悪魔使いは三賢人に招待される⑧
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レヴィは目を瞬かせた。レヴィは頭の中から霧が晴れる様な感覚を覚えた。同時に自分が此処に呼ばれた理由も理解した。老人達は言った。
──『儂らの研究所を訪ねると良い』
そう言ったのだ。そして、目の前に立っているこの三人──三賢人こそがあの老人達だったのだ。
──こんな偶然って……!!
レヴィは、嬉しい様ないたたまれない様な複雑な気持ちになった。
──何故、今の今まで気付かなかったんだろう!!
あの時の門番にでも尋ねれば直ぐに分かった筈なのに!
と内心ではかなり慌てていた。
「お、お久しぶりです!」
レヴィは気不味そうに笑うと、三人三様に口をへの字に曲げた。
「随分と他人行儀になりおって」
「儂らが畏まったのが好かんのは知っておろう」
「そうじゃぞ」
「すみま……ごめんなさい」
不貞腐れる三賢人にレヴィは苦笑を浮かべた。
「まぁ良い。折角やって来たのだ。さあ、儂らの研究所に入ろう」
イライアスにせっつかれる形でレヴィは三賢人と共に研究塔の中に入った。研究塔は思っていた以上に広い。中央に螺旋階段があり、そこから上へと昇って行くようだ。白衣を着た者やローブをを着た者、作業着を着た者達が行き来している。
「彼等が儂ら研究塔の職員じゃよ」
ドミニクが行き交う人々をを指しながら、説明する。その姿は何処か誇らしげだ。
「殆どが王立学院を卒業した者達だ。優秀である事は保証する」
「王立学院を……。此処が皆さんの研究所なんですか?」
「いやいや、此処が一番目立つから研究塔と呼ばれているが、魔術、医術、薬術とそれぞれ他にも王城内に施設はある。此処は共同研究所じゃよ」
ドミニクは施設内に関してあれやこれやと説明してくれる。その説明にレヴィは目を輝かせた。何せ王城には巨大な温室があり、そこには多種多様な植物を育てているのは有名だ。以前、ランドルフ領でも温室を見せて貰ったが、あれ以上に貴重な植物も見られるかも知れないのだ。俄然興味が湧く。
「──それは興味深い!」
「そうであろう!」
レヴィの反応にドミニクやイライアス、フレディは満足そうに鼻を鳴らす。
螺旋階段を登り、レヴィは施設内の応接間に通された。簡素な応接間には大きな机があり、そこに対面する様な形で座らせられる。
──面接みたいだ。
「──さて、此処からが本題じゃ」
神妙な顔でドミニクが口を開く。レヴィは生唾を飲み込んだ。
「レヴィ。分かっておろうが王立学院に入学する気は無いだろうか?」
「それは……」
レヴィは言葉を詰まらせた。王立学院には興味はある。しかし、今のレヴィはエミリアの元で働きたいという思いがあるのだ。レヴィは掌を握り締めた。
「ドミニク様、イライアス様、フレディ様。大変有難い、得難い機会を頂いた事はとても嬉しく思っています」
「なら!」
三賢人はそれぞれ顔を綻ばせた。レヴィは一度目を伏せてから三賢人を紅い瞳で真っ直ぐに見た。
「でも、僕は今ノースブルック侯爵家のエミリア様直属の護衛騎士をしています。僕は今はエミリア様の騎士でいたいんです!」
レヴィは出来るだけ正直な気持ちを伝えた。すると、三賢人は目を瞬かせ、それぞれ口をへの字に曲げたり、眉間に皺を寄せたり、顔を顰めたりした。
「それは今じゃなきゃならんのか?」
「レヴィはまだ若い。王立学院を出てからでも良いのではないかのう?」
酷く落胆した様子の三賢人にレヴィは心が痛くなったが、引く気は無い。
「王立学院は最低でも3年間は通わないと行けませんよね? 休暇も帰れないと聞きますし。ご存知と思いますが、ノースブルック侯爵家は今大変な状況にあります。先の人身売買事件の犯人らしき男も捕まってません。その状況でエミリア様から離れたくはないんです」
「護衛なら他にもおろうに」
納得がいかないのだろうフレディがむうと少し拗ねた様な顔をするので、レヴィは苦笑した。
「僕が護衛をしたいんです」
引く気の無いレヴィは強く主張する。納得しないフレディ、考え込むドミニクの一方で、イライアスは一人首を傾げていた。しかし、三人ともレヴィに引く気がないのが分かるとそれ以上は何も言わなかった。
長い沈黙がレヴィと三賢人の間に落ちる。
──流石に三賢人も諦めるよね。
レヴィはそう思った。しかし、相手は一癖も二癖もある三賢人。簡単には諦めない。この長い沈黙の間三賢人はこう結論を出していた。
──「例の事件のせいでレヴィが王立学院に入らないのならば、その原因を取り除けば良い! その犯人とやらをさっさと捕まえて解決してやれば良いのだ!」
と。
まあ、その皺寄せが誰にいくかと言えば、当然、第一王子エドワード・フォーサイスになるである。




