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ヒロインのお役目返上します。  作者: あいまいみー
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1.「面倒くさい人」

「あまりにも不甲斐なかったからな、それを叱責するのも王子の勤めだろう?」

「…………はあ」

「まあ、手が掛かるとは言え未来の忠臣達だ、そう思えば……」

「なるほど」


何故私は、朝からエドワード様の自慢話を聞かなければならないのだろう。周囲からの視線が痛い。

ゲームの時間軸だとまだスタートして数日ですよ。本来はもう少し徐々に距離を詰めて行くものじゃないんですか。というか自分が第一王子だって自覚はありますか?婚約者がいる身なのはこちとら知ってるんですよ。

ストレートなで艶やかな黒髪に、意思の強そうな真紅の瞳。すらりとした体は程よく筋肉がついており、顔立ちは整っている、という言葉では足りないほどだ。

黙っていれば、気高さ溢れる麗しの王子なのだろう。そう、黙っていれば。

今は何やら自分の自慢……もとい虚勢を張るのに精一杯だ。うーん、ゲームの中じゃもう少しキリッとしてた気がするんだけどなあ。精一杯、自分は心身共に強い男だアピールはしていたかもしれないけれど。


いや、そんなことは今はどうでもいい。エドワード様には適当な生返事をしつつ、私は不自然ではないように気を付けながら周囲を確認する。

……大丈夫、どうやら彼女はこの場にはいないらしい。


ヴィヴィアンヌ=エレオノーラ・ドーファン。


私が探していた相手の名前だ。彼女はエドワード様の婚約者である。公爵家の令嬢であり、彼女の家は建国以来、代々国を支え続けてきた。

領地の民からの信望も厚く、あらゆる意味で他の公爵家とは頭一つ分飛び抜けている。いや、一つでは足りない程の権威を有していると思うのだが、かの一族は決してその威光に驕ることも溺れることもない。

特にヴィヴィアンヌ様は幼い頃より王妃になるべく教育を受けており、その立ち振る舞いは、ただ嘆息を零すことしか出来ないほどに美しい。銀色の緩やかなウェーブ、瞳は夜の帳を写したような深い色合いで、白い肌と細い手足が実に良い。


……何故私がここまで持ち上げるかって?そんなの、当然私がヴィヴィアンヌ様のファンだからに決まっているでしょう!


「花の理想郷」では、何と言ってもライバル令嬢が素晴らしい。基本的にどの攻略対象にも婚約者がいる、というのは以前説明したが、その立ち位置は悪役令嬢とは少々異なる。

攻略対象とヒロインの間に立ち塞がる強敵。しかし、彼女達は芯の通った真の淑女である。

その見目が麗しいのは勿論、影でこそこそと小細工などしない。最初の内は苦言を呈してくれるし、それも正当性のあるものだ。ある意味、貴族社会について右も左も分からないような少女に、貴族として覚えておくべき暗黙の了解や常識を教えてくれる。

ルートによっては、彼女達と愛しい人を賭けて様々な決闘を行うことになることもあるのだが、そのミニゲームもまた面白い。

そこでヒロインが勝てば彼女達はヒロインを良き友と認め、自ら身を引くのだ。


言っておくが、私は攻略対象を落とす気はない。決闘は楽しそう、と思ってしまうが、私は彼らを奪う気など微塵もない。

ちなみに、そのルートに入るにはある程度ライバル令嬢との友好値が必須となってくる。友好値が低い場合、学園でも人気な彼女達の取り巻きが勝手に暴走しヒロインを虐めてくるのだ。

そして、その悪事を知った攻略対象達は「ヒロインになんてことをするんだ!婚約者のあいつの差金だろう、そんな女とはこちらから婚約を破棄させて貰う!」とか声高々に言い出す。

多分本音は、自分だけのカウンセラーを手放したくないだけだ。


困る。それは凄く困る。

というか私はヴィヴィアンヌ様と仲良くなりたい。

謎のゲーム補正で初期から好感度が高くなってしまったようだが、第一王子でなくとも攻略対象はとにかくお断りなのだ。

ヴィヴィアンヌ様に妙な勘違いをされたら私は泣く。泣いて、今隣にいる脳内お花畑のこの男を殴る。


ゲームではヴィヴィアンヌ様はエドワード様に幼少期から強い恋心を寄せていたし、急に市井の出である妙な女が近付いた、殿下もその妙な女を気に入っている様子である……などと伝われば心を痛めるだろう。

嫌だ!それは嫌だ!っていうかダメだ!

ヴィヴィアンヌ様が私如きに煩わされるなんてあってはならない。くっ、なんたる害虫め、麗しのヴィヴィアンヌ様は貴様のせいで――……いや害虫は私じゃないか!くそう、何処までも上手くいかない!


「……どうした、フローラ。具合が悪いのか」

「……へ?」


不意に、エドワード様が立ち止まる。問われた言葉に瞠目するが、体調は万全だ。しいて言えば朝からエドワード様の話に付き合わされている疲労感があるくらいで。


「先程から、眉根を寄せている。このまま医務室へ向かうぞ、授業中に倒れては叶わんからな」

「あっ、いや、」

「……ふ、お前はすぐに遠慮をする。良い、俺が許す。ゆっくりと休め」


あっ、嫌な予感。

大丈夫、と言うより早く、ひょいとエドワード様に抱き上げられる。周囲からは黄色い悲鳴があがった。

いいなあ、私も悲鳴をあげたい。絹を裂くようなヤツの方だけど。

きっとゲームなら今ここでスチルが入っただろうな、と現実逃避しながら口を閉ざす。馬の耳に念仏、この王子様には何を言っても通じないだろう。

お姫様抱っこという恥ずかしい体勢のまま、宣言通り医務室へと連れていかれる。


どうにでもなーれ、という気持ちで死んだ魚のような目をしていた私は、影からこちらを見詰める人影に気付くことはなかった。


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