いきなり勇者召喚1
コメディ調の異世界冒険小説です。
誤字脱字等が有りましたら、感想や活動報告で教えてもらえると助かります。
夏休み前の終業式を控えたその日、それはやって来た。
ブオンと低い唸り音と共に巨大な魔法陣が気怠い暑さに満たされた高校の教室の床に描かれる。いくつもの青いライン。これはアニメでよく見る魔法陣ではないか! 教室の床全体を覆う巨大な魔法陣だ! 何故魔法陣が教室に? 誰かの悪戯なのか? なんて事を考えていたら床の魔法陣が強く輝きだす!
うお! 眩しい! 目が―! 見えねー!
床の上で光る魔法陣に気が付いた生徒達から起こるどよめき。
「なんだよこれ!」
「なにこれ! なんで床が光ってるの!」
魔法陣の光は俺を飲み込み、クラスメイト三十八名と担任の英語教師も光の中に飲み込まれた。
*
「はっ! ここは何処だ?」
気が付いた俺はガバット起き上がる!
俺が気が付いたのは見慣れた教室では無い。
どこかのだだっ広い神殿ぽい所だった。
床がひんやりしててお尻が冷たい。
それに硬くてお尻が痛い。
ここは一体どこなんだ?
目の前には不気味な怪物の石像が何体かそびえ立っていた。
なんで教室に石像が有るんだ?
いや、ここはどう見ても教室じゃ無いだろ。
俺が目覚めたのは教室では無かった。
この石像はガーゴイルと呼ばれるファンタジーな生き物に似てるな。
ゲームで見た事有るぞ!
たしか恐竜みたいな格好してるのに大して大きくもない翼で空を飛ぶ変な敵だった。
ガーゴイルの石像なんて見るのは初めてだ。
部屋の真ん中に女の人が立っていた。
誰だろう?
凄く綺麗な女の人だ。
女の人というよりも俺達と同じぐらいの歳の少女だ。
どう見ても日本人じゃない。
金髪碧眼の欧米人。
でも欧米人みたいな鼻が異常に高かったりゴツイ輪郭を持つ顔の作りじゃない。
日本人がゲームの中に登場させる金髪美少女。
東洋系の可愛さと、西洋系の綺麗さを兼ねさせたような感じの少女。
思わず一目惚れしてしまいそうな少女が立っていたのだ。
その少女は身分の高さを示す上品な服を着ている。
少女がガーゴイル像の横に立ち辺りを心配そうに見廻し、おっさん達が何人も慌ただしく動き回っているのが見える。
おっさん達はローブの様な服を着ていた。
俺の貧相なボキャブラリーではうまく表現できないんだが、あれだ。
教会の神父というか、白いローブ着てるから多分司祭だ。
ゲームの中によく出てくるだろ?
冒険者が死んだら復活の魔法で冒険者を蘇らせるのとか、セーブが仕事の司祭さん。
多分あれだ。
セーブしないで電源切ると滅茶苦茶怒ってツルハシ振り回して「二度とセーブする前に電源切るんんじゃねーぞ!」と脅しながら延々説教してくるのもいるな。
司祭のおっさん達は何グループかに別れて召喚されたクラスメイトを一人ずつ引き起こして何かを調べていた。
何してるんだろうな?
俺は起き上がっておっさんに聞いてみた。
「何してるんですか?」
「おお、勇者様! お目覚めですか。今この石板でステータスと呼ばれる勇者様達の能力調べて真の勇者か『勇者鑑定』をしてるんですよ。それでは勇者様の能力も早速計測を!」
俺が勇者?
ないないないない。
おっさんの間ではなんか変な遊びでも流行ってるのかな?
俺が勇者な訳がない。
いや、これはあれだ。
訳解らない設定で訳解らない事を口走って、モーホーのおっさん達が男子高校生の身体を触りまくって喜ぶ変態プレイだ。
俺そんな趣味無いから!
「やめてー!」とどこぞの弁護士みたいに奇声を上げて驚かしてやろうかと思ったら、俺の額に石板を宛がった神官から、逆に驚きの声が上がった!
それも大声で!
おっさんが叫ぶから俺が奇声上げるタイミングを失ったじゃ無いか!
「激レアスキルじゃないですか!」
もう一人の上司っぽい神官も石板を覗き込む。すると再び驚きの声が上がった!
それもすごい大声で!
「うおおお!!! 【MP消費ゼロ】だと! 大当たり中の大当たりの激レアスキルじゃないですか!」
「真の勇者様はこのお方で確定ですな!」
「そうだと思います!」
「申し訳ない、勇者様のお名前は何と言いますか!?」
おっさん達は真顔で名前を俺に聞いてくる。
え?
