いきなり勇者召喚2
アウ王女は皆の前で語り始める。
「皆さん集まりましたか? もう皆さんは神官から既に聞いていると思いますが、皆さんはこの世界に召喚されました。ここまでご理解宜しいですか?」
皆が頷くのを見て王女が続ける。
「ご紹介したい方が居ます。私の横に立っているこのタナオカ様は今回の召喚された勇者様の中で一番強い真の勇者です。それでですね、女子の方にしっかりと覚えていて欲しいのですが、タナオカ様はわたくしアウマフ王女のお婿さんとなりました。つまりは将来の王様ですので、故意や過失で有っても『手を出したら殺します!』と、アウマフ王女は警告します」
それを聞いた女子達、アウ王女に最大限の敬意を払った。
「どぞどぞ!」
「棚岡なんてモッサリ君を彼氏にするのはごめんだわ!」
「あんなの彼氏にするぐらいなら一生独身を貫くわ!」
ちくしょーう!
そこまで言うのかよ!
ひでーな!
ひでー言い様だよ!
お前ら!
死ねよ、糞女子!
それはそれと、こっちに置いといてと……。
アウ王女、なに勝手に結婚するとか言ってる訳?
俺まだ高校生だぜ?
結婚なんて破廉恥な事したら、高校退学になっちまうじゃ無いか!
高校退学の最終学歴中卒とかマジで遠慮したいんですけど!
王女を食った負い目は有るものの、俺の意思でやった事じゃないし!
気持良かったけどあれは俺のせいじゃないし!
ここはキッパリとお断りせねば。
「いやいやいや、アウ王女、いったい何を言い出してるんです? 俺、結婚なんてしないですから」
「タナオカさん、少しお耳を拝借してよろしいですか?」
アウ王女は俺を部屋の隅に連れて行くと、俺の耳元で小声で話し始めた。
それは小声で有っても確固たる意思の乗った言葉であった。
「我が国の伝統で真の勇者の子を産んだ王女は王位継承順位に関わり無く次の王妃となるのです。これがどういう事か解りますか? 本来は王妃になれない第二王女のわたくしアウマフが王妃になれるという事を意味していますし、その旦那様であるタナオカ様は自動的に王様です。ここまでご理解は宜しいですか? 嬉しいですよね? こんな綺麗なわたくしをお嫁さんに貰える上に王様になれるなんて嬉し過ぎですよね? でもですね、タナオカ様がわたくしとの結婚を拒否した場合はどうなるか解りますが? わたくしのお腹の中に宿されている子供は父親の居ない子供となり孤児院行きです。そしてわたくしはどこの馬の骨か解らない男の子供を孕んだふしだらな女として王族から追放されて修道院送りです。そしてどこの馬の骨か解らない男のタナオカ様はわたくしとの結婚を拒否した事でどうなるか解りますか? 王女を手籠めにした重犯罪者ですよ? まともに生きてられると思います? 思いませんよね? という事で、人間らしい生活を送って生きていたいならば拒否権は有りません! ご理解頂けましたか? 船は既に旅立ったのです! ここは大海の中、もう降りる事も後戻りも出来ません! わたくしもタナオカ様と体を重ねてしまった以上後には引けません。タナオカ様もこの船に乗り続けるしか無いのです!」
マジかよ!
完全にハメられたぜ!
計略的にも性的にも!
ここは王女との結婚を飲むしかない。
俺は首がもげるんじゃないかと言うほど首を上下に振って頷きまくった。
「はい! 結婚して下さい! お願いします!」
「では皆さんに聞こえる様に大きな声で復唱をお願いします。『私、真の勇者であるタナオカは、美麗で秀麗で端麗なアウマフ王女と結婚します!』と」
まじ?
何この罰ゲーム!
なんでクラスメイトの前でこんなこと言わないといけないの?
