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魔機ごろしの三途 ~王国最強の力は少女のために  作者: 八島えく
十二章:イストリアとクロア
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79話:喋る魔機

 目の前の扉は蹴破った。足を痛めたが、すぐに痛みは消えてくれた。

 直前の警備にしてはあまりに薄いが、三途としては入りやすくて都合がよかった。

 あるいは、そういった守りを打ち破られても脅威と思わないほどに、魔機側は余裕と自信があるんだろうか。

 三途は一歩踏み出した。先が見えないほどの広大な部屋が広がっていた。全体的に青く薄暗い。床や天井、壁にさえ管が無数に這っているのは、さっきから攻略してきた部屋のひとつひとつと同じだ。

 もう一歩進んで、ふいにぴったりと足を止めた。後ろをついてきた月華の頭が、三途の背中にとんっとぶつかる。

「いてっ」

「悪ぃ、月華」

「いやいい。……どうした、きゅうに止まったりなんかして」

 月華は鼻をさすりながら三途の方を見上げていた。


 とうの三途は、足下に目を落としてじっと『それ』に釘付けになっていた。

 月華のさらに後ろには、イストリアと彼女に寄り添うクロアが控えている。イストリアは首を傾げ、クロアは、ああ見たのだな、と妙になっとくしたような表情を浮かべていた。


 三途の見下ろした床……厳密には床のさらなる下。

 床はガラス張りで地下がはっきりと視える。

 広大な地下には、煌々と輝き煮えたぎる海に満ちている。

 その中心には、ひときわ巨大なカプセルの中に、黄金色の液体に浸された機械が眠っていた。

 機械は眼球の形をしているようでもあり、脳の形にも視える。脳に大きな眼球が埋めこまれているようでもある。

 三途が思い描くような内臓とは異なる。臓物のような生ぬるそうな外見はしていない。むしろ金属や陶器のような艶やかさがある。てらりと輝く表面が、光を反射していた。

 それでいて臓物特有の生々しさは健在だった。遠目からでも脈打っているのがよくわかる。

(何だあれは……)

 これと同じ光景を目にした経験はあれど、三途にはやはり慣れることができなかった。


 三途が神妙な面もちで固まっている理由を、月華も視線を下に落とすことでようやく察した。

「あれか」

「……ああ」

「ここにあるのが、魔機の大ボスなのか?」

 三途は瞼を閉じて呼吸を深くする。自分の中の番人システムは、あれが最大の敵だと告げている。

 瞼を開き、「そのようだ」と月華に答えた。


「あれが、この星に初めてやってきた"魔機"だ」

 クロアが補足するように話す。

「私の星に訪れたのもあれが最初だ。そして星を奪い、私を従えたのもあれだ。今のこの星は、あれ以外の別勢力である魔機との代理戦争に巻き込まれているが、元根の奴を倒せばそれも終結する」

 魔機は魔機として一筋縄では行かないものがある。それは彼らも一枚岩ではないということだ。

 魔機にもいくつかの勢力があり、夜穿ノ郷の王国全土を用いて各勢力が争っている。呪術に秀でたシロガネがそれを暴いた。

 この地下に眠っている魔機はその勢力のうちどれか一つ。王国から魔機そのものを撃退するためには、勢力全てを相手にする必要がある。

 


 だがクロアが言うには、この地下に潜る魔機を殺せば終わるという。

 その理由が、三途にはまだわからない。

「初めてやってきた……ってのは?」

「言葉通り、この星……夜穿ノ郷の最初に見つけ、入り込んだのがあの魔機だ。当時の魔機は今のように複数勢力が分かれて代理戦争を行ってはいなかった」

「魔機は魔機でまとまっていたのか」

「そうだ。あれが親玉だ。

 だがじょじょに分裂していった。あれらは親玉であった魔機とは少しずつ異なる思想を生み出すようになった。思想だけではない、外見も親玉の下位互換からまったく違う構造をした魔機が生まれていった」

「もともとは、その……ああいう、この、脳みたいな形だったのか?」

 三途は言いよどむ。

「その通り。多少の差異はあるが、いずれもあの形を逸脱した魔機はなかった。それがだんだん、心身共に分離していった」

「そして今に至って代理戦争、ってことか」

 クロアは頷く。イストリアと月華は、口を挟みはしなかったが二人ともクロアの言葉をじっと聞いていた。


「……そして、この魔機がある種の原初なのだ。今でこそ分離しているが、根元の根源の位置に立っているのは紛れもなくあの魔機だ。命の根源はあの魔機が握っている。魔機自身も自覚しないうちにな。

 この魔機がすべての魔機の根源を握っている。根源だから根源をつぶせばこの世界にはびこる魔機は残らず生命活動を停止する。それに気づくのには遅すぎたがな」

「……」

 三途の気持ちが一瞬沈んだ。クロアもこの魔機に故郷を奪われたのだ。気づくのが遅れただけ、故郷も深刻な破壊を味わった。もし瞬時に気づくことができたとしても、故郷を守ることができたのかといわれれば、聞いた限りの星の規模や強さを考えると、それも素直にうなずけない。

