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魔機ごろしの三途 ~王国最強の力は少女のために  作者: 八島えく
十二章:イストリアとクロア
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80話:繰り返し立ち上がる

 昆虫はたたき落としてもたたき落としても、無限に湧いてくる。巨人魔機は数こそ増えないが、破壊しても破壊しても、何度でも立ち上がってくる。

 命でもあるコアは間違いなく壊した。コアは魔機の生命線である。それが砕ければ魔機はもう生き返ることはない。

 なのに巨人型に限っては、なぜだか壊したはずのコアも無視してまた起動を繰り返している。

(どうなってるんだ……?)

 三途は考えながらも手は止めなかった。番人システムは絶えず警鐘を鳴らし続けている。ここで攻撃をいったん止めたら、減ることのない魔機に圧倒されて負けてしまうだろう。番人の警鐘はもはや本能だった。

 近づいてくる魔機を力任せに斬り壊しては、起きあがってくるのを再び壊す。

 コアは粉々だというのに、魔機は死ぬことがなかった。

 ならばと四肢を吹っ飛ばす。武器を握ったままの腕が、床に転げていく。

(どうだ)

 と、三途は品定めをする。腕をとばされた勢いで倒れた魔機は、再び起きあがる。そして離ればなれになった腕が、うぞうぞと床を這いずって魔機の本来あるべき場所へと帰っていった。がちり、と腕は直り、また武器を振りかざす。

「そんなのアリぃ……?」

 三途は表情をひきつらせる。複数の巨人型魔機のいくつかは、コア部分に矢を一本穿たれている。月華の正確な一発が、命の源を間違いなくしとめている証拠だ。三途は後方から、月華の矢とパチンコ玉が撃たれて行くのを耳で聞いている。月華の投擲技術は一流だ。決して外れることはない。つまりは、コアは的確に打ち抜かれているのだ。

 それにも関わらず、魔機は動きを止めない。


「何なんだこいつらー! 心臓を貫かれたならおとなしく息絶えとけって!」

 月華がわめく。その理不尽で乱暴な言葉も、気持ちはわかる、と三途は同意した。

 壊して壊して倒していくのに、何度も起きあがる魔機の生態に戸惑いを隠せないのは、月華と同じ気持ちである。

 それでも負けじと弓を引く彼女の姿に、三途も奮い立たされた。

「クロア、魔機のこのヘンな行動に心当たりはあるか!」

 月華の更に後方で、剣をふるいながらしっかりとイストリアを守るクロアに、三途は乱暴に問いかけた。

「え、あ、あぁ……! いや、私にも何がなにやらだ!」

「味方側にいたクロアにも内緒だったってわけか……。味方に対して隠しごとなんてつれねえことするんだなぁ魔機は」

 三途は後ろへ倒した魔機を踏みつけ、その先に銃口をこちらへ向けるもうひとつの魔機を着地ざまに斬り伏せた。手にしていた武器を狙って絶つが、武器も腕も再び再生された。

(まったくご丁寧な再生能力なことで)

 心の中でそうひとりごちながら、それでも刀を振るう手は止めなかった。

 大型魔機のうち三機が、武器を変形させた。斧だったり剣だったり槍だったりするそれらは、機械特有な変形をしながら銃器へと生まれ変わる。

 銃口はすべて三途に向けられていた。銃口の奥がきいぃ、と光を吸い込んでいる。放たれるのは、どうやら弾丸だけではなさそうだ。

「俺から離れろ!」

 三途は後方へ鋭く叫んだ。はっ、としたクロアはイストリアを抱えてすぐさま行動に移す。月華はすでに距離をとりながら矢をつがえていた。

 

 魔機は三途に向けて躊躇なく弾丸を打ち込んだ。案の定、弾丸に乗せて光線も放たれた。

 無数の弾丸が自分に向けてばらまかれ、発砲音が弾ける。その隣からは青白い光線がまっすぐ飛んでくる。三途は横へ横へと転げながら弾と光を回避していく。

 体の横すれすれに弾丸が刻み込まれていく、少しでも止まると次の瞬間には自分がああなっているんだろう。

 床を這いながら駆け抜ける。弾丸を込めた武器をこちらに向けている魔機一機を立ち上がりざまに蹴り上げる。

 体勢が崩れた魔機の懐に飛び込み、喉を穿つ。一端生命の光を失った魔機は、すぐに光を灯し直した。

「またかよ!」

 若干苛立ちを交えた声で三途はわめいた。力任せに首を飛ばして次の魔機へと急ぐ。

 青白い光線は相変わらず自分に向いていた。その方が都合が良い。

 光線銃を双刀で輪切りにして一時的に魔機の戦力を削ぐ。その武器もすぐに元いた場所へ戻り、三途が瞬きした直後には、何の傷もない光線銃がこちらに向けられている。

 

