴィには信仰そのものがよく分かっていない。レヴィは《悪魔使い》だが、決して悪魔を信仰している訳では無い。《悪魔使い》の素養があっただけなのだ。
──今、そんな事を考えても仕方ないか。
考えを打ち消す様にレヴィは頭を振った。それから、深く被ったローブの隙間から周りを見回す。街の彼方此方に医院や薬屋が点在しているのが分かる。
「やっぱり他の街より医者や薬屋が多いな」
レヴィが呟いた。ランドルフ領は大体50年毎に疫病が発生している地域だ。その為か医療の整備や技術が他の領地よりも充実していて王都に引けを取らない程だそうだ。フォーサイス王国は精霊使いが多いとはいえ精霊使いのいる治療院は少なく、軽い風邪などは普通の医者に診てもらうのが一般的だ。
──異変がある様には見えないけど……。
街自体は活気がある。閑散としていたノースブルック領から来たせいか余計に活気がある様に見える。宿から少し歩いただけでも分かるが、街自体もきちんと整備されており、貧困街やスラムが出来ている様に見えない。
──一旦、リード領に行ってからの方が良かったかな?
レヴィは一瞬浮かんだ考えを直ぐに打ち消した。
確かにリード領に一度行ってからノースブルック領に戻る際に情報収集をするという方法もあった。しかし、先にランドルフ領を見ておきたかったのは、先入観を持ちたくなかったからだ。
どういう意図でどの程度の結果をロベルトがレヴィに望んでいるのかは分からない。しかし、頼まれたからにはある程度、満足のいく結果は出したいとレヴィは思っている。それが最終的にエミリアの為になるのなら尚更だ。
エミリアは噂通りの悪役令嬢では無かったが、実はレヴィはまだ諦めていなかったりする。
──今は違ってもこれから悪役令嬢になるかもしれないしね! 僕の輝かしき悪の魔道士への道はある!
等とロイドならば賞賛をケイシーならばツッコミを入れられそうな事を考えながら、整備された石畳の道を歩いていくと蔦の巻き付いた木の絵が描かれた看板が見えた。窓には薬草が干してあるのが見える。
──ここが薬屋【宿り木】かぁ。
緑の屋根をした外観は至って普通の薬屋だ。扉を開けると中から薬草独特の匂いがした。中で薬を作っている様だ。
「いらっしゃいませ」
店主らしきエプロン姿の青年が愛想の微笑みこちらを向いた。




