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いきなり勇者召喚3

「棚岡君と居ると安心して狩りできるね!」

「MP底なしで回復魔法使い放題だもんね!」

「棚岡君の居ない狩りなんてもう考えられないよね!」

「わたし王女様より先に棚岡君に告白して彼氏になっておけばよかった!」

 

 俺を軸に狩りが回っていたあの日。

 俺が女子達にモテモテだったあの日。

 あの日は過ぎ去りもう戻って来ない。

 俺はクラスメイト達から罵声を浴びていた。

 

「おい棚岡! もっと真面目に回復しろよ!」

「初級の回復魔法しか使えないんだからもっと早くから回復始めろよ!」

「何ちんたら回復してるんだよ! おめーがグズグズしてたら俺らが死んじまうだろが! 先を読んで回復してくれ!」

「棚岡が回復してもしなくても誤差レベルの回復だからどうでもいいよ」

「あははは! それ言えてるわね」

「ほんと使えない奴だわね!」

 

 あれだけもてはやされた俺だったけど、三ヶ月経った今はクラスの最底辺に位置していた。

 確かに俺の【MP消費ゼロ】のスキルは神スキルだった。

 これさえあれば魔法使い放題の神スキル。

 でもそれは僧侶や魔法使いであればの話だ。

 俺の職は商人。

 戦闘職でも無い上に、サポート職の中でも荷物運びに特化したかなり変わったジョブだった。

 当然魔法も戦闘も全くダメだ、使えない。

 商人では【MP消費ゼロ】のスキルの恩恵を得られない。

 全くの宝の持ち腐れだった。

 戦闘系の高度魔法を覚えられない商人の俺は次々に他のクラスメイト達に抜かされ、気が付くとクラスの最下層になっていた。

 俺を罵るのがクラスメイトだけならまだいい。

 俺が真の勇者では無い事に気が付き、王妃への道を絶たれて半狂乱となった王女の責めが辛かった。


「あなたは自分の事を真の勇者だと言ってたのにこの体たらくは一体どういう事なんですか? どう見ても今のあなたは真の勇者では無いじゃないですか! わたくしはあなたに騙されて(みさお)を捧げてしまいました。こんな真の勇者でも無いクズな父親の子を身籠った事で王族を追放されそうです! 責任を取ってください!」

「そう言われても俺が頼み込んで結婚したわけじゃ無いし」

「三ヶ月です!」

「三ヶ月?」

「妊娠三ヶ月です! あと七ヶ月で赤ちゃんが生まれるのです! 責任取ってください! 責任を取って今すぐ魔王を倒して来て下さい! わたくしへの愛が有るなら魔王討伐ぐらい出来るはずです!」

「無茶言うなよ。商人の俺に魔王を倒す事なんて無理だから!」

「じゃあ、わたくしはどうすればいいのですか! こんな人を本気で愛してしまい、何度も肌を合わせた私がバカみたいじゃないですか!」

 

 突っ伏して号泣する王女。

 解るよその気持ち。

 俺が一番解る。

 クラスメイト達の中で一番強い勇者だと自分で思ってたんだ。

 俺さえ居れば攻撃魔法も回復魔法も使い放題だとな。

 それが今やクラスメイト達は大地を抉り取りながら辺り一面を焼き尽くす巨大な火球を放ち、天空から大岩を割れる程の凄まじい威力の(いかずち)を呼べる。

 それに対して俺の使える魔法は相変わらずピンポン玉サイズの火球。

 クラスメイト達は凄まじい勢いで強くなるのに対し、俺は初日の弱いままだ。

 そんな男の能力に惚れて抱かれて子まで身籠った王女。

 王女の落胆は痛いほど解る。

 俺は王女に何の慰めの言葉を掛ける事が出来なかった。


 *

 

 その夜、神官と騎士が俺の部屋にやって来た。

 手にはかなりの金額がずっしりと詰まった金貨袋を持っていた。

 あとから調べたら金貨でなく銅貨で一万ゴルダしか入って無かった。

 安い宿屋三回分だ。

 ケチくせぇ!

