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08 狂戦士《餓狼のヴォルフ》

「ふあああ」


 ダーゲンの闘技場にて。

 

 ヴォルフは客席に置いてある立派な椅子に腰掛けながら、必死に戦う魔族二人を見つめながら大きくあくびをした。


「つまんねえの」


 現在戦っている二人の魔族はこの街を占領した際に捕らえた魔王軍の兵である。


 本来なら二人とも処刑するところを、殺し合って生き残った方を自由にすると言う約束で戦わせているが、予想に反しいまいちおもしろくない。


「舐めてんのかてめえら」


 ついに痺れを切らしたヴォルフは、客席からアリーナへと飛び込む。


「なっ……」


 夢中に戦い合ってた魔族二人はヴォルフの存在に気づき、剣を止める。


「ちまちまちまちま突き合いやがって……やる気あんのか?」


 常人の倍の大きさはあるヴォルフが放つ威圧感に気圧され、二人は動かなくなる。


「なにぼーっとしてんだ」


 ヴォルフは丸太のような腕を伸ばして片手で片方の頭を、もう片手でもう片方の頭を掴み――


「おら、戦えよ!」


 二人の顔面を思いっきり互いにぶつける。


 ヴォルフの圧倒的腕力によって激突した二人の頭は熟した果実のごとく潰れた。


「ったく、とんだ時間の無駄だ」


 血と脳髄でべちゃべちゃになった両手を振りながら、ヴォルフは舌打ちする。


「おい、掃除しとけ」


 一部始終を見ていた部下たちに死体の後片付けを命じると、ヴォルフは地面に転がっていた目玉を拾い上げた。


「あー、つまんね」


 ヴォルフは目玉を神経の部分で掴み、くるくる回しながらアリーナを後にする。


「賞品の様子でも見に行くか」

 

 ふと、観客席の上に建てられた巨大な銅像が目に入る。


 今より数百年前、争い合う魔族の国々を統一し、ダムド魔国を作った英雄を象ったものだ。


 さぞかし強い戦士だったのだろう。同じ時代に生きていれば戦いたかった。


 この時代には、ヴォルフの飢えを満たしてくれる強者はいないのだから。


 もとはと言えば勇者マルクの仲間になり、魔王との戦いに参戦したのも自分を満たしてくれる宿敵を見つけるため。


 当然マルクとの旅の中でいくつもの強敵とは戦った。しかし、求めているものには程遠い。


 楽しみにしていた魔王との戦いさえ駆けつけた頃にはマルクがほぼ終わらせてた。


 もっとも、マルク一人でどうにかなる魔王ならそもそもたいしたことは無かったのだろう。


 そしてついに戦争は終わり、平和が訪れてしまった。


 それでも諦めきれなかったヴォルフは、占領した街の統治者という形で魔族の国に残り、自分に興奮を与えてくれる敵を探し続けている。


 明日開催する大会もそのため。多額の賞金とたまたま捕らえたあの女騎士を餌にすれば、少しは面白い対戦者を釣れるだろうと言う魂胆だ。


 ヴォルフは闘技場の地下にある牢獄へと降りていった。


 そこにはダーゲンを占領する際に捕らえた魔王軍の兵士を始めとする魔族が大勢収容されている。


 ヴォルフは一番奥にある牢屋に入り、魔法封じの足枷に繋がれている女性の前で立ち止まった。

 

 彼女こそが明日行われる大会の賞品、魔装騎士シアンである。


 顔立ちはまるで血筋の優秀さを証明するかのように美しく、後ろで一本に結ばれた青い髪は地下牢を生暖かい風が吹き抜ける度に緩やかに靡いた。


 体は細く女性的ながらも筋肉質で、長年の鍛錬を積んできたと言う事がが伺える。


 そんな彼女も、ヴォルフを前に成すすべもなく敗れたのだが。


「よっ、元気してっか女騎士?」


 シアンは立ち上がり、血で赤く染まったヴォルフの手を見つめた。もう何週間も囚われの身だと言うのに、その目からは輝きが失われていない。


「また……人を殺したのですか」


「俺様を楽しませられねえ雑魚は死んで当然だぜ」


 そう言い、ヴォルフは片手に持っていた目玉をシアンに投げる。


「どいつもこいつも弱すぎんだよ。まっ、明日の大会に期待ってとこだな」


「……貴方は決して強くなどない」 


「ん?」


 思わぬ言葉に、ヴォルフは片眉が上がる。


「大義無き力などただの暴力。貴方は自らの力に溺れて暴れまわる狂犬に過ぎません。それを強さと呼ぶなど愚の骨頂――」


 ヴォルフは思いっきりシアンの首を掴んで彼女を持ち上げる。


「負け犬が粋がんじゃねえぞ。なんだったらいますぐここで、お前のお仲間が見てる前で喰ってやってもいいんだぜ」


「……っ」


 シアンの瞳が、恐怖で僅かに揺れ動いた。


 絶対的な敗北と屈服を悟った生き物が見せる、何万回と見た事のある瞬間だ。


「が、生憎そんなことには興味ねえんだ。そんじょそこらの野郎ならお前みたいな上等な女が抱けりゃ満足だろうが――」


 獲物をつけ狙う獣の如く、瞳孔が大きく開いた目でヴォルフは言った。


「俺様を勃たせられるのは、血肉脇き踊る戦いだけだ」


 そう言ってシアンを手放し、ヴォルフは彼女に背を向ける。


「まっ、明日はそんな奴が現れる事を期待しくしかねえな」


 ヴォルフは軽く笑い、地下牢を出ていった。

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