「あれを壊せば、星にはびこる魔機は全て消えるぞ?」

「いや、うん。理解はした……」

「お前が私の故郷に気を使う必要はまるでないぞ」

 三途は一瞬どきっと鼓動を跳ねさせた。クロアのフォローの言葉が、まるで自分の今の心の内を読んだのかと思ったからだ。


「私の遅れた行いについてあれこれ考えてくれているんだろう。お前のことだからな」

「……俺、そんな単純な顔してる?」

「考えていることがある程度、読める」

「まじすか」

「陛下や彼女にも聞いてみたらどうだ? もちろん、全てが終わった後で」

 クロアの視線は、地下に眠る脳型の魔機に移った。

 水泡をこぽこぽと吐き出しながら、深く眠っている。

「!」

 三途はふいに、刀を握りしめた。いつでも動けるように、体はしっかりと反応していた。


 薄暗い部屋が、下からすうっと光が主張し始めてきた。

 光源はまぎれもなく地下だ。より厳密には、地下に眠る脳型魔機から発せられている。淡い黄金色の光がぼんやりと灯り、次第に青い薄暗さを持っていた部屋が塗りつぶされていくほどだ。

「眩し……っ」

「起動したようだな」

 クロアが冷静に分析する。

「起動……? 眠っていたのですか、あの魔機は」

 イストリアがおそるおそる訊ねる。クロアは頷いた。

「我々には気づいていなかったようです。脅威だとさえ思っていなかったんでしょう」

「何て失礼なヤツだ。私たちはまだしも、番人の三途がいるってのに」

 月華は吐き捨てる。

「うーん、できればずっと油断しててもらえると良かったんだけど」

 三途は苦笑しながら、刀を鞘から引き抜いた。そして表情を引き締め、後ろを向く。

「クロアは陛下の護衛に専念しててくれ。魔機は俺が引き受ける。陛下はクロアから離れないでください」

「は、はい……」

「月華は、」

 言い終わらない内に、機械の足音とサイレンがけたたましく鳴り響いた。サイレンは上から降ってくるせいで、足音の出所が判別しにくい。

 だが月華が「まずはあっちだ」と指さしてくれたおかげで、魔機がこちらを敵だと認識してやってきたと理解できた。


 大型の典型的なロボット魔機が、煌々と輝く剣を弄びながら近付いてくる。数は四機。眼球とおぼしき部分は、地下の脳型と同じ色に光り輝いている。

「……番人がきたっていうのに、魔機四機だけか?」

「隠し玉を持ってるか、本気でナメてるかのどっちかだろ」

「だよなあ」

 思わず口端がつり上がる三途と、律儀に答えてくれる月華。

 二人の声とは別の、イストリアでもクロアでもない声が、足下に響いた。


『標的確認。番人が含まれている。排除。王国の要のみ生存を推奨』


 地下から、足の裏を伝うように、電子じみた声が響いた。


「しゃ、しゃべった!?」

 月華が驚いて声を出す。口にこそ出さなかったが、三途も同じ気持ちだった。

「脳型の魔機が音声をこちらに届けているんだろう。……今までの魔機にそういうヤツいなかったのか?」

「いや、俺たちが遭ってきた魔機はみんな喋ったことがないぞ」

「なるほど……声帯は引き継がなかったというわけか」

「何だって良いさ。あいつを壊して全部終わらせる」

 三途の両手にそれぞれ握られた刀が、部屋を照らす光に反射する。

 いつでも準備はできている。三途の視線は脳型から離れない。が、その集中を削ぐ者が現れた。


 天井から巨人型の魔機が数機着地する。地面から生え出るように、獣に似た魔機が遅れて現れてきた。

 起動音に混じって耳障りの羽音がかすかに聞こえるのは、小型の虫型魔機が飛んでいるからなんだろう。

「ぁああ……!? ここに来て数で押す戦法か?」

 三途の毒など聞く耳もたず、大型魔機は銃器をこちらに向けて隙もなく発砲した。

 ためらいも惜しみもなく、ありったけの弾丸を三途に打ち込む。硝煙と発砲音が弾け飛ぶ。

 硝煙が晴れ、三途は片膝をつきながら刀で弾丸を弾き飛ばしていた。

 跳弾をいくつかかすったが、これからの戦闘にはそれほど影響しないだろうから、三途は受け流した。

「三途、無事か!」

「問題ない」

 月華は胸をなで下ろしてくれているだろうか、と三途は思いながら答えた。イストリアはクロアが身を挺して守っているから問題はない。

「俺が全部片づける! クロアは陛下を守ってくれ!」

「わかった」

「月華は俺の援護を頼む。頼りにしてるぞ」

「まかせろー。期待に応えてやるぞ」


 三途は駆けだした。目の前の巨人型とすれ違いざまに刀を薙払う。

 まっぷたつになった胴体側を蹴飛ばし、縦に両断した。そして魔機の一つは生命活動を停止する。

 次に上方を陣取っている小型の昆虫魔機は、後ろからの月華による矢が一本ずつ正確に穿たれていた。地に落ちる魔機が羽をぶるぶるさせて痙攣していたが、月華のパチンコ玉を食らうとそれきり動かなくなった。

 俊敏に動く獣型たちは群れをうまく利用しながら三途を囲い込んでいる。

 動きを制限させて追いつめるつもりだろうが、三途はそんなものにかまっている暇はなかった。

 三途は追いつめられる前に動いた。目の前の獣型に狙いを定め、一歩踏み込んで刀を突き刺す。魔機の眉間を通ったそれを振り上げ、両断する。まだ活動を持続していた魔機のコアを瞬時に見抜き、的確にその部分を切り払った。

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