悪魔使いは悪役令嬢を仲間にする⑫
屋敷の外が何やら騒がしい。
──モリーに何かあったのかしら。
エミリアはなかなか戻って来ないモリーが心配になり窓の外に注意を向ける。
ああ、これではいけないわ。モリーのための時間稼ぎなのに。
「外が騒がしい様ですが何かありましかな?」
「わかりませんわ。ねぇ、貴方少し外を見てきてちょうだい」
控えていたメイドに外を見に行かせる。
「先程から随分と外を気にしておいでのようだが、何か気にかかることでもありますか?」
「ええ、乳母がなかなか帰って来ないので何かあったのかと思いまして。彼女にも一緒に見てもらいたいのでもう少し待って頂けます?」
「それは構いません。しかし、今日はオーガスト執事の姿が見えませんな」
「ええ、オーガストには他にも仕事があります。私の我が儘で仕事を増やすわけには行かないから控えてもらったの」
淑女の仮面を被ったまま話を続けるが、エミリアは内心びくびくしていた。ダレルが使用人達を浚っていたのなら、ばれれば何をするか分からない。
普段からエミリアがダレルを嫌っていることに気付いているかもしれない。何か勘繰られる可能性もあり得る。汗ばんだ手をぎゅっと握りしめた。
暫くすると血相を変えたメイドが部屋に駆け込んできた。
「お嬢様!大変です! 馬よりも大きな狼が正門前で暴れています。ダレル様の、バチェラー商会の荷馬車の辺りです!」
メイドの言葉にエミリアは顔を青ざめさせた。バチェラー商会の馬車の辺りならモリーもいる筈だ。
「馬よりも大きな狼? まさか魔獣?」
「ここは辺境と言えどフォーサイス王国内ですぞ。魔獣が出るわけがありません」
「しかし、本当に大きな狼が……!」
戻って来たメイドはかなり慌てている。外も騒ぎになっているようだ。
フォーサイス王国は精霊王に護られた土地だ。国外に出れば魔獣が出ることはあるが国内に魔獣が全くと言って良い程出ることはない。
一体何があったっていうの?
エミリア顔を青くしていると、ダレルが言い出した。その表情は訝しげだ。
「私が見に行きましょう。荷馬車に置いてある商品が気になります」
「なら、私もご一緒致しますわ!」
「お嬢様いけません! 危険です!」
メイドが慌てて止めに入るが、それを押し退けてエントランスへ急ぐ。
「でも、モリーがいるかもしれないわ! 巻き込まれていたら……」
「モリーさんが!?」
「乳母殿は商会の馬車の方に行かれたのですか?」
驚くメイドとダレルが怪訝そうにエミリアを見る。しまったと思うがもう遅い。嘘になら無い程度で答える。
「馬車に残っている方々にも軽食をお届けしようと、声を掛けに行きましたの」
「お気遣い頂き有り難う御座います。ですが、私に声を一声かけて下されば良かったのに」
「お時間を取るつもりは無かったのですが、軽率でしたかしら?」
「ええ、荷馬車の荷物は我が商会の大事な商品ですから」
「見せられないものでもあるのかしら?」
ダレルがこちらを怪訝そうに見た。エミリアにとっては見せられない何か=誘拐した使用人達ではある。
「どういう意味ですかな?」
「いえ、高価な品々や特別な品を置いているのかと。私おかしな事を言いましたか?」
かなり苦しい言い訳をするが、ダレルは納得したのかにこやかに言う。
「ええ、我が商会の商品はどれも厳選された物ばかりですから、商品に何かあれば我が商会は痛手を負うでしょうな。エントランスへ急ぎましょう」
「ええ」
◇◇◇
外の騒がしさにオーガストは顔をしかめる。
知らせに来た使用人の少年が言うには狼がバチェラー商会の馬車を襲っているらしい。
窓から様子を見た限り本当に白い狼が暴れている。オーガストはあれが魔獣等ではないことは直ぐに気付いた。
「まさか……な」
バチェラー商会を嫌っているエミリアがダレル一行を引き留めていることに加えこの騒ぎとは。
使用人達の事で何やらモリーが嗅ぎ回っていたようだが、特に警戒はしていなかった。侯爵が関わっていると匂わせていたので、世間知らずなお嬢様とその乳母では何も出来ないとたかを括っていたが、……あの狼をエミリアが用意出来たとは考えられない。
あれは人狼だ。
気高くプライドの高い人狼が只の人間の言うことを聞くわけがない。動かせるとすれば、窮地の彼等を救った精霊王かそれに準ずる物ぐらいだろう。
一番厄介なロベルトは牢に入れて置いた。本当は始末したいが、目当ての物が手に入らなくなってしまう。当初の目的は侯爵を此方側に引き込めれば良かったが、例のものについては侯爵は何も知らないらしい。
これも、先代が突発的な事故で死んだせいでもある。今の侯爵は取り込み易いが役に立たない。どうにかロベルトに口を割らせたいが、あの男は確実に死を選ぶだろう。本当に厄介なことこの上無い。
だと言うのにこの状況はなんだろうか。
何かがおかしい。幸いなのはダレルには余計な事は吹き込んでいない。ダレルとバチェラー商会は元々蜥蜴の尻尾。奴等が捕まったとしても此方には不利益は無いだろう。二年間以上もかけて侯爵家に取り入ったというのに。
今は一旦退くしかないと考えて部屋を出た。
「おや、オーガスト。此のようなときにどちらに行かれるのですかな?」
聞き覚えのある声にオーガストは耳を疑った。
「……ロベルト殿」
モリーに支えられなが目の前に立つロベルトを見てオーガストは顔をしかめた。
◇◇◇
「ロベルト、どうやってあの牢から出てきたのです?」
「ほほほ、私どもにも心強い味方が出来ましてな」
「味方だと?」
苦虫を噛み潰した様な顔をするオーガストに対して、ロベルトは余裕の笑みを崩さない。はっきり言ってしまえば口から出任せだ。
レヴィという黒髪の子供とロイドとかいうあの狼は、今のところ味方とは言い切れない。ロベルトには何者か分からない。
だからといってオーガストの反応やオーガストの邪魔をしようとしている事からオーガストの仲間では無いことは明白だった。
彼等の素性は追々調べるとして、彼等が戦力になるならば今は共闘した方が良い。という結論を出した。
それにロベルトの予想が正しければ、オーガストはロベルトを始末できない。オーガストの目的のものが手に入らなくなってしまうからだ。
今はオーガストをこの屋敷に留め置く事だ。必ずオーガストのうしろに黒幕がいる。オーガストを捕らえることでこの騒動を終結させる事が出来るだろう。
「全く、どうやって牢の中で味方を見つけるのやら」
オーガストは短剣を抜く。
壁に飾られていたサーベルをロベルトも構えるが、長く牢に居たため体は鈍っている。
オーガストが踏み込んで突進してくる。ロベルトがその短剣を杖で受け止める。がきんと金属が響いた。




