悪魔使いは悪役令嬢を仲間にする⑪
──レヴィ達三人が地下牢に辿り着く少し前に遡る。
ギィという音がして、扉が開いた。少年は助けが来たのかと期待を膨らませるが、入って来た柄の悪い男達を見てその期待は脆くも崩れ去った。
男数人は少年達を一人ずつ目隠しをして連れ出していく。
「お前さんら、その子達を一体何処へ連れて行っとるんだ」
ロベルトが男達に問いかけると男の一人が立ち止まる。
「おい、この爺さんいつまで生かしとくんだ?」
男はロベルトを睨み付ける。
「放っておけ、理由は知らんが殺すなと言われてんだ。それより、とっととこの餓鬼ども連れて行くぞ!」
引き摺られる形で連れて行かれる。
長い道を歩かされ、少年は久しぶりに外に出ることが出来た。近くで牛の鳴き声と独特の獣の臭いがする事から、どうやらあの牢は厩舎の近くに通じていたらしい。
少年達は引き摺られ、馬車の中に乗せられる。
「助けなんて来る訳無いじゃないか……」
荷馬車の中に放り込まれた処で少年は一人呟いた。
流石に少年でも、馬車に放り込まれた時点で自分は売られてしまうのだと分かった。馬車の中で悶々としていると外で男達の話し声がする。
「──にしても、急にお嬢様からの呼び出しが掛かるなんてな」
「餓鬼ども積んで直ぐ戻る手筈だったのに、これじゃ動けねぇ」
「先に戻る訳には行かないのか?」
「お前ら余計な事口走るんじゃねぇ!」
お嬢様? 呼び出し? 気になる単語が幾つか聞こえたので少年は男達の会話に耳を傾けたが、リーダー格男に会話を遮られた。
会話が止んで暫くすると誰かがやって来たようだ。
「皆さん此方にもいらっしゃったんですね。馬の調子でも悪かったんですか? 言って下されば御手伝いいたしましたのに」
「あんたは?」
穏やかな女性の声に訝しげな男の声だ。マーティンは、女性の声に聞き覚えがあった。エミリアお嬢様の乳母をしているモリーだ。
「お嬢様の乳母ですわ。お嬢様が夜遅くにお呼び立てしてしまったので、お詫びに軽食をお持ちしたのです。こちら」
「おお、これは有難い」
「皆さま、飲み物の用意もいたしますので出てきていただいても宜しいですか?」
外で男女のやり取りを聞いていると、馬車の中に誰かが入って来た。
「──レヴィー、ロイドー、クレアー。誰かいるかー?いたら返事してくれー」
小声で誰かの名前を呼んでいる。少年はその声の主にも覚えがあった。
「……コリン?」
「えっ誰? ……マーティン? マーティンなのか!」
「本当にコリン!?」
「どうしたんだよ! こんな処で!」
コリンは困惑しながら、マーティンの目隠しを外した。暗闇で相手の顔は見えない。
「マーティン、レヴィ……じゃなくて、黒髪と銀髪の男の子と赤毛の女の子見なかった?」
マーティンは首を左右に振る。
「その子達は?」
「マーティンがいなくなった後に来た奴等何だけど、見つからなくて探してた。そしたら、マーティンを見つけて……、それより早く逃げよう。マーティン手分けして縄を解こう」
「わかった」
マーティンとコリンは捕らわれた少年達の縄を外していく。
「あの三人はいないみたいだな。捕まってたわけじゃないのか」
「さっき言ってた子達いないの?」
「ああ、屋敷の中にいるのかも。何処に行ったんだろ?」
縄を全てはずしおわってコリンがぼやく。
「僕が此処の中に入れられる時も新しく来た人はいなかったよ」
「むぅ、あいつらホントに何処に行ったんだ?」
「モリーさんが気を引いてくれてる間に出よう」
マーティンが立ち上がろうとした時、よろめいて何かを踏んでしまった。ガシャっと盛大に音がした。しまったと思った時には遅かった。
「何の音だ?」
男が馬車の方に向かって歩いてくる。馬車の中身が無いことに気づき仲間に知らせる。
「不味い! 餓鬼どもが逃げたぞ!」
コリンは近くにあった棒で応戦するが、体格差がありどうにもならない。
「マーティン皆を連れて逃げろ!」
「コリン!」
「きゃあああ」
近くでモリーの悲鳴が聞こえる。
「モリーさん!」
「餓鬼どもを追え! 女も逃がすな!」
男がモリーに向かってナイフを振り上げた。
その時、彼等の頭上を何かが通り過ぎて、男が吹き飛ばされた。
「ロイド、捕まえて!」
白い塊に向かってレヴィが叫ぶ。
「!」
──ロイド???
レヴィの声に反応してコリンは白い塊を見た。鋭い牙と爪、美しい白い体毛で覆われたそれは自分よりも一回りも大きな狼だった。月の光を浴びて白い毛並みは暗闇のなかでも僅かに輝いて見える。
狼が低い唸り声を出すと、破落戸達が一歩後ずさる。
「ばっ、化け物!」
「ひぇえええ!」
破落戸達が慌てて逃げ出す。そのなかで呆然と棒切れを持ったままコリンは立ち尽くしている。
「ロイド……なのか?」
狼が訝しげに振り向くと鋭い牙が僅かに見えて、コリンはびくりと肩を震わせた。
『ああ? コリン? こんなところで何してるんだ?』
物凄く雑な扱いにロイドだと確信した。
「ロイド、一人も逃がさないで! って、あれ? コリン?」
走りよってきたレヴィがコリンに気付いて首を傾げる。その後ろにケイシーの姿を見つける。
「レヴィにクレア! 何処にいたんだよ! オイラお前ら探してたら何か巻き込まれて、マーティンが捕まってるし、怖い人達には襲われるし」
「何かごめん、大丈夫だった?」
「大丈夫じゃないよ!」
凄い剣幕で捲し立てられレヴィは唖然とする。その後ろからケイシーとロベルトがやって来る。ケイシーがマーティンに気付いて走り寄る。
「マーティン!」
「ケイシーお嬢様!? 何でここに?」
「ケイシーって誰!? クレアはマーティンと知り合いなのか?」
一人状況の分からないコリンがポカンと立ち尽くしている。
「ロベルトさん? 酷い格好だわ! お怪我はありませんか!」
「モリー、貴女こそお怪我はありませんか? お嬢様はお屋敷ですかな?」
モリーははっとして顔を青ざめる。
「お嬢様が危ないわ!」
「それは大丈夫だと思うよ。でも、この人達ちゃんと捕まえてお屋敷に急ごう」
レヴィが馬車の中から少年達を縛っていた縄を取り出す。
いつの間にか気絶させられた男が転がっている。のそのそと男をくわえたロイドが戻ってきた。
「ロイドさきに行って他に残ってる人捕まえて来て」
『わかった。行って来る』
ロイドが地面を蹴って屋敷の方へ駆けていく。
「ホントに白い狼と賢者が助けに来た……」
「え?」
マーティンがぼそりと呟いた。「ほほほ」とロベルトが笑うが目は笑っていなかった。その視線の先にいるのは、ロイドとレヴィだ。
まさか本当に現れるとは……、一体何者なのやら。
「わしらは先にお屋敷に急ぎましょう」
モリーにロベルトが声をかける。「ええ」と力強く頷いた。




