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05 沼地を越えて

 俺とアズールはとりあえずアズールの家臣がいるかもしれない港町ダーゲンへと向かう事にした。


 真っ直ぐ行けばそれほどの距離ではないらしいのだが、人類同盟に存在を知られたら面倒だと言う事でなるべく村や街を避けて進んだ。


 故に今、普段なら誰も近寄りたがらない淀んだ沼地を歩いてる。


「本当にこんなルートしかなかったのか?」


 泥に足を取られ、歩きづらそうにするアズールが言う。


「村の連中曰くここを通るのが一番人目につかないらしいからな。仕方ねえ」


「にしても汚いし歩き辛いし臭いし……」


 ほんの少し前までは魔王城でぬくぬくと暮らしていた箱入り娘だ。外の世界が過酷なのは仕方ないだろう。


「じゃあ敵討ちやめるか?」


「そ、そう言う意味で言った訳ではない! 私の意思がこの程度で揺らぐわけがなかろう!」


 ムキになって反論するアズール。


「そもそも私を誰だと思っている、魔王アナザエルのうわっ――」


 アズールは喋るのに気を取られ、足を滑らせて尻もちをつく。


「……ったく」


 俺はアズールのいるところまで戻ると。恥ずかしそうにだんまりを決め込む彼女に背中を向けてしゃがむ。


「ほら、おぶってやるよ」


「べ、別にそんな事は求めては――」


「気にすんなって」


「……すまぬ」


 アズールは起き上がり、ゆっくりと俺の背中に体を預けた。


「重っ!」


「なっ、失敬な!」


 意外と体重あるんだな、こいつ。


「わりぃ、予想よりちょっと重かっただけだ」


「――悪かったな」


 不貞腐れるアズールを背負い、俺は立ち上がった。


 そしてアズールの体温を背中に感じながら歩き続ける。


 しばらくそのまま歩いていると、目の四つあるカエルが数匹跳ね回っている事のが目に入る。


「入った時から思ったけど魔物が多いなここ」


「瘴気が濃いからな。君は感じないのか?」


「生憎、魔法の才能は一切ねえんだ」


 瘴気とは魔力の源であり、魔法を使うために欠かせないものだ。


 しかし人間やその他の生物が濃度の強い瘴気に晒され続けると、肉体に異変が起き始める。


 そうして生まれるのが魔物だ。人に危害を加えるものも多いが、あの程度ならおそらく無害だろう。


 一説によると、魔族も大昔に瘴気の多い地域に移り住んだ人間が長い年月を経て変化していった結果らしい。基本的に魔族のほうが魔法が得意なことや人間と魔族で子供が作れるのを考えると、あながち間違っていないかもしれない。


 もっとも、仮に事実だったとしても大抵の魔族は絶対に認めないだろうが。


「そう言えば、この沼地の主は凶悪な魔物だと村の者が言っていたな。まあ、もう何年も目撃情報がないからまず見ることはないだろうが」


「へえー、どんなのなんだ?」


 ふと、地面が僅かに揺れる。地震か?


「巨大なカエルで、普段は透明になって身を隠すらしい」


「へえー」


「得物を食らう時だけ姿を現し、その巨大な舌で――」


 後から気配を感じ、俺は振り向く。


 そして、その場で足を止めた。


「なあ、アズール」


「どうした?」


「その沼地の主ってのは、眼が六つあって、背中に触手が沢山生えてたりするか?」


「――そう言えば村の者はそんな事も言ってた気がする」


 俺たちの後ろに忍び寄っていた家ぐらいの大きさはあるカエルを指差す。


「じゃあ、あれか」


「……あ」


 一瞬だけ俺たちは静まり返る。


「逃げるぞ!」


 すぐに我に帰った俺は、全速力で駆け出す。


 同時にカエルが俺たちに向けて舌を伸ばした。

 

 俺は横に飛んで舌を避けるものの、勢いでアズールが背中から落ちてしまう。


「大丈夫か?」


「あ、ああ……なんとか」


 俺は倒れたアズールの手を引っ張って起こす。


「先に逃げてろ、俺がなんとかする」


「すまぬ」


 再びカエルの舌が俺たちに向かって迫ってくるものの、俺は屈んで回避し、短刀を抜いて舌を刺した。


 カエルは短刀の刺さった舌を引っ込めようとすし、俺は短刀を握ったまま舌に掴まってカエルに急接近する。


 そしてカエルの大きく開かれた口の手前で短刀を抜き、舌から頭に飛び移った。


 そして脳天に思いっきり短刀をぶっ刺す。


 だがカエルの皮膚は思ったより頑丈で、あまり深く刺さらなかった。


「ちっ」


 舌打ちすると、俺は思いっきり短刀の柄に飛び乗る。


 全体重が加わった事により、短刀の刃はカエルの頭部へと沈んでいった。


 カエルは激しく暴れ回ったものの、ほどなくして短刀に塗ってある神経毒が効いてきたのか、倒れて動かなくなる。


「ったく、びっくりさせやがって」


 俺は溜息を吐き、カエルの脳天から短刀を抜いた。


「ウルム!」


「もう大丈夫だぜ、王女様」


 アズールの声に振り返りながら俺はそう言う。


 が、振り返ったらさっきより更に二回りぐらいデカいカエルが背中の触手でアズールを絡め取っていた。

 

「すまぬ、掴まった」


「親子かよ……」


 俺はアズールを助けるべく、すかさず親ガエルへと向かって駆け出した。


 迫りくる触手や舌を避けながら、カエルの背中に飛び乗り、アズールを捕らえていた触手を根っこから切り落とす。


「うわっ!」


 落下するアズールを受け止めると、俺は彼女を抱っこしたままカエルから距離を取った。


「すまぬ、何度も迷惑を掛けてしまって」


「気にすんな」


 俺はアズールを降ろすと、今度こそは食ってやろうとこちらを睨むカエルを見つめた。


「それより、あいつをどうするかだ」


 子ガエルはギリギリ短刀で殺せたが、あの大きさじゃ急所まで刃が届かないだろう。


「少しだけ時間を稼いでもらえれば、私がなんとかできると思う」


「魔法か」


 それが最善策だろうな。


「わかった。頼むぜ」


 親ガエルは再び俺たちへと迫ってくる。俺はカエルの側面に回ると、小型爆弾に火を点けて投げつける。


 爆発によってカエルの意識は俺へと向けられた。


 その隙にアズールは詠唱を始める。


「こっちだ」


 俺はそのまま逃げ回り、カエルを挑発し続けた。


 アズールの両手は黄色く光り始め、徐々に黒い雲が空を覆い出す。


 そして――


「裁け、天の憤怒(アトモスラス)!」


 黒雲のから放たれた巨大な雷がカエルに落ちた。


 カエルは一瞬にして真っ黒に焼き焦げる。


「ふう……」


 魔物が息絶えた事を確認すると、俺はアズールへと歩いて行った。


「すげえ魔法だな」


 さすがは魔王の娘ってとこだ。


「久しぶりだったせいか、少しばかり奮発してしまったようだ……」


 アズールは疲労のたまった声でそう言うと、倒れるように俺にもたれ掛かる。


「ありがとな」


 俺はそっとアズールを抱え上げ、沼地の中を歩き続けた。

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