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魔機ごろしの三途 ~王国最強の力は少女のために  作者: 八島えく
十二章:イストリアとクロア
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77話:その眼差しはクロアにだけ注がれる

 月華はそのまま言い捨てて、さっさと歩いていった。さっきまでイストリアを守っていた者がいないため、三途はクロアを抱き起こしながらイストリアの傍らに控えた。

「月華、待ってくれって」

「遅いぞ三途。置いてくぞ」

「陛下の護衛を頼むってば」

「む……。そうだったな」

 月華はそそくさと戻ってきて、イストリアの護衛を再開した。

 ほっと安堵した三途はクロアに肩を貸した。


「なあクロア」

「何か」

「……いいのか。俺達に情報を流して」

 クロアは逡巡して、答えた。

「正直、良いとはいえない。魔機のことだから、私がお前に口を滑らせたことはしれているだろう」

「そうまでして話したことに理由はあるのか」

「……まあ、気まぐれだ」

 それは嘘だろう、と三途は見抜いた。

 

 番人は星を守るために存在する。

 もしも自分の星と別世界の星の無数の住人、どちらかを選べと迫られたら、迷いなく自分の星たちを選ぶ。番人とはそういう考えを持つ。

 そんな番人の極端な価値観を、気まぐれという理由一つで変えてしまうということは本来あるはずもないのだ。同じ選択を迫られたら、三途は気まぐれだからといって相手の星に同情することは決してない。酷だとは自覚しているが、あちら側の星を切り捨てても、夜穿ノ郷という星を守るだろう。

 だが、三途はクロアの嘘であろう気持ちを、口に出して否定しなかった。ただ、「そうか」と答えるだけだった。


「なら、そうまでしてくれるクロアのためにも、魔機はすべてやっつけなきゃな」

「頼むぞ。この私が魔機側を裏切ったのだからな。かなりの価値がつくぞ、この行為」

「そうだな。その価値に合う働きはしなくちゃな」

「そうしてくれぜひとも」

「……冗談なんかじゃないぞ」

「知っている」

 クロアが念押ししてきた。

 

 クロアを担ぎながら、三途はようやく王宮の最奥まできた。後ろにはイストリアと彼女を守る月華が立っている。

 最奥の建物は、王宮の本宮である。宮のところどころにさりげない装飾が施され、本来であれば美しいたたずまいであったことだろう。

 それらの装飾は宮ごと破壊され、かつての美しかった姿は跡形もない。


 クロアは「もう大丈夫」と三途の肩から離れた。足元がおぼつかないが、かろうじて立っていることは問題ないらしい。

 宮の外から伺う限り、魔機の奇襲はない。内部まで踏み込む必要があるようだ。

(臨むところだ)

 と、三途は挑むような気持ちであった。奥で待ち受けているというのなら、お望み通りそこまで行ってやる。

 

「クロア。お前はどうする? 名目上は魔機に加担してるんだろ? 俺たちと一緒にいても大丈夫なのか?」

「……」

 クロアは三途のフードをくいくいと引っ張った。耳を貸せ、とクロアが無言で訴えている。三途はそれを察して、クロアの顔に耳を近づける。

 こそり、とクロアが三途にだけささやいた。

「私が味方になったフリをしておまえ達の内部に入り込んだ、ということにしておく。そして魔機側に再度寝返る。……という、さらなるフリをしよう。それでいいか」

 三途は首肯した。

「……あれ? でも月華と陛下にも内緒にしてたら、二人はお前がやっぱ裏切り者だったって思うんじゃ……」

「その方がいい。騙されていた方が、白々しくなくなる」

「良いのか……? 本当に大丈夫か……? 月華は敵には容赦ないぞ」

「彼女が私を射殺そうとしたら、君が盾になってくれ」

「イヤだよ!?」

「おーい三途。何ふたりして内緒話してんの?」

「やっぱ言おう……! 俺が死ぬ俺が死ぬ!!」

「頼んだぞ番人」

 ばんっ、とクロアは三途の背中を叩く。ふらふらの足取りは相変わらずだが、三途の手からは抜け出した。結局、クロアとの内緒話は月華とイストリアに告げられることはなかった。何かあれば、三途が身を持ってクロアを守らなければならない。


 宮に足を踏み入れた。扉はかろうじて残っていたが、痛ましい軋みの音と、開くと同時にぱらぱらこぼれる瓦礫から、すでに宮は華やかであったころの名残もなくなっているのを三途は知る。

 中を踏み入れると、宮は魔機好みに作り替えられていたのをまざまざと見せつけられた。

 白に黄金の装飾の施された柱には、装飾が跡形もなくはがれている。代わりに、魔機にはある程度装着されていた鈍い銀色の管が何本も巻き付いている。管たちは脈動しており、生きているようにも思えた。

 床を彩る赤い絨毯の上には煤と埃が散らばっている。壁画は破れ、銅像はばらばらに破壊されている。

 壁にはところどころひび割れた穴が空いている。そこから色とりどりの管が生え、四方八方にのびていく。それをひとつひとつ辿るのは大変そうだ。

 主に、管が床のあちこちに蠢いていて、足場を邪魔している。妙な異臭も鼻をつき、三途と月華は無意識に鼻を袖で覆っていた。

「……これは、こんなことが……」

 イストリアが、顔をゆがめてこぼしていた。彼女も口もとを両手で覆い、宮の異様な光景に耐えている。

 イストリアがそんな反応するのも無理からぬことだ。この宮も含め、王都の王宮は彼女にとっての家でもあるのだ。ここまで好き勝手に変えられてしまうことに思うところはあるだろう。


