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悪魔使いは悪役に憧れる  作者: 空色
第二章
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悪魔使いは東を目指す⑥

 ──6日目。


 一行はアーロン山脈を越えてランドルフ領に入った。現在は山の麓からランドルフ領中心部を目指して乗り合い馬車に揺られている。ケイシーとマーティンは酷くぐったりとした様子である。そんな二人を挟むようにしてレヴィとロイドが座っている。


「あの嬢ちゃんと坊っちゃん大丈夫かい?」


 乗り合わせた老人が心配そうに尋ねる。


「大丈夫。慣れない旅で疲れてるんだよ」


 笑顔でレヴィが言うと、ケイシーは恨めし気にレヴィを睨む。しかし、気力が無いのかすぐにぐったりとした様子に戻ってしまった。その様子にレヴィは苦笑いを浮かべた。


 ──良くあれで気を失わなかったわよね。本当に自分を褒めてあげたいわ。


 ケイシーはアーロン山脈の3日間を思い出しながら遠い目をした。


 アーロン山脈に入って初日の崖登りも恐ろしかったが、3日間を通して本当にあれは()()()()()だったと痛感した。山脈の頂上付近まで1日半かけて行き、ランドルフ領を見渡せる素晴らしい絶景を見た後、ケイシーとマーティンは一気に地獄を味わった。いよいよ山脈を下ろうという時、ロイドが3人を乗せて立っていたのはほぼ垂直な崖。


『ここを降りるわけじゃないよね……?』


 マーティンがレヴィとロイドに恐る恐る尋ねた。聞くのが怖い、聞きたくないと思いつつも聞かずにいられなかった。その答えは勿論、


『え、そうだけど?』


 の一言だった。

 そして、その言葉と同時にロイドは勢い良く駆け下りていった。岩の突き出ているから岩へと飛び移っていくのだが、急斜面を走り抜けていく為、ほぼ落下しているようなものだった。兎にも角にもひたすらロイドにしがみついて気づけば山の麓に降り立っていた。山を降りた後、暫くの間ケイシーとマーティンは放心状態だった。

 ただ、唯一良かった事は食事と寝床だ。

 ロイドの鼻と耳で確実に水場は確保されていたし、レヴィは野兎や鳥を何処からかしれっと捕まえてきてくれるので温かい食事が食べられたし、夜は冷え込んだがロイドのふかふかの毛のおかげで野宿にも耐えられた。異常な登り降りを除けば快適だったといえるだろう。


 さて、とレヴィがケイシーとマーティンを見据える。


「──これから行くのはランドルフ領で一番大きな街だから、薬草を換金しようと思うんだ。高く売れたら何か美味しいもの食べよ?」

「…………」


 ケイシーとマーティンは喋る元気も無いらしく、無言で小さく頷いた。


「折角珍しい薬草が採れた事だし、時間があれば調合してみたかったんだけどな」


 薬草を手で玩びながらレヴィが呟くと、ケイシーが目を大きく見開いた。


「レヴィ、アンタ薬も作れるの?」

「まぁ、簡単なものなら……。薬って何処に行っても必要とされるものだから、覚えておくといいよって僕の師匠が言ってたんだ」


 そういえば、レヴィはノースブルック領でオーガストを捕える時、妙な()を使っていたと執事のロベルトが言っていたわねと思い返す。


 ──アレも自分で作ったのかしら?


 ケイシーがそんな事を考えている横で、レヴィは老人に話し掛けていた。


「ねぇ、お爺さん薬草を卸せる場所は無いかな? 出来れば高く買ってくれる所が良いんだ。あの二人が元気になるように美味しものでも食べたいし」

「おお、そりゃいいね。薬草店に卸すか、薬師に直接卸すか……。薬師ならあそこがいいぞ。腕がいいのがいるんだ。確か薬草も多く扱っていたから珍しいものなら買ってくれるんじゃないかい?」


 どうだろかね? と老人はレヴィに言った。その老人は良く腰痛の薬を貰いに行っているらしい。


「そのお店って?」

「薬屋【宿り木】って言うんだ」

「へえ……、【宿り木】かあ。ありがとう! 行ってみるよ」


 ケイシーは目聡くレヴィが一瞬だが雰囲気が変わるの感じ取った。しかし、すぐにもとのヘラヘラした陽気な雰囲気に戻ってしまう。レヴィは本当に不思議な子だとケイシーは思う。たまにだが、ぞわりとすることがある。


 ──何ていうか。上手く言えないけど、この感じ覚えがあるのよね。人間ぽくないっていうか。まるで──


「ケイシー様どうかしました? もしかして具合い悪くなりましたか?」


 そこまで考えて思考を遮られた。気付けばマーティンが横から心配そうに覗き込んでいた。そう言うマーティンの方がぐったりとしていて具合いが悪そうだ。


「何でもないわ。マーティンこそ顔色悪いわよ。人の心配なんかしないでゆっくり休んでなさいよ」


 ──疲れてるから余計な事を考えるのよ。人外(ロイドみたいなの)がそうホイホイいてたまるもんですか。


 ローブを深く被って寝ているロイドをチラリと見た。頭を大きく振って余計な考えを頭の隅に追いやる。


「私ももう少し休むわ」


 ──そうよ疲れているせいよ。


 ケイシーは思い直して座り直した。


 そうして日が高く登る頃一行はランドルフ領で一番大きな城塞都市に辿り着いた。




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