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悪魔使いは悪役に憧れる  作者: 空色
第二章
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悪魔使いは東を目指す④

 木々の生い茂る薄暗い街道を1台の馬車がノースブルック領から罪人の収容所に向けて駆けていく。馬車は罪人の護送用の馬車で後ろ側が二つの檻の様な形になっており、中が丸見えになっている。檻の中には11人の罪人が入れられている。御者代わりの兵士が馬車の前に二人と護送用の馬車の後ろから馬に乗った4人の兵士が周りを囲う形で走っていた。


「──なぁ、気味悪くねえか?」


 一人の兵が徐ろに口を開いた。


「何がだよ」


 もう一人が面倒臭そうに返すと、最初の一人が視線だけを動かし、護送車の中を見た。檻の中で恰幅の良いの男が「貴様のせいで! 貴様がしくじったせいだ!」などと喚いている。


「仲間割れか?」


 ウンザリとした顔で喚く男を見る。もう一人の兵が「いや、そっちじゃない」と細身の灰色の髪の男を指した。その男は胡座をかいた状態でずっと俯いたままだ。


「なぁ、気付いているか? アイツさっきから一言も喋んないし動きもしねえだよ」

「まさか死んでねえだろうな」

「確認はした。生きてはいるみたいだぜ」


 コソコソと話しながら、様子を見守る。幾ら罪人でも、収容所に着くまで勝手死んでもらっては困る。


「アイツらノースブルック侯爵を騙した詐欺師共

 だろ」


 二人の兵士の会話を聞き、別の兵士が話に混ざって来た。


「人身売買って話だぜ。餓鬼共攫って売ってたみたいらしい」

「そりゃあ、極刑じゃねえか。それで──」


 その時、ガコンと鈍い音がした。車輪が何かに乗り上げたらしい。馬車が止まる。


「チッ、ついてねぇな」


 悪態を付きながら馬から降りて一人の兵が車の様子を見に行くと、車輪が地面から出た岩に乗り上げており、動かすのは難しそうだ。


「不味いな。おい、こっちに来てくれ!」


 他の兵を呼んで、車輪を動かそうとするが全く動く気配がない。余り手間取っていると日が暮れてしまう。馬車が止まった場所は丁度町と町の街道の中間地点で人通りも少ない上薄暗く気味が悪い。助けを呼ぶのも難しい。このまま日が暮れて罪人達と野宿など遠慮したい。


「──なぁ、あいつ等にも手伝わせないか?」


 一人の兵士がそう言って、罪人たちを見た。


「逃げられたらどうすんだよ」


 別の兵が眉を顰める。


「縄で腰を縛ってるし、足枷も着けてるから大丈夫だろ」

「動かなけりゃどっちみち此処で野宿だぜ」

「あとでばれても知らないからな」


 最後まで渋っていた兵士も最終的に了承し、罪人達に手伝わせる事になった。檻の鍵を開けて罪人達を出す。


「逃げようなどと思うなよ」


 そう言って、罪人達を檻から一人二人と出していく。最後に一番奥に座っていた細身の男を引っ張り出した。


「此れで全員──」


 そう言い切る前に、その兵は息絶えていた。首から上がスッパリと無くなっていたのだ。ゴトリと落ちた首から上は何が起きたか分からない表情のまま固まっている。綺麗に斬られた断面からは赤い血が噴水の様に吹き出していた。


「ひぃぃっ!!」

「ひえっ!?」


 突然の出来事に兵士と罪人達が数秒遅れて悲鳴を上げた。細身の男の手には何時の間にか兵の腰に挿していた剣が握られていおり、其の刃は血で赤く濡れている。腰を縛っていた筈の縄も、足枷も何時の間にか外れている。


「きっ、貴様!」


 一人の兵士が男に斬りかかろうとする。それを皮切りに他の兵士達も男を攻撃しようと剣を振るうが難なく避けられて、男は剣を振り上げた兵士の腹をすれ違いざまにばっさりと斬りつけていく。男はあっという間のに兵士全員を斬り殺してしまった。男は今度は罪人達へ向き直る。


「ひぃぃっ!」

「逃げろっ!」

「助けてくれっ!」


 身の危険を感じた罪人達は情けない悲鳴を上げながら散り散りになって逃げようとするが、縄で繋がれている為に逃げる事が出来ず、転げている。その間にも男は剣を振るい、罪人達も刺し殺していく。赤い血飛沫が男を染めていく。赤い血溜まりが広がり、男は最後に赤い血が滴る剣を喚き散らしていた恰幅の良い男に向けた。


「ひぃっ! たっ、助けてくれ、オーガスト!」


 オーガストと呼ばれた男は、にんまりと口角だけを上げて嗤う。


「不思議な事を仰るのですね。何故、()()()を助けなければならないのですか? ダレル」


 そう言って、オーガストは剣を振った。断末魔が木霊する。ダレルの額が割れ血が吹き出した。

 兵士と罪人達の血で真っ赤に染まったオーガストはダレル達の死体を無表情で見下ろす。道には彼らの血で赤い水溜まりが出来ていた。


 ──今回は、イレギュラーな事態が起きた事で失敗しましたが次こそは挽回せねばなりませんね。()()()()()も行方知れずのままです。せめて《精霊の武具》だけでも揃えなくては……。にしても、あのレヴィという子供と人狼。特に、あの人狼は一体何処からやって来たのか。考え過ぎかもしれませんが、あの魔女が邪魔しているのでしょうか? 役立たずは始末致しましたし、早く()()()に次の指示を仰がねば──。


 身支度を整えるとオーガストは兵士が乗っていた馬に飛び乗り駆けて行った。


 その場には、1()1()()()()()()5()()()()()の死体が血溜まりの中に転がっていた。

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