「言わないとダメ? みんなの前でそんな事を言うのはちょっと恥ずかしいんだけど?」
「ダメです!」
王女は考え直してくれる気は無いようだった。
半ば焼け糞になって大声で怒鳴ってやった!
「俺! アウマフ王女と結婚します!!!」
沸き上がる拍手喝采!
「棚岡! お前は一生結婚できないと思ったが出来て良かったな!」
「俺も心配してたんだ。おめでとう!」
「棚岡君、結婚出来て本当に良かったねっ!」
「良かった良かった!」
みんな心から祝ってくれてる。
モテない君の厄介払いが出来たと思ってるだろ!
ちきしょー!
でも、王女は俺の言葉を聞いて満足してるようだ。
「はい、よく出来ました! という事で、皆さんには私のお婿様のタナオカ様のサポートをお願いします。それでは皆様にはタナオカ様の能力のお披露目といきましょう。この中で一番ランクの高いAランクの魔女と聖女の方、居ましたら挙手をお願いします!」
二人の女の子を選び、皆の前に手を引いて連れて来た。
「この方たちは今回召喚された勇者様の中ではかなり上位に位置する能力を持つ魔女様と聖女様です。その方とタナオカ様の能力を比べてみましょう。まずは魔女の方からお願いします。あちらに見える的に向かって手を突き出し『ファイア!』と唱えてみて下さい」
三十メートル先にある鉄製の標的に火球が放たれた。
火球はゴルフボール程の大きさ。
それが的に向かって真っすぐに突進!
的に当たると火花を散らせたあと、的を軽く焦がした。
「大変よく出来ました。ではもう一発お願いします」
だが、魔女の女生徒は苦悩の表情を上げる。
「ダメです! 何度魔法を唱えても火の玉が出ません!」
「はい、ありがとうございます。それが普通の魔女ですね。LV1の魔女は魔法を一発しか撃てません。ではタナオカ様、同じようにお願いします」
俺は火球を放つ!
「ファイア!」
俺の手から火球が放たれる。
火球は真っ直ぐに的に向かって飛んで、火花を散らした。
「続けて下さい! 火球が出なくなるまで何度も!何度も!」
「ファイア!」
「ファイア!」
「ファファファファファファファファファイア!」
はぁはぁはぁ!
のどが枯れるまで連射してやったわ!
凄まじい数を連射しても火球は止まる事が無かった!
俺、滅茶苦茶魔法を使えるんだな。
こりゃ強いわ!
王女が俺の事を好きになるのも解らなくもない。
俺の火球を食らいまくった的は鉄製なのに真っ赤に焼け、やがて燃え落ちてしまった。
「見ましたか! これがタナオカ様の真の勇者の能力【MP消費ゼロ】の威力です! 何度魔法を唱えてもMPと呼ばれる魔法の素が尽きないのです!」
沸き上がる歓声!
「スゲーな、棚岡!」
「お前見直したよ! 今までバカにしてごめん!」
「本当にお前は真の勇者なんだな!」
そうだろそうだろ!
俺は強いんだよ!
異世界サイコー!
勇者もサイコー!
それを聞いてMAXテンションの王女!
「そうでしょ! そうでしょ! わたくしの旦那様は優秀なのです! 次は回復魔法を披露しますよ!」
神官の一人が自らの腕にナイフを当てて軽く引く。
すると腕には一条の赤い筋が描かれ、やがて血玉が浮かび上がった。
聖女の女生徒が神官に向い回復魔法を使うと、一度目は回復したがやはり二度目は無かった。
俺が回復すると十回を超えても何ら問題なく回復をとなえられ続ける。
あれ?
もしかして俺って凄い?
俺の魔力は底なしかよ!
再び沸き上がる大歓声!
「棚岡君凄い!」
「棚岡、お前はまるで神だな!」
「俺は一生お前についてくぜ! 尽くしてやるぜ!」
皆、俺を本気で尊敬していた。
王女も俺の事を誇りに思っていた。
今考えると、この時が俺の召喚勇者人生のピークだったかもしれない。