12 闘技場の殺し合い その3
俺とルージェは二戦目を観戦するために控え室から観客席へと向かった。
が、たどり着いた頃には既に勝負がついていた。
「勝者、卑劣なるゲル!」
そこには小刻みに笑い続けるゲルと、地面に横たわって動かなくなったダクダがいた。
「はええな」
意外な結果だ。
あのゲルという男は予選でも少しばかり目に入った。
全く戦おうとはせずただひたすら逃げ回っていたので、生き残れたのは運が良かったからだと思っていたが、そうでもないらしい。
「なによ、あれ……」
ダクダの死体の見つめながらルージェは気持ち悪そうに口に手を当てる。
死体はいつのまにか黒く腐敗しており、溶け出していた。
「なるほどな」
原因は大体わかった。
「あれ、あんたの準決勝の相手なんでしょ? 大丈夫?」
「むしろ得意な部類だ」
「気をつけてね。あんなのになられるのは本当に勘弁だから。液状化したあんたをアズール様に持ってくとかホント無理」
「ならねえから心配すんなって」
ダクダの死体処理が終わった後、次の選手二人が現れる。
「22番、ヘクター・バルト!」
最初にでてきたのは予選のおわった直後にヴォルフに苦言を呈した大剣の青年だった。
苗字があるって事は、ああ見えて貴族なのか。肌の黒さからして普段は太陽の下で畑を耕している農民の出かと思ったが。
だとするとおそらくどこかの地方領主の息子だろう。所謂芋貴族ってやつだ。
「11番、重騎士ガンセル・ホーガット・ゼネダリウス卿!」
派手な装飾品のついた分厚い鎧を全身に纏い、立派な大槍を持った騎士が現れる。
相手も貴族なのか。
無論、こっちはヘクターと違って所謂上流貴族だろう。身に纏っている派手な鎧がそう告げる。
とはいえ、あの鎧はただの飾り物ではない。
ここからでもわかる、精巧かつ実用性の高いものだ。
輝きからして素材はおそらくマギウム合金。比較的軽いながらも並大抵の武器ではかすり傷すらつかない硬質な鉄だ。
そして造りも非常に良い。関節部分の隙間はプレートで隠されており、弱点らしき弱点が見当たらない。
あの重騎士は難攻不落の要塞も同然だ。
まあ、俺だったら兜についてる呼吸をする為の穴に神経毒のついた針をぶっ刺して一撃だけどな。
だが、あのヘクターってのは当然そんな芸当はできないだろう。
ヘクターの装備はどこでも売ってそうな軽めのレザーアーマー。戦場で機動力を求められる傭兵が好んで使うものだが、重騎士との相性は最悪。
背中に背負った片刃の大剣も、あの鎧との相性は悪い。
「彼、勝ち目あるの?」
同じ事を考えていたのか、ルージェはそう言った。
「まあ、圧倒的に不利だろうな」
そして、試合開始を告げる鐘が鳴る。
「捻り潰してくれよう!」
そう言って重騎士ガンセルは大槍を構える。
それに対して、ヘクターは剣を抜くものの、構えはとらなかった。
そこで俺は気づいた。あの肌の色、あの大剣……
「そういうことか」
「彼、なんで構えないの?」
ルージェの問いに、俺は言う。
「構えないんじゃねえ。『構え』がないんだよ」
「どゆこと?」
「見てりゃわかるさ。多分、あのヘクターってガキが勝つ」
「ふーん」
ガンセルは剣を抜いてから一歩も動かないヘクターを挑発する。
「どうした? 怖気づいたのか?」
「こうなるつもりはなかった。ただ、賞金が必要なだけだったんだ」
ガンセルはヘクターを鼻で笑う。
「ふん、我が姿に気圧されて後悔しているのか。なんともみっともない」
「悪いが、俺は勝たなきゃいけない。その命、貰い受ける!」
刹那、ヘクターは目にも止まらぬ速さでガンセルとの間合いを詰めた。
「うりゃああああああ!」
奇声に近い叫び声と共にヘクターは大剣を振り下ろす。
あまりの速さに、ガンセルは槍を上げて防ぐのが精一杯だった。
「うりゃあ!」
更にもう一発。威力はさっきより増しており、衝撃でガンセルの足が地面にめり込む。
「ぬぬっ!」
「うりゃあああああ!」
そして反撃する暇も与えずに三発目。
ヘクターの振り下ろした大剣はガンセルの大槍を真っ二つにへし折り、そのまま兜を粉々に破壊し、ガンセルの頭部をぐちゃぐちゃに潰す。
「う、うそでしょ……なにあれ」
唖然とするルージェに俺は言う。
「ビウス流大剣術って言う、大陸の遥か南方にあるヤームって島国の連中が使う剣術だ。護りを一切考えず、圧倒的速さと力で相手をねじ伏せる一撃必殺の戦法だぜ」
まあ、相手が極端に硬かったせいか今回は三発掛かったけど。
「初めて聞いたわ、そんなの」
「ヤームの連中はだいぶ閉鎖的でな。当然ヤーム王国は人類同盟にも加入してなかったし。ビウス流は俺も過去に数回しかみたことねえ」
ヤームではビウス流を使う者を、その力への恐れと敬意を込めて破壊剣士と呼ふらしい。
「しょ、勝者、ヘクター・バルト!」
審判を務める兵士にもあっけに取られていたらしく、ようやく試合終了の合図を行う。
ヘクターは大剣についた血を振り落とすと、アリーナを退場した。
その際に一瞬だけ俺とヘクターは目が合った。
決勝の相手はあいつになりそうだな。おもしれえじゃねえか。
「なにニヤニヤしてんのよ、気色悪い」
「意外なもんが見れて嬉しかっただけだ。この調子だと決勝で勝負出来そうだしな」
ルージェは呆れた表情をする。
「ヴォルフのこと戦闘狂って言ってたけど、あんたも十分戦うの好きじゃない」
「別に特別好きってわけじゃねえが、仕事柄四六時中やってんだ。だったら多少は楽しまねえとだろ」
「へんなの」
それから俺とルージェはなんの変哲もない四戦目を観戦し、それの決着がつくと一回戦は終了した。
準決勝の一戦目は俺とあのゲルって野郎だろう。そろそろ控え室に戻っとくか。
俺はルージェの肩に手を乗せて立ち上がる。
「じゃあ、ちょっくら行ってくる」
「うん、がんば!」
ルージェは俺に向けて拳を突き出し、俺は彼女の拳に自分の拳を軽く当てた。
そして、観客席の中央に座るとヴォルフと、その横に座らされているシアンに目を向けた。
「ちなみに、シアンの方は助け出せそうか?」
俺が声を潜めてそう聞くと、ルージェは頷く。
「うん。あそこからヴォルフかいなくなれば大丈夫なはず。手足につけられてる魔法封じの枷がちょっとネックだけど……まあ、そこはなんとかできると思うわ」
「じゃあ、俺がヴォルフと戦ってるときに頼む」
「了解!」
ヴォルフを倒してもシアンを開放してもらえなかった場合の救出作戦を再度確認したのち、俺は控え室へと向かった。




