悪魔使いは悪役令嬢を仲間にする⑱
それは、とレヴィは続けた。
「ロベルトさん、前侯爵様は輪作をしようとしていたのではありませんか?」
レヴィがロベルトを見る。
「──そうですが、貴女の考えを聞かせていただいてもよろしかな?」
「まっ、待った! 輪作とは何だい?」
「私達にも分かるように説明してくれないかしら?」
馴染みのない言葉に不思議そうな面々を見たあと、ロベルトがレヴィに説明を促した。
「まず、輪作と言うのは一定のサイクルで別の作物を育てる事です。主に土地の活用や肥料のバランスを整える為に行います。侯爵領では同じ土地でずっと同じ作物だけを栽培していたのではありませんか?」
「それは此そうさ。此処の名産は小麦だし、今までずっと同じものを栽培してきた筈だよ」
当然だろうとばかりに侯爵が答える。
「それが土地が痩せた原因だったのです」
とレヴィが答える。それなら、と侯爵が続けた。
「土地が痩せたなら肥料を増やせば良いのではないかい? ノースブルック領は元々土地が痩せているし肥料は多く使っていたと思うけれど……」
「単純に肥料を増やせばいいということでは無いのです」
「それはどういう事かしら?」
エミリアが不思議そうに尋ねる。土地が痩せているなら肥料を与えてやればいい。道理に合っているように思われた。
「人が食べ過ぎると身体に良くないように、植物も肥料を与え過ぎると根腐れを起こしたり、害虫が増えてしまうのです」
「ああ! 農夫のおじさんが言ってた事って、この事だったんだ」
農夫ゴードンとのやり取りを思い出したコリンが呟くと、レヴィが頷いた。
「恐らく、前侯爵は最初土地を肥やす為に肥料を増やしたのではありませんか? それが逆効果になってしまった。違いますか?」
「そうです。苗が枯れてしまったり、害虫が出てしまいました。試行錯誤した結果、行き着いたのが輪作と言う訳です」
「他にも名産品を増やそうとしていたのではありませんか? 家畜の飼料になりそうなものばかり植えられていましたよね? 家畜──牛ならば、肉に、乳、後は乳や皮を使った加工品が出来ますから。冬に雪深いこの土地で冬に出来る仕事を増やす意味合いもあったのでしょう」
「輪作と大叔父様がしようとしていた事については何となくだけど分かったわ。でも、何故来年は豊作になると言えるのかしら? 今までは上手くいかなかったのでしょう?」
エミリアが首を捻る。来年豊作になるならば、もっと早く結果が出ていても良さそうである。
「それは、コリンが牛の世話をするようになったからです」
「オイラ? あっ、もしかして……」
「そう、コリンが来るまでは厩番が牛の世話をしていました。コリンが来てからは耕す人のいない畑に牛を放牧する様になりました。牛が余分な雑草を食べ、糞をする事でそれが肥料になっています。結果的に前侯爵様がしようとしていた土地を休める事に繋がっている。だから、休めた土地で栽培すれば、来年は豊作になると思いました」
ロベルトが満足そうにレヴィを見て頷いた。どうやら答え合わせは合格点だったらしい。レヴィは小さく息を吐いた。知らず知らずの内に肩に力が入っていたらしい。
──これがヨハンなら小言の一つでも云われそうだけど。
ふと、レヴィの頭に養父の姿が浮かんだ。今頃何をしているだろう。怒り狂っていなければいいなとレヴィはぼんやり思う。
「──凄いな。魔女、いや、悪魔使いというのは誰でも農業にも精通してるのかい?」
「まさか! 本で読んだ知識だけですよ。酪農なんかはコリンの方が良く知っていると思いますよ」
「本で読んだだけですか……。にしても、旦那様は全く他に言う事は無いんですか? これは侯爵である貴方が気付くべき事なのに子供に諭されるなんて」
呑気に感心する侯爵にロベルトが肩を竦めてみせると、侯爵は決まりの悪そうな顔をした。だが、これは前侯爵も考えていた事だ。遅かれ早かれロベルトは侯爵にこの方法を教えていただろう。オーガストが現れなければ、もっと早く土地を立て直す事は出来ただろう。
「い、いやぁ。僕は君の爪の垢でも煎じて飲まなければならないね」
「ええ、本当に。まあ、謙虚なのは良いことです。これから旦那様は、学ぶ事が沢山ありそうですな」
「うう」
呻く侯爵を一瞥すると、ロベルトは今度はケイシーに振り向いた。ケイシーが身構える。
「なっ何よ?」
「──ケイシー様、少し話があります」
「あっあの、ケイシー様は悪くありません! 僕がケイシーお嬢様に心配をかけたから」
「マーティンのせいじゃ無いわ! 私が悪いの!」
身分を偽って侯爵家に入り込んだ事を咎められると思ったのか、マーティンが慌ててケイシーとロベルトの間に割り込むがロベルトはマーティンに穏やかに微笑んだ。
「ご心配無く、その事ではありません。話と言うよりお願いなのです」
「おっ、お願い? 私に?」
ロベルトにお願いと言われ、ケイシーは酷く面食らった。
「ケイシー様はリード子爵家のご令嬢で間違いありませんか?」




