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07 密偵ルージェ

 俺が大会に参加してシアンを勝ち取ると言う事が決定したのち、俺はルージェと買い出し兼情報収集に出ていた。


 アズールも行きたがっていたが、あまり人目につくといけないと言う事で家臣たちとお留守番してもらっている。


「ほら、市場はこっちよ」


 不機嫌そうに言うルージェ。アズールに対しては礼儀正しい彼女だが、俺にはかなり不愛想だ。


 こいつに限った話じゃない。他の家臣も俺を警戒している。


 まあ、仕方ないっちゃ仕方ない。むこうは魔族でこっちは人間だ。内心では人間の力を借りようと言うアズールのも疑問に思っているのだろう。


「で、あんたは何で人間なのにアズール様に協力してるの?」


「利害の一致だ。たまたま俺も勇者マルクをぶっ殺したくてな」


「勇者マルクって、人間にとっては英雄なんじゃないの」


「個人的ないざこざがあってな」


「ふーん」


 怪訝な表情で俺を睨むルージェ。


「言っとくけど、あたしは一切信頼してないから」


「好きにしてくれ」


 辺りを歩き回る兵士を見ながらルージェは溜息をつく。


「どこを見ても人間ばかり……ほんとうんざりするわ」


「魔国はもうどこもこんな感じなのか?」


 アズールと出会った村からダーゲンにつくまで数週間が過ぎており、当然ながら街や村を避けて進んでいたので、魔王を倒した後に人類同盟と魔族の間になにがあったかは把握しきれてない部分がある。


「知らないの? 魔王アナザエルが勇者マルクに倒された後、この国の主導権は魔公爵ヴァートに移り、彼が正式に人類同盟に降服したわ。今は平和条約の締結に向けて話し合ってるみたいだけど、ダムド魔国は実質人類同盟加入国の属国になるでしょうね。聞いた話によると人類同盟も誰が魔国を統治するかで揉めてるみたい」


 この大陸は東側に人間の王国が六つ、そして西側に魔族の住むダムド魔国がある。他にも人間の住むちっちゃい国は沢山あるが、関係ないから割愛しとく。


 人類同盟はダムド魔国の侵略に対抗する為に六つの国が同盟を結んで生まれたものだが、共通の敵がいなくなった今、同盟国同士でいざこざが始まったのだろう。


 まんまマルクの言ってた通りだな。


「どっちにしろ、魔国の主要都市は殆ど人類同盟の兵が占領してるらしいわ」


 市場に到着すると、俺たちは食料とその他の必需品を買うべく店をまわりはじめた。


「や、やめてください!」


「いいじゃねえか、ちょっと遊ぼうぜ」


 すると、魔族の女性が人類同盟の兵士に囲まれているのを目にする。


「この街はもう人間のもんなんだよ。逆らうとどうなるかわかってんだろうな」


「う、ううっ……」


 そのやり取りを遠くから見つめながら、ルージェは悔しそうに唇を噛む。


「本当に最低ね、人間って」


「魔族も人間の領土を侵略してた頃は同じことしてだろ。それが戦争ってもんだ。てか、助けないのか?」


「何とかしてあげたいところだけど、向こうは四人だし、目立てないのはあんたもわかってるでしょ」


「目立たなきゃいいだけじゃねえか」


 そう言って、俺は袖から神経毒の塗ってある四本の針を取り出すと、人ごみに紛れて四人の兵士に近寄り、すれ違いざまに針を一本ずつ兵士の脇腹に突き刺す。


 四人の兵士は急に倒れ、動かなくなった。


 兵士が急死した事により辺りが騒がしくなる中、俺はルージェのいるところまで何事もなかったかのように戻る。


「ほらな」


「……ありがと」


 不貞腐れながらルージェはそう言う。


 そして俺たちは一通り買い物を終え、帰路についた。


「本当によくわかんない」


「なにが?」


「あんたよ。いくら勇者マルク個人に恨みがあるって言ったって、魔族……それも魔王の娘に協力するなんて」


「そんなにおかしいか?」


「おかしいわよ。さっきだってあんな平然と人類同盟の兵士を殺して。人類に対する裏切りじゃない」


 俺は溜息を吐く。


「別に人類には未練もねえからな」


 マルクを脳裏に思い浮かべながら俺は言う。


「種族だの国だのに固執せず、自分がやりたい事だけすりゃもっとハッピーになれるんじゃねえの」


「あんたはそれでハッピーなの?」


「最近始めたばっかだ。結果はまだわかんねえ」


 思い返せば俺は今までずっとマルクの言いなりだった。その結果が胸のくそでけえ傷なわけで。


 だから今度は自分のために生きてやる。


 邪魔するやつはぶっ殺す。それだけだ。


「まあ、心配すんなって。ちゃんと大会出てヴォルフ殺してシアンってのを助け出してやるよ」


「……ちょっとだけ期待しとくわ」


 目を逸らしながらそう言うルージェ。


 ったく、素直じゃねえな。


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