10 闘技場の殺し合い その1
大会の当日、俺はルージェに案内されて闘技場へとやってきた。
「ここよ」
闘技場の入場口で立ち止まり、俺はルージェに礼を言う。
「すまんな」
「あんたをこのまんまほっといて帰るのも悪いから、あたしは観客席で見てるわ。最悪負けそうになったら煙幕ぐらいは投げ込んであげる」
俺はルージェの言葉に苦笑した。
「気持ちはありがてえけど、負けることはねえよ」
そしてルージェの耳に口を近づけて呟く。
「それより、俺がヴォルフを倒すのと同時にシアンってのを助け出せるよう準備しといてくれ。ヴォルフの部下たちは奴が負けるとは思っちゃいないはず。だからヴォルフを殺したあとに約束を守ってくれる保証もねえ」
「なるほど。わかったわ」
そしてルージェは少し恥ずかしそうに俺を押しかえす。
「てか、顔が近いわよ」
「へいへい」
「なにはともあれ、健闘を祈るわ。やっちゃいなさい!」
満面の笑みで俺にそう言うルージェ。
「ありがとな」
俺は闘技場に入っていくと、手続きをする為のテーブルに並ぶ。
が、筋肉質な男性が俺を押しのけて列に割り込んできた。
「おいおい、ここはてめえみてえなガリガリが来るとこじゃねえぞ」
身長は俺より多少低いものの、横幅は俺の二倍近くあるだろう。
そして男は周りに宣言するように言った。
「命が惜しいならとっとと帰っちまいな、何せこの大会で優勝するのはこのガボッサ様だからな!」
他の参加者からヤジが飛ぶ中、ガボッサと名乗る男は高らかに宣言する。
「富も女も俺のもんだ! 文句あんならこの場でかかってこい!」
ったく、血の気の多い野郎だ。
無視して列に並んでいるとまたもやガボッサが絡んでくる。
「おいおい、てめえはとっとと帰りやがれ。身長だけ一丁前に高いからって調子乗ってると死ぬぞ」
ガボッサは俺の腕を掴む。
「見ろよこの細せぇ腕。こんなもん俺様がちょっと力をくわえりゃあ――」
が、俺は軽々と彼の手を解いた。
「わりぃ、ご自慢の腕力は大会が始まったら見せてくれ」
「て、てめえ……」
怒りに震えるガボッサに背中を向け、俺はテーブルで参加の手続きを済ませた。
一通り手続きが終わると、番号のついた札を渡され、闘技場のアリーナへと案内される。
そして参加は締め切られ、最終的には四十人あまりの参加者がアリーナに集められた。
見た感じ参加者はほとんど人間だ。おそらく戦争あがりの傭兵や荒くれ者が殆どだろう。
その程度のやつしかこんなやばそうな大会には参加しねえだろうしな。
現に大会が始まる直前だってのに参加者はルールの一つすら説明されてねえ
俺を見つけるや否、カボッサはまた寄ってくる。
「おうおう、モヤシ男じゃねえか。参加手続きするための筆を握るだけの握力はあったんだな」
「……お前、字が書けるのか?」
「受付の奴に書いてもらったんだ! 文句あるか!」
カボッサは唾を吐き、拳を鳴らす。
「てめえは絶対ぶっ殺してやる。素手でボキボキに折ってやるから楽しみにしてな」
「へいへい」
ガボッサを無視してアリーナに入って正面を見つめると、観客席の特等席にはガボッサとは比べ物にならないほどの巨体をもつ男が退屈そうに座っていた。
――ヴォルフか。
俺にとっちゃあひさしぶりだが、向こうは当然俺のことはしらない。
ヴォルフの隣には、両手両足に枷をつけられ、口を縄で塞がれた女性が座らされていた。あれがシアンとやらか。
アリーナへの扉がしまったことを確認すると、ヴォルフは立ち上がる。
「よくきてくれた」
ヴォルフは立ち上がり、猛獣のたてがみのような髪の毛を無造作に掻く。
「ちまちまとした説明は面倒だからしねえ。ルールは簡単だ。なんでもあり。相手を殺したやつの勝ちだ。人が死なねえ戦いなんてつまんねえからな」
「ちょっ、ちょっとまて。相手が降参しても殺すのか?」
参加者の一人が投げかけた質問に対し、ヴォルフは鼻で笑う。
「あたりめえだろ。相手を殺せねえような雑魚は俺様が二人まとめて殺してやる」
一部の参加者がざわつき出す。
「うるせえ!」
ヴォルフは怒鳴って参加者を黙らせると、喋り続けた。
「てめえらの中で最後まで生き残った奴が俺様と戦う権利を得る。そして俺様に勝てたら大量の金と――」
隣に座っていたシアンを髪の毛から引っ張り上げるヴォルフ。
「この女をくれてやる。魔族の貴族で、おまけに魔装騎士ときた。嫁にするにも売るにももってこいの上物だぜ。当然未使用だしな」
物として扱われる屈辱をうけながらも、シアンの瞳にはまだ溢れんばかりの光が残っていた。
アズールと同じでたくましい女なんだな。
ヴォルフはシアンを手放して座ると、手に顎を乗せて言う。
「さて、さっそく一騎打ちで勝負と行きてえところだが……ちと数が多すぎるな。よし、とりあえず予選だ。残り八人ぐらいになるまで殺し合え。開始!」
なるほど、シンプルでいいルールじゃねえか。
だが、大会の参加者たちは突然すぎるその言葉に理解が追いついていないようだった。
――しゃーねえな。
俺は袖から暗器をとりだすと、隣に立ってたガボッサの喉にぶっ刺す。
「ごふっ!」
ガボッサは大きく目を見開き、俺を見つめた。
「て、てめえ……」
「わりぃな。あの世で腕力自慢でもしててくれ」
ガボッサは倒れ、ピクピクと痙攣する。
周りの連中はその状況をただ棒立ちで見ていた。
「どうした。勝負はもう始まってんだろ」
俺の言葉と共に、参加者たちは自分が置かれた状況に気づく。
そして、一斉に殺し合いを始めた。
おおよそ大会とは言えない、ただの乱闘だ。
もっとも、これがヴォルフの求めてるものだろう。いかれた野郎だぜ。
さて、次はどいつを殺るか……
とっととこの茶番を終わらせてヴォルフと戦うため、俺は短刀を片手に次々と障害物を排除して行く。




