終章:大団円の舞
魔機との戦いが終わり、町や王国全体は、復興にいそしんでいる。
その頃三途は、町や月華の森の復興を手伝いながら、舞台の準備にも取り組んでいた。
舞踊の流れはすぐに決まり、衣装も開催する予定日も場所も、思ったより早くめどがついた。
問題は舞台や衣装のための素材だったが、町の人々が率先して売ってくれた。復興に優先してほしいと三途も一度は断ったが、この舞台を楽しみにしている、と彼ら自慢の素材を存分に活用して、最高の舞台を作ってほしいと願われてしまった。ゆえに彼らの気持ちをむげにしないためにも、三途は受け入れることにした。
三途が一番驚いたのは、女王イストリアからいくつかの舞台道具が送られてきたことだった。彼女の手紙つきであった。
いつのまに舞台のことを知ったのだろうと気になったが、ヒュージの情報網によりすぐに察知したらしい。
彼女もすぐにこの町へと訪問する予定のようだ。それまでに、三途は復興と稽古に励んだ。
そして、その当日がやってきた。
月華が縫ってくれた衣装、セーレとシロガネが組み立ててくれた舞台、神流が共に合わせてくれた脚本と舞踊。
マデュラとガムトゥが、町を駆け回ってくれた宣伝。ヒュージがイストリアを呼び寄せてくれ、イストリアもまた三途の舞台のために、なけなしの素材を送ってくれた。
遠く、かつて力を貸してくれた飛行機乗りのガンド、そして飛竜のオルムも、遠方からこの舞台を見に行こうとしている人々の足になった。
おかげで、舞台当日は多くの観客で町がにぎわった。
舞踊ひとつのため、三途の知るひとたちが、少しずつの協力をしてくれて、そうしてようやく舞台ができあがるのだ。
衣装を身にまとった三途は、柄にもなく緊張していた。
「大丈夫?」
と、舞台衣装を着た神流にのぞき込まれる。
「……ん、ああ。ちょっとだけ」
「珍しいね」
「久しぶりだったから、かな……」
「三途ーどうしたー」
と、月華が舞台裏でひょっこり顔を出した。
「ああ、月華」
「緊張してんの? 三途がめずらしー」
「だよね。僕も久しぶりにみた」
「ひどいいいようだな……」
「実際そうなんだもーん」
「もーん」
「もんじゃねー……」
もー、と月華がふうとため息をつく。
「大丈夫さ。三途なら」
月華が、こともなげにいう。神流も便乗して、そうさ、と言った。
三途はじっと、月華を見る。
自信に満ちた笑顔だ。月華は三途を信頼している。
三途ならば、きっとやり遂げる、と信じている目だ。
それは三途が番人だからとかそういうことでは決してない。
三途だから、できることだ、と疑うこともなく信頼しているのだ。
三途もまた、月華を信頼している。
その月華が信頼する自分なら、きっとできる。
そして、今まで役目を果たしてきた自分の軌跡を思い出す。
自分という存在なら、きっとできる。そう思えた。
すると、ふと緊張の糸がゆるんだ気がした。
ようやく三途は表情を和らげる。
「……よし。もう平気」
「うん。じゃあ、行こう。お客さんが待ってる」
「わかった」
神流に手を引かれ、月華に背を押され、三途は舞台へ一歩進んだ。
その舞台は、番人の物語だった。
王国でもっとも強い力を持つ者が、少女のために戦いへ身を投じる物語。
あらゆる苦難を仲間と一緒に乗り越えながら、番人は王国を救う。
この舞踊が終幕したとき、その町ではやむことのない喝采が響きわたったという。
その裏で、ささやかに、しかし確かに贈られた心からの喝采を、三途だけが知っている。
了