「きりがないぞ!」

「そのようだな!」

 矢が風を切る音が心地よく聞こえる。月華の声も焦りが混ざっていたが、後ろを見ずとも疲労で動けなくなっているのではないのはわかる。

 三途はほっとしながら、終わりのない魔機との戦いを再開する。


 が、一瞬の気の緩みが裏目に出た。

 光線が、自分ではない方を向いていたのだ。

 銃口の延長線を目視で素早くたどった瞬間、三途はさっと青ざめた。

 きいぃ、と銃器に光を吸い寄せている魔機は、三途の距離から飛んで邪魔をしても間に合うかどうかわからないぎりぎりの遠さだ。二歩で近づければ良い。

「クロア!!」

 三途はクロアの方を向いて叫んだ。クロアと目が合った。この意図が伝わっていればいいと楽観した。そうするしかなかった。

 前に立ちはだかる獣型の輪を飛び越えて斬り捨て、光線銃を向けている魔機に駆け寄る。

 ぐっと腕を伸ばして銃口に届けと半ば祈る。

 祈りは半分届いた。らしい。切っ先が銃口すれすれに触れる感触を三途は覚えた。

 魔機の銃口はわずかに狙いをそれ、光線はイストリアをかばうクロアの頭上すれすれを掠めた。

「きゃあっ」

 イストリアが悲鳴を上げて転げる。光線の突き当たった床部分は、しゅうぅ、と薄白い煙を上げて硬貨ほどの穴が開いていた。

「クロア! 攻撃がそっちに集中するぞ!」

 三途の声は、予感を的中させていた。

 さっきまで三途と月華に向いていた銃口が、明らかにイストリアとクロアに多く向けられているのだ。

(何だ……? 魔機にとっては番人の俺が脅威なんじゃないのか……?)

 魔機たちの注目の的はクロアとイストリアだ。

 弾丸も光線も、硝煙と焦げる臭いをまき散らしながら、ただ一点に向けて集中している。

「私達のことは無視か、こいつら!」

 月華は目の前の魔機に、二度めの矢を穿った。コアを破壊されてもなお動き続けるそれらは、矢が尽きたらもう為すすべもない。

「月華! 魔機にムリに近づこうとしなくて良い。そこからクロアの援護を頼む!」

 言い捨てた三途は方向を変えて、クロアとイストリアを狙う魔機を片っ端から切り捨てた。それでも魔機は一度倒れても、すぐに起きあがる。

 状況は不利だ。


 イストリアはクロアをぎゅっとくっついて身を縮めている。クロアは武器を引き抜く暇もなく、イストリアを抱き寄せながら魔機の攻撃をぎりぎりとかいくぐっていた。

「クロア……!」

「陛下、ご安心を……」

 疲労がにじみ出ている表情になりながらも、クロアは笑って答えかける。

 三途は刀を振るって、一時的にでも魔機の攻撃を無力化させ続けた。月華も同じように、矢を穿ちパチンコ玉を放った。

(何かタネは、策はあるか……! 抜け道はあるはずだ!)

 と、三途は黄金の瞳をきらつかせながら魔機や地下に眠る脳型を観察した。体は刀を振るったまま。

 何か、何かないか! と注意深く見回してみると、ひとつだけ三途は気にとめるポイントを見出した。


(……これは?)

 三途は足下を見下ろした。床には蛍光じみた光を放つ線がいくつも張り巡らされている。それはこの建物にデザインされた模様ではない。

 しゃがんでさっと指を這わせると、少しだけ床から盛り上がっていた。触れても何の害もないようだった。ただ色とりどりの蛍光色を灯しているだけだ。規則的な点滅を繰り返しているのは、まるで脈打つようだった。

 この線はどうやら管のような役割もしているらしい。点滅は光を送り込んでいるために起こっている。と、三途はすぐに判断した。

「月華、一分だけ持ちこたえてくれ!」

「おい、どこへ行く気だ!」

「ちょっとそこまで!」

 それ以上言わず、三途は大型魔機の間をかい潜って脳型の魔機へと一目散に駆け出す。

 戸惑いを見せた月華は抗議にわめいていたが、すぐにその声は消え、代わりに矢が風を切る音が存分に聞こえてきた。

「三途、どうする気だ!」

 月華と交代するように、クロアの声が背後に響く。

「一分持ちこたえろ!」

 三途はそれだけ言って、残りのことはクロアにすべて丸投げした。イストリアの安全は、クロアに任せておいて安心だろう。彼も番人だ。守ると決めたものは守る。


 脳型魔機に埋め込まれた眼球は、まだこちらに気づいていない。うつろな目は焦点があっておらず、どこを眺めているのかもわからない。

 それはそれで好機だ。と三途は前向きにとらえた。足下から伸びている点滅した管の先を追う。

 三途の思った通りだった。無数の管は部屋全体をたどりながらも、最終的にどれも必ず脳型魔機に繋がっていた。

 脳型が大切に保管されている容器の端々に管が連結している。管から脳型魔機へと光が流れ込んでおり、そのたびに容器から気泡がごぼごぼあふれている。

 三途は脳型魔機の真上で立ち止まる。管は脳型のすぐ上の床から一点を突き抜けて、そして容器につなげられるのだろう。四方八方にのびた管はこの一点で集中しているのが、三途としては助かった。

 刀を管にあてがう。そして間髪入れず、鋭い刃でぶつぎった。

 刃を通した感触は、ゴムを断ち切ったようなものだった。管の装甲は柔らかい。


 直後、床を彩っていた蛍光色は床の中心から波紋のように広がって消えていく。

 その色が末端まで失い切ったとき、さっきまで何度でもよみがえった魔機がぴたり、と動きを止めた。

 すぐに三途は月華たちの方へ駆けつける。もしもこの作戦が失敗だったなら、また刃を振るわなければならない。

 だが三途の予想は杞憂に終わってくれた。

 三途が彼女たちのもとへたどり着いたころには、すべての魔機はがしゃんがしゃんと音を立てて、盛大に倒れ伏していた。

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