悪魔使いは悪役令嬢を仲間にする⑯
「ロベルト、妖精の悪戯とは何かしら?」
「そのままの意味ですよ。ただ、今回のものは少し質が悪いようですが」
エミリアが少し首を傾げてみせる。
「質が悪いとはどういう事かしら?」
「正確には妖精でなく、悪しき妖精の仕業だからです」
エミリアは悪魔と聞いて、昼間の黒い塊を思い出して少しばかり背筋が寒くなった。あの部屋の隅に居た黒い靄もこそうでは無いかと思い至った。
「それは、どう違うのかしら?」
「一般的に妖精は気紛れで悪戯好きと言われています。しかし、意図的に人に害をなす様な事はしません。しかし、悪魔は淀んだ場所に湧き出ては、人に害をもたらすと言われています」
「でも、ロベルト、その悪魔は私を助けてくれたわ。どうしてなの?」
「それは、その悪魔が力のある者に使役されているからです」
ロベルトが視線だけをレヴィに向ける。つまり、その力ある者はレヴィの事である。
ロベルトがレヴィを見ると、レヴィは少し困った様に笑った。モリーに対してはぐらかしていたのは余り知られたくないからかも知れない。
「その……、ロベルトはレヴィが何者か分かっているの?」
「ええ、大方予想はついています。──レヴィ、貴女は魔女なのではありませんか?」
「魔女?」
エミリアはきょとんとした顔をする。なにしろエミリアの中では魔女はお伽話の中の存在だ。存在するなどという話は聞いたことが無い。
「魔女……、確かにそうですが、正確に言えば《悪魔使い》というのが正しいのですが」
ロベルトは、おや?と眉を顰める。
「それは、つまり、貴女はローズブレイド出身ですか?」
フォーサイス王国では、魔女も悪魔使いも一括にされている。嘗て、フォーサイス王国建国の際、強大な力を持つ魔女が力を貸したとされ、建国神話となっている。決して悪では無い。それに精霊使いのロベルトだからこそ分かる事なのだが、人に害する悪魔を本当の意味で従えるのはある意味至難の業、精霊使いよりも難しいといえる。
しかし、レヴィとロベルトの認識の違いはフォーサイス建国より以前に存在した魔女の国の考え方に由来しているのだが、それはロベルトの感知しない部分である。
ローズブレイドでは、神殿に属していない精霊使いも悪魔使い同様に魔女であり、契約している者によって呼び名が変わる。これは大昔にあった魔女の国の考え方に由来する。魔女とは、個を重視する存在で群れる事をしない。その為神殿に属する精霊使いは魔女から除外されるのだが。魔女の国が出来たのもただその場所が多くの魔女にとって都合が良い場所だっただけだ。だが、ローズブレイド帝国の侵略によって魔女達は散り散りに各地に散ってしまってい、それ以降多くの魔女達の消息は不明である。その理由は、精霊信仰根強い帝国が魔女を悪としたため魔女達はその存在を隠し、ローズブレイド帝国から遙か東の国に渡ったとも言われている。
「ローズブレイドの出身の魔女とは……」
ロベルトが何か考えながら呟いた。
フォーサイス王国は嘗てのローズブレイド帝国──現在のローズブレイド王国の神官一族が迫害される人々とともに興した国だ。その為フォーサイス王国とローズブレイド王国の人種は同じ人種で言語も似通っている。その為外見には差異は無いのだが、ローズブレイド人の多くが金や銀の色素の薄い髪の色が特徴である。なので、レヴィの様な黒髪はローズブレイド人としてはかなり珍しい。
「レヴィ貴方ローズブレイド出身だったの? 辺境の教会出身だと紹介状には書いてあったわよね」
「はい。でも、辺境の教会出身というのも本当です。僕は幼い頃に僕の養父と共に移民としてフォーサイスに移り住みました。だから、ローズブレイドにいた頃よりもフォーサイスにいるほうが長いですし、ローズブレイドで過ごした記憶も余り無いんです」
その為、ローズブレイド出身であるとは基本的に言わないそうだ。
「確かに、レヴィの年齢を考えるとローズブレイドで革命が起きた時期と被りますね。当時は、多くの移民がこの国にも流れてきていましたわ」
モリーは当時を思い出す。革命前のローズブレイドはかなり荒廃しており、犯罪も横行していた。革命を期に随分と多くの人々がこの国や周辺諸国に流れ込んで来たのも無理はないだろう。
「それにローズブレイドは精霊信仰が根強い。新しい王に代わってから、少し緩和はされているが、黒を不吉の象徴としていた筈です。そして、精霊の対局にいるとされている悪魔を使役する──悪魔使いであれば尚更異端の烙印を押されたでしょう」
──ローズブレイドでは黒は不吉の象徴。おまけに精霊信仰の根強いあの国で《悪魔使い》の素養があったのならば、忌避の対象とされただろう。それが理由でフォーサイスにやって来たという事だろうか。
「では、その希少な《悪魔使い》がどうして我が侯爵家にやって来たのかしら? 貴方は協力してくれているようだけれど、当家は名ばかりで、お世辞にも裕福とは言えませんわ。貴方にメリットがあるようには思えないのだけれど」
モリーが疑問を口にするとレヴィはニンマリと笑った。




