悪魔使いは悪役令嬢を仲間にする⑭
既に伸びていたダレルを捕らえるのは、実に簡単にだった。
その後、ダレルの仲間とオーガストを衛兵に引き渡し、囚われていたマーティンを含む少年少女達は保護された。行方不明になっている者達もダレル達が捕まった事で近い内に見つかるだろうとの事だ。
諸々の処理が終わる頃には、空は夜明けを迎えていた。
「ロベルト、この事を陛下に報告しなければならないわね。そうなると私達はお咎めを受けなければならないわ」
「お嬢様……」
エミリアは険しい顔で呟いた。その側で、モリーが労るようにエミリア肩を抱く。
「お嬢様、その前に先ずにノースブルック侯爵に事情を聞かなければなりません」
ロベルトは、何時からいたのか部屋の隅で小さくなっているノースブルック侯爵に冷ややかな視線を向けた。
「さぁ、旦那様話して下さいますよね?」
ロベルトはにこやかに微笑んでいるが、その背後はブリザードが吹き荒れている。その視線の先で侯爵はプルプルと子鹿の如く震えている。既に侯爵の威厳もへったくれも無い。元からそんなものは無かったが、「さぁ、旦那様」と詰められ更に可哀想なことになっている。
「お父様、話して下さいませんか?」
エミリアが涙で潤んだ瞳を侯爵に向けると、うっと喉を詰まらせる。
「……すまなかった。エミリア、ロベルト」
侯爵は青い顔で項垂れる。その様子にロベルトはふぅと溜め息を吐き出した。
「私に謝罪は必要はありません。旦那様が謝罪しなければならないのは、巻き込まれた子供たちです。……私は、当家の執事でありながら旦那様を諌める事が出来ませんでした。私が至らぬばかりに旦那様とノースブルック侯爵家を危険に晒しました。誠に申し訳ありませんでした」
侯爵がはっと顔をあげ、左右に大きく頭を振った。
「違う! ロベルトは悪く無い! 私が、ロベルトに認められたいばかりに勝手な事をしたからだ。私は何も知らず良い事をしていると思い込んでいた」
「お父様?」
「良い事とは?」
侯爵の言葉にエミリアとロベルトが怪訝そうな顔をする。
「オーガストに貧しい家の子供たちが良い仕事に就けるよう支援する事業をしてはどうかと提案されたのだ」
それから侯爵はポツリポツリと話し始めた。
侯爵は自分の能力不足に悩んでいた。そこに付け込まれたらしい。前侯爵に仕えていたロベルトに認めて貰う為にオーガストの提案にのってしまったのだ。
──貧しい家の子供や孤児などを一度侯爵家で雇う事で箔をつけてあげようって事かな?
侯爵の話を聞きながらレヴィは考えた。
オーガストは嘘は言っていない。実際に一度侯爵家で雇い、侯爵が次の職場に紹介状を書けば、普通に就職するよりも高い確率で良い仕事に着く事が出来る。但し、それも正しく機能していればの話だ。今回の様に侯爵家で働かせ紹介状を書くと見せかけて、ダレルの様な奴隷商人にひっそりと売りつける。侯爵家は奴隷商人達にとって都合の良い隠れみのとなっていたのだ。
──だからこそおかしい。
「──でしたら、何故オーガストはロベルトさんを排除しなかったのでしょうか? 捕えていたならば、排除する事も出来たはず。寧ろ排除した方が都合が良かったのではないですか?」
モリーもレヴィと同じ事を考えていたらしい。ロベルトに問いかける。
「オーガストには他に目的があったという事かしら?」
エミリアがロベルトの方を伺うと、ロベルトは神妙に頷いた。
「オーガストは当家の秘宝である《精霊の剣》を狙っていました」
「《精霊の剣》? ちょっと待て私はそんな物知らないぞ」
「言っていませんから」
あっさりと言い切るロベルトに侯爵は「なっ!?」と驚愕する。若干、涙目になっている。
「本来、《精霊の剣》は当主から次の当主に秘密裏に継承される物です。その存在自体、当主以外ほぼ知る人はいません。オーガストがどうやって知ったのかは謎ですが」
「では、何故ロベルトは知っているのだ?」
「私は、前当主から託されていたのです。前当主にはお子がいませんでした。だから、前当主に万が一があった場合でも正しく継承されるように私は前当主から管理を任されていました」
「──つまり、オーガストは《精霊の剣》の在り処を知る為にロベルトを生かしていたというのか……?」
──それだけの為に? と言うのが言外に透けて見えた。
──探すだけならば、ロベルト執事を排除した後でも出来た筈だ。リスクがあっても、そうしなかったのはロベルトさんが居なくなると剣の在り処が完全に分からなくなってしまうからだ。それは何故か──。
レヴィには、その心当たりがあった。
「──ロベルトさんは《精霊使い》ですよね?」
レヴィが唐突に口を開いた。一同は驚いてロベルトを見るが、ロベルトは面白そうに目を細めてレヴィを見た。「確かに」とだけ言ってその先を促した。