 

「悪いがこの金を持ってここを出て行ってくれ。このままでは王女様の立場が危うくなる一方だ。君が逃亡したと言う事ならば、父親の無能さもバレず王女様の体面も立つ事だろう」


 厄介払いか。

 来る時がついに来てしまったな。

 まあ、ここにこれ以上居ても俺の居場所は無い。

 既に俺の居場所は無くなっていた。

 ここは波風立てずに素直に受け入れる事としよう。

 俺は荷物を纏めると商人のスキルで使えるようになったアイテムボックスに収納する。

 アイテムボックスとは俗に異次元収納とか言われてる青タヌキ愛用の便利な異次元ポケットみたいな物だ。

 手をかざして『しまえ』と念じれば何でもアイテムボックスの中にしまえるし、何かを取り出そうと思えば探さなくても取り出せる便利なスキル。

 おまけにアイテムボックスの中では時間経過も無いので入れておいた食べ物が腐る事も冷める事も無い便利スキルだ。

 俺は身の周りの物を全てアイテムボックスに詰め込むと、王女への謝罪の書置き手紙を残して手ぶらで城を出た。

 外は既に日が落ち、月明りだけが頼りになる照明だった。

 俺は勇者をしていた時に貰ったランタンで道を照らしながら一番近い街へと向かう。

 すると遠くから早馬に乗っている騎士が近づいてくるのか見えた。

 手には槍を正面に構えながらである。

 どう見ても臨戦態勢としか思えなかった。

 嫌な予感がした俺はランタンの火を消し、木々の間に身を潜める。

 反対側の城側からは杖を抱えた神官が馬に乗って来た。

 二人は俺の隠れた木の近くで落ちあい、情報交換を始める。

 

「タナオカは見つかったか?」

「いや見つからない」

「さっきこの辺りでランタンの光が見えた気がするんだけどな。森の中にでも逃げ込んだかな?」

「この辺りの森にはベアウルフが出るから森に逃げ込んだら命はないさ」

「まあ、逃げ込むとしても森では無くこの近くのテスクの街かな? 街の出入りを封鎖して、日が昇ったら(しらみ)潰しに宿屋を調べてやる」

「王女の身籠っている子の父親の秘密を守る為だ。何としてもタナオカを仕留めるんだぞ!」

「あんなのが父親とバレたらアウ王女を王妃に推していた我々全員の出世の道が無くなるからな。奴を葬り去った後、アウ王女を他の勇者と結婚させれば俺達の首の皮はどうにかなるさ」


 どうやら俺は自らの無能のせいでアウ王女一派の敵となってしまった様だ。

 やがて騎士と神官は情報交換を済ませ終えると、それぞれ元の場所へと戻っていった。

 俺は既に騎士の手が回っていそうな関所を通らずに、森の中を抜けて他国へと渡ろうとした。

 誰もいない真っ暗闇な森の中をランタン一つの灯を頼りに進む。

 国境線を超えたと思われる辺りで休憩をして一息つく。

 

「これで一難は去ったな」

 

 だが目の前には月明かりに照らされる凶暴なベアウルフの群れが現れた!

 鋭い爪と何でも噛砕く牙が武器の凶悪なパワータイプの野獣。

 Aランクの勇者四人でも苦戦する敵らしい。

 そんな敵が五匹も現れた!

 五匹が俺に飛びかかろうと腹を地面に擦り付けるほど身を低くして身構えた。

 こんな群れに勝てる訳もない。

 どうやら俺の人生はここで終わってしまうようだ。

 武器を持ってない俺は手を振るい必死に抵抗した。

 

「来んな! 来んな! こっち来るな!」

 

 まるで駄々っ子である。

 駄々っ子が手を振り回してところかまわず殴りまくる。

 駄々っ子パンチだ。

 そんな物が何の武器になるはずもない。

 ベアウルフは俺を食らおうと地を蹴り大きくジャンプすると上空から飛びかかって来た!

 俺は必死に抵抗する!

 

「来るな! 来るな! どっかに消えて()()()!」

 

 俺の発した『しまえ』の言葉にアイテムボックススキルが反応!

 ベアウルフは霧が晴れる様に俺の目の前から消えてしまった。

 それと共に俺の耳に響く声。

 

『アイテムボックスにベアウルフ五匹を収納。残り容量は99.9999999999%です』

 

 ベアウルフは俺のアイテムボックスの中に収納されてしまった様だ。

 命の危険が去った事で笑いが止まらなくなった。

 

「あははは! 俺は生き残ったぞ! 生き残れたんだ! アイテムボックスに敵を収納とか超笑えるな! 反則技過ぎる!」

 

 と、そこまで自分で言ってふと思った。

 これってもしかすると凄くヤバいスキルでは?

 だって、収納するとは言え、攻撃力関係なしに敵を目の前から消し去るんだぞ?

 相手の魔力によってはレジストされる可能性のある即死魔法や死の宣告よりヤバくないか?

 触れずに遠くから消し去れるんだぞ!

 超ヤバいだろ!

 敵が俺の視界に入ったらそれで俺の勝ち確定だ!

 これを使ったら魔王さえも消し去る事も出来るんじゃね?

 

 俺の最底辺からの成り上がりが始まろうとしてた。

 なるべくテンプレを踏んでるつもりでいるけど、ちゃんと踏めてるのかな?

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