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06 港町の闘技場と囚われの女騎士

 長い旅の末、俺とアズールはようやく港町ダーゲンにたどり着いた。


「ここももう人類同盟の連中だらけか」


 兵士でごった返しの街中を歩きながら俺はそう言う。


 あの村を襲ってた連中とは違い、ここを制圧したのは正規軍だろう。


 そのため目立った略奪は行われていないものの、魔族が肩身の狭い思いをしてるのはなんとなくわかる。


「こっちだ」


 顔を隠す為にローブのフードを深く被ったアズールがそう言う。


 俺たちは大通りから外れてうす暗い路地に入っていく。


「魔王城を脱出する際、はぐれた場合のダーゲンで待ち合わせ場所と言うのはあらかじめ決めてあった。そこに家臣が辿りつけていればいいのだが……」


「そいつらは力になってくれるのか?」


「当たり前だ。シアンさえいてくれれば、状況は大きく好転するだろう」


「シアンってのは?」


「私の護衛だった魔装騎士だ。数少ない女騎士でありながら、戦いにおいては我が軍の騎士の中でも一位二位を争う実力を持っている」


 そしてアズールは懐かしむような声で言う。


「それに一緒に育った仲でな。私の親友であり、憧れの存在でもある」


「へえ」

 

 曲がりくねった路地をしばらく歩いたのち、アズールは何の変哲もない民家の裏口の前で立ち止まる。


「これか」


「どうやってわかるんだ?」


 扉についた奇妙な傷を指でなぞりながらアズールは言う。


「暗号だよ」


 そして特殊なリズムで扉をノックする。


 すると扉は僅かに開き、魔族の男性が顔を見せる。


「……なにか」


 警戒する男性に対し、アズールは少しだけ被っているフードを引き、顔を露わにする。


「私だ」


 男性は唖然とした表情を見せた。


「あ……まさか……」


「入れてもらえないか?」


「は、はい! お入りください」


 扉が開き、俺たちは古びた民家の中へと入っていく。


「こちらです」


 俺たちは男性に案内され、居間まで入っていく。


 すると男性は床に敷いてあった絨毯を捲り、その下にある床板を外す。


 そこには地下へと続く階段があった。


「どうぞ」


 男性に言われる通り、俺たちは階段を下りていく。


 降りた先の殺風景な部屋には六人ほどの魔族がおり、皆アズールの姿を見ると同時に驚愕した。


「待たせたな、みんな」


 アズールがそう言うと同時に、六人とも駆け寄ってくる。


「あ、アズール様!」


「無事でいらっしゃったのですね!」


「ああ、なんとかな」


 するとその中の初老の男性が片膝をつきながら言う。


「申し訳ございません。我々の力が足らなかったがためにアズール様を護りきれず」


「顔を上げろカーカス。現に私は無事だ、あまり気に病むな」


「……よくぞご無事で」


 アズールは部屋を見回し、カーカスと呼ばれる初老の男性に訪ねる。


「ダーゲンまでたどり着けたのはこれだけなのか?」


「街で情報収集を行っている『耳』が一人おりますが、それで全員です」


 急に不安そうな表情を見せるアズール。


「シアンは? シアンはいないのか?」


 カーカスは悔しそうに言う。


「シアン様は我々と共にターゲンまでたどり着いたものの、人類同盟に虐げられている民を見た際に助けに走り、そのまま敵に捕らわれてしまいました」


 アズールは凛とした表情を保とうとしていたものの、顔には心配が浮かび上がっていた。


「……彼女らしいな。まだ生きてはいるのか?」


「処刑されたと言う噂は聞きませんが、無事は確認できず」


「ならば決まりだ」


 アズールは俺に振り返って言う。


「ウルム、シアンを助け出すぞ」


「いいけどよ、どこに囚われてるかもわかんねえんじゃ助けようがなくねえか?」


「なら見つけ出すまでだ。行くぞウルム」


 そう言ってアズールはさきほど下りてきた階段を上って行こうとするが、カーカスに止められる。


「お待ちください! 魔王亡き今、アズール様が人間に囚われてしまえばもうこの国――いや、魔族に希望はありません。シアン様は必ず我々で助け出すので、いましばしのご辛抱を」


「……とか言うけど、そもそもお前らアズールはぐれた時点で護りきれてなかっただろ。こんなとこでコソコソ隠れててもいずれは見つかるだけじゃねえの」


 俺は思わず思った事を呟いてしまう。


「アズール様、そう言えばこの人間は一体――」


 カーカスの問いに、アズールは言う。


「私と共にこの国を救ってくれる大事な仲間だ。口は悪いが、腕は確かだぞ」


「仮にいくらその者が強かろうが、数が違いすぎます。せめてシアン様の居場所がわかるまで――」


 すると、魔族の少女が階段を下りてくる。


「ただいま戻りました」


 さきほどカーカスが言っていた『耳』の一人だろう。


 すると少女はアズールがいる事に気付いたのか、大きく目を見開いた。


「あ、アズール様?! よくぞご無事で!」


「ルージェか。君も無事でなによりだ」


「よかった……本当によかった」


 ルージェと呼ばれる少女は少しだけ目元に涙を浮かべるが、すぐにそれお取っ払う。


「そう言えば、シアン様の安否がわかりました!」


 驚く他の連中に、ルージェは報告する。


「どうやらこの街の闘技場に囚われているようです」


「何故また闘技場に?」


「アズール様はご存じないと思いますが。この街は人類同盟に制圧された後、ヴォルフと呼ばれる人間の男が実質的な統治者として支配しています。が、彼は街の統治にそこまで興味はなく、配下のものに内政を押し付けてずっと闘技場で戦いを観戦したり、自ら挑戦者と戦っており――」


 その名は俺も知ってる。


 何故なら餓狼のヴォルフは勇者マルクの仲間の一人だったからな。


 その名の通りヴォルフは飢えた獣だった。戦い以外に興味を持たず、マルクの仲間になったのもより強い敵と戦うためだったらしい。


「噂によるとヴォルフは近日中に大がかりな大会を開くそうです。その大会の勝者はヴォルフと戦う権利を得、ヴォルフに勝利した際の賞品は多額の賞金と……シアン様だそうです」


「……なるほどな」


 顎に手を当てながらそう言うアズール。


 なんも考え込む必要はねえだろ。


「だったらその大会に出てささっと取り返してくりゃいいだけだろ。おまけに勇者の仲間だった奴も一人倒せるし一石二鳥じゃねえか」


 アズールは俺を見つめる。


「頼めるか、ウルム?」


「まかせとけ」

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