さっきのはおさわりプレイじゃ無くてマジで測定してたの?
何を測定してたのよ?
あんな石板を額にあてても何にも解らないでしょ?
でも、おっさん達の俺を見るキラキラした目を見てると無視するわけにもいかない。
仕方なく俺は名前を教えてやった。
「棚岡です」
「勇者タナオカ様ですか。ではこちらへ! 王女様と謁見しましょう!」
何言ってるの?
このおっさん!
謁見とか訳解らないんだけど!
おっさんは戸惑って立ち尽くしている俺の腕を持つと抵抗できない程の強い力で引っ張る。
俺は王女の前に連れて来られた。
さっき見た綺麗な顔の少女だ。
俺と同い年か少し若いぐらいで、小ぶりなお胸と金髪碧眼でまるでおフランス製のお人形様みたい。
結構俺好みの可愛い系の顔だったりする。
思わず顔が熱くなる俺。
しゃーない。
こんな美人の女の子を前にすると、彼女いない歴十七歳の俺は舞い上がってしまう。
「王女様、今回の真の勇者のタナオカ様です」
「ご苦労、下がってください」
「はっ!」
神官達はすぐにその場を去る。
おっさん達が居なくなって、王女と二人っきり。
くはー!
やべえ!
すごい綺麗な女の人を前にしてるせいか、滅茶苦茶緊張するというか興奮する!
彼女いない歴十七年=年齢なので仕方なし。
王女様が俺の顔をじっと見つめる。
そんなに見つめないで下さい、恥ずかしくて死んでしまいます。
俺はさらに興奮してやかんの様に顔が熱くなる。
きっと爆発しそうな位真っ赤な顔をしてる筈。
そんなキョドキョドする俺を見て王女は「キモっ!」とも言わずに真面目に自己紹介を始めた。
意外といい人かも。
なんか好きになりそう。
「わたくしは神聖国ファーレシアの第二王女アウマフです。親しみを込めてアウとお呼び下さい。タナオカ様は異世界では学生さんをやられてたそうですね。帰すあてもないのにいきなり異世界であるこの国に召喚してしまい、ごめんなさい」
教室の床に魔法陣を見たけど、あれは本当に召喚魔法陣だったのか。
召喚魔法なんてマンガやアニメの中だけのものと思っていた。
その召喚魔法陣で俺が呼ばれたのか。
なんで何にも取り得もなく何にも出来ないこの俺が召喚魔法で異世界に呼ばれたんだろう?
謎だ。
夢でも見てるんだろうか?
でも、こんな綺麗な女の子と話せるなら夢でもいいぞ!
俺はニヒル(死語)な表情を王女向けた。
ちなみにニヒルって言うのは今でいうクールだ。
つまり決め顔。
「いえいえ、その様な事を気にしないでください。どうせうちの高校を卒業しても進学どころか就職も出来ない様な底辺高校ですから。学校を卒業したら俺はフリーターやニートと呼ばれる冒険者稼業を開業しようと思ってたぐらいなので、異世界召喚で勇者になるのは俺的にバッチグーです!」
俺の言葉を聞くと王女の顔がパッと明るくなった。
俺のクールな表情が効いたんだろうか?
うん、きっとそう。
──────────
タナオカの攻撃>ニヒルな笑顔! 王女はタナオカに魅了された。
──────────
「では、タナオカ様は勇者になる事をお望みですか?」
「もちろんです!」
「ありがとうございます。それでは早速ですが将来の人生設計を始めましょう。タナオカ様、お子様は何人欲しいですか?」
「はぁ?」
なんだろ?
お子様って?
さっぱりよく解らんのだが。
勇者になるって事はあれか。
たぶん竜王とか大魔王を倒すんだな。
となるとパーティだ。
さすがに俺一人じゃ魔王とか千年掛かっても倒せる気がしない。
きっと、俺の手足となって働いてくれる頼もしいパーティーメンバーを用意してくれるんだな。
頑張れパーティーメンバー!
頑張って魔王を倒してくれ!
俺は影から応援してやるぞ!
「お子様……ですか? 言ってる事がよく解らないのですが、勇者ですから冒険の仲間を用意してくれるんでしょうか? 俺の希望としてはメイド兼抱き枕になる幼女メイドをパーティーに一人か二人入れてくれると俺的に非常に助かります!」
「抱き枕ってなに言ってるんですか! 意味が解らないんですけど! 子供とはわたくしとあなたの子供ですよ。子供は何人欲しいですか? わたくしの希望としては男の子一人、女の子一人の合計二人なのですが、タナオカ様が十人程欲しいと言うのであればわたくしとしても夜のお勤めを頑張らせて貰います!」
「それって俺の子供ってこと?」
「そうでございます! ごめんなさい。真の勇者様が見つかった事で気が動転してしまいました。あまりに嬉しくて勇者様にプロポーズをする事をすっかり忘れてしまいました。話が前後してしまいますが、私と結婚して頂けないでしょうか? わたくしと召喚した勇者様との間に優秀な子を成して、優秀な血脈を王族に取り込み、王国の永遠なる繁栄に寄与して頂けると助かります!」
お子様ってそっちかよー!
