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ヒロインのお役目返上します。  作者: あいまいみー
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2.「来るはずのない人」

エドワード様に医務室まで送られ、あれよあれよという間に寮の自室へと帰されてしまった。

元々体調が悪かった訳でもないので「大丈夫だ」と何度も訴えたのだが、エドワード様が


「お前がすぐに無理をする性格なのは、よく知っている。だが、俺の前では虚勢を張るな。……強がるお前も魅力的だがな」


などとのたまってくれたせいで、目眩がしたため、これ以上この場に留まるのは無理です離脱します、とばかりに急いで部屋に戻ったのだ。出会って数日にも関わらず、何をどうしたら「俺はお前の全てが分かってるんだぜ☆」と言わんばかりの態度が取れるのだろう。今の私には理解できない。ごめん、今も過去も未来も無理だった。

あの場で力の限り、エドワード様の頬を叩いてしまいたい衝動を堪えた私は偉いと思う。褒めて欲しい。

というかこれ、現世だったらパワハラとかセクハラとか何かそういう類のものだと思う。同僚の男性に言われたら確実にドン引き案件だと思う。そういえば頭ぽんぽん、というのもされた。

アレが許されるのは恋人同士とか、女の子同士だけだと思う。たまにいるんだよなあ、ああいう勘違い男。女子って頭ぽんぽんされるの好きでしょ?って仲良くない男に触れられて喜ぶような女性は早々いません、つーの。


「はあ……入学早々、強制的に休まされるなんて、ついてない……」


散々心の中で悪態を吐いてからベッドの上に寝転ぶと、今度はため息が出てきた。


今世で学舎に入るのは初めてだ。

学園とは名ばかりの、小さな社交場だとしても、貴族としての正しい立ち振る舞いを覚える良い機会なのである。

ただでさえ市井で生まれ育った、というだけで大きなハンデを背負っている上に、王族周りの男性に近付く女、ともなれば普通は避けられてしまう。

一応、うちはとある伯爵家の分家筋にあたるらしいのだが、それが上記のハンデを大きく覆すほどのジョーカーにはならない。

だからこそ、周りから遠巻きにされてもいいから、様々な令嬢の立ち振る舞いをこの目で見たかった。

この先だって見られるだろうけど、攻略対象がぐいぐい来ている現状、遠からず無視や陰湿ないじめが待っているだろう。生粋の令嬢がそんなことをするのだろうか?という疑問はある。

ここが完全にゲームの世界で、周囲はプログラムにより定められた行動しか取れない――というのならば、フラグの為に起こりそうだけれども。今までの流れから謎の強制力が働いているようにも思えるし。


前世の記憶を思い出す前の「私」自身が持つ知識に照らし合わせれば良いのだろうが、「私」は殆ど市井で育ってきた。

母が亡くなってすぐに引き取って貰えた訳でもない。かと言って浮浪者にはならなかったのだが、その辺りの事情は一先ず置いておくとして。

父に引き取られてから学園に入るまでの数年間は、令嬢として、貴族として、必要な知識と最低限のマナーを学ぶのに精一杯だった。当然社交会へのデビューすら出来ていない。

だから、一般的な令嬢と触れ合ったことなどなかったのだ。


(文字の読み書きって、難しいものだったんだなあ)


前世では、当たり前に出来た事だった。けれど、この国では違う。たくさん、たくさん練習した。夜遅くまで燭台の灯りを頼りに勉強して、翌朝クマを作って父に心配されてしまった程だ。

それなのに、その成果も試せない。……なんだか、酷く悲しくなってきてしまった。


「なーに、愉快な顔してんだ?」

「愉快じゃない、こっちは悲しんでるの、浸ってるの」


何処か楽しそうな声に、思わずムッとする。人が真剣に悩んで困ってぐるぐる考えて頭がバターになりかけてるというのにどういう神経だ。

デリカシーに欠ける。毎回だけど遠慮というものはないのか。悩める乙女に愉快な顔とは何事だ。


「ありゃ。これまた面倒な拗ね方しちまって、難儀だねぇ」

「もう、うるさいな、放っておい……て、……!?」


ああもうこちらが先に放り出してやろうか!

そう思ってから気付く。まって、此処は寮で、しかも女子専用で、二階で、いやそれ以前になんで、なんで、お前がここに居るんだ。


「な、な、……ッ」

「ハハ、やっぱ面白い顔」


固まっている私を他所に、そいつは開け放していた窓からひょい、と身軽な動作で部屋に入って来る。


「邪魔するぜ、おっと、もう既に邪魔とか言うなよ。寂しいだろ、オレが」


よくもまあそんなに口が回る、と感心してしまう、けれどあまりにも粗雑すぎる言葉遣いだ。

けれど、それが、とてつもなく懐かしい。


「クリス……!」

「はいよ、クリス様ですよ」


風で揺れる、特徴的な、琥珀色の髪。

ヘーゼルの目を細めて、へら、と彼が笑う。


クリス――……クリストフ=ベルマン。

侯爵家ご子息であり、私の昔馴染みが、そこにいた。



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