直球ど真ん中って言うか、直球デッドボールだろ!
まじか!
マジなのかよ!
王女と結婚出来たら嬉しいけど、俺十七歳だぞ!
さすがに高校生が結婚するのはちょっと早過ぎるだろ!
いくら王女が可愛いからと言って十七で結婚は早過ぎるぞ!
俺はやんわりと王女様にお断りの意思を伝えた。
「いやいやいや。俺十七歳の高校生だからそう言うのはまだ早いから! 責任持ちたくないから! 家庭持ちたくないから! 休みの日は家族サービスなんてしないで部屋に引きこもってゴロ寝してゲームしてたいし!」
ちょい!
まて!
俺!
なに口走ってるんだよ!
訳解らないこと言ってるなよ!
俺は動揺しまくったのか、自分でも理解できない様な訳解らない事を口走ってた。
本当は「結婚の申し出は嬉しいですが、俺はまだ未成年です。せっかくのご厚意に答えられず申し訳ないのですが、成人する二十歳まで待って頂けないでしょうか?」そう言うつもりだったのに、なに言ってるんだよ俺!
俺の訳解らない言葉を聞いた王女。
俺の口走った電波理論に負けずに理路整然と反論してくる。
「なにをおっしゃいますか! 十七歳なら立派な成人ですわ。この国では十二歳が成人年齢となっています。という事なので早速寝室に行って子を成しましょう。今日のわたくしは百パーセント間違いなく子を成せる月の日になっています!」
出会ったばかりの男と子作りとか百パーセント間違えてるから!
王女の主張は全然理路整然としてなかった!
十二歳がこの国の成人年齢 ← わかる。
十七才の俺が成人 ← わかる。
俺が成人だから王女と子作りする ← はあ?
最後の子作りへの理論の流れが訳解らなすぎる。
王女もきっとテンパってる。
王女と結婚するとしても少し日を置いてお互い冷静になってからだな。
俺は王女にお断りの意思を伝えた。
「いや、まじで俺、そう言うの無理ですから!」
「残念ですね。では、まずはお近づきの印にお手を握るだけならよろしいですか?」
「それぐらいなら」
とりあえずは清い交際、彼氏彼女の関係から始めたいね。
ふー、やっと王女も落ち着いてくれたか。
俺が手を差し出すと、王女は俺の手をギュッと握って来た。意外と力が強いな、この王女。王女が何かつぶやくと、その途端俺の身体から力が抜け膝から崩れ落ちる様に床に倒れ込んだ。
あれ、なんだろ?
力が全然入らない。
「少しの間だけ効く麻痺の呪文を掛けさせて貰いました。では神官! タナオカ様を寝室に運んでください!」
「はっ! 了解しました」
担架で寝室に俺を運び始める神官達。
「えっ? 何をするんです?」
「子作りでございますわ」
「俺そう言うのは無理だから! さっきダメって言ったでしょ!?」
「大丈夫でございます。タナオカ様にその様な意思が無くてもちゃんと魅了の魔法を掛けますのですぐにその気が起こる様になりますし、タナオカ様が嫌で有るのならば事が済んだら子作りの記憶はちゃんと全て消しておきますからご安心ください」
という事で、俺は寝室に運ばれ俺の意思に反して生まれて初めての子作りを始めた。最初は嫌々だったけど開始五秒でめちゃくちゃ楽しんでしたらしく、事が済むと記憶を消されて神殿へと戻された。子作りは確かにしたらしいが、記憶を消されたので詳しい事は全く覚えてない。最初王女から口づけをされた時に魅了されたのか、とってもいい匂いがして頭の中が真っ白になったのだけは覚えてる。
神殿に戻ると皆のステータスの鑑定が終わっていた。
胸にはAかBとか書かれてるネックレスが付いている。これはクラスメイトの能力をランク分けしたネックレスらしい。俺はSのネックレスを渡された。Sは真の勇者という意味で、Sランクはクラスの中で俺一人だけらしい。
俺の異世界生活は期待度MAXで始まった!
なろうテンプレ的な話を目指してみます!
ご声援よろしくお願いします。