「陛下……」

 だが月華の言葉に、イストリアはにっこり笑って振る舞った。

「ですが、こう落ち込んでもいられませんね。すぐに慣れます。さあ、行きましょう!」

 月華から離れないよう気をつけながら、イストリアが進んでいく。


 中を作り替えられた宮は、床に無数の管が伸びている。足元に気をつけていなければ、足を引っかけて転げてしまうだろう。

 天井にも管はびっしりと張り巡らされており、視界が悪い。

 ごうんごうんと腹の底に響くような稼働音が響き、三途の耳に届く。

 三途は刀を握りしめて、聴覚と嗅覚を研ぎ澄ます。どこから魔機が来てもいいように。


 稼働音に隠れて、数機の小型魔機が飛来してきた。

 三途はすぐに気づき、音のした方を目で探る。

 後方の頭上から、不意打ちをかけるように三途の方へ飛び込んでくる。

 振り向きざまに刀を引き抜いて横へ薙ぎ払った。こちらへまっすぐ突っ込んできた魔機は両断され、床に力無く落ちる。

「何だ!? 魔機だな!?」

 月華がイストリアをかばいながら弓を構える。

「その通りだ!」

 三途は乱暴に答えた。上から襲いかかってきた魔機を、刀を軽く振るって叩き落とす。

 小型の魔機はすべて破壊できたが、稼働音に潜んだ音はまだ止まない。小型魔機の音は羽音に近かったが、今度は地を鳴らす音だ。

「何だ……?」

 三途は視線をあちこちにさまよわす。地響きのようなこの音は全体に広がっているせいか、特定がさっきよりも難しい。


「月華! 陛下から離れるな!」

「まかせろ!」

 月華の頼もしい声を背中に聞いて、三途は襲いかかってくるであろう魔機がどこからくるかじっと探っていた。


 それを一番早く見つけたのは、クロアだった。

「下だ!!」

 その言葉を聞いて、三途はクロアを抱えてその場をすぐに離れた。

 直後、床が破壊音と共に隆起した。瓦礫がぱらぱらとあちこちに飛び散り、土煙が舞い上がる。

 床にごろごろ転がりながら、月華の足下で三途は止まった。クロアをそのままに、身を起こす。

「ぅ……」

「クロア、怪我はないか」

「ああ、ない……」

「よかった」

 三途は煙が晴れていく向こう側をじっと見つめる。クロアはイストリアが肩を貸していた。傍らには月華が弓をつがえて、三途と同じ方向から目を離さない。


 ぱらぱらと落下する瓦礫が一通り落ち切り、煙が消えていった。

 そこにはやっぱり魔機が立っていた。

 先ほど飛来してきた小型魔機よりも遙かに巨大な、二足歩行型の魔機だった。見てくれはおとぎ話に出てくるような巨人そのものだ。その巨人に、管や金属部分や銀色を随所にちりばめると魔機になるようだ。手にする武器は目でみた限りは斧だ。

(こういうとこレトロだな……)

 魔機なら武器を作り出すこともお手の物だろうに、と三途は苦笑した。

「月華! 陛下を守りながら援護射撃を頼む!」

「はいよぉ!」

 三途は刀を引き抜いて、すぐさま行動に転じた。明らかに一撃で全てを終わらせるものが相手なら、先手を奪い取ってやられる前にやるのが一番である。

 

 巨人型魔機の足下に滑りこみ、三途は魔機の両足を切りつける。金属音が弾けた。刀が二つとも跳ね返るほどの堅さを持っている。

 すぐに魔機から離れて状態をうかがう。特に、相手には大した痛手でもなかったらしい。

 魔機の背後に立つ三途へと、魔機の目がぐるりを動く。相手もこちらを認識してくれたようだ。その方がやりやすい。人を守りながら戦うのは、やっぱり苦手だ。

 しかし、三途の当ては外れた。

 魔機はこちらを数秒見下ろした後、すぐに前をむき直したのだ。

「……は?」

 向こう側には、月華とイストリアがいる。だが魔機は、そちらの方へは足を踏み入れない。

 狙いがクロアだと気づいた三途は、ほぼ反射の勢いで魔機に駆け込んだ。

「っこの!」

 がら空きだった背中に飛び蹴りを食らわせた。金属を穿ったような感覚だ。三途の足から胴体、先端へと衝撃が広がる。

 片足をかばいながら着地する。魔機も怯みはしたが、三途の方を振り向きもしなかった。

 それどころか、その視線はずっとクロアに注がれていた。

(何だこれは……?)

 三途は一瞬よぎった嫌な予感を振り切った。相変わらずこちらを向かない魔機の背中や足を切り払うが、刀でのダメージもあたえられていない。

 もっと大打撃を食らわせることができれば、さすがの魔機もこちらに注意を向けざるを得ないだろう。

 だがその大打撃さえ与えられない現状、魔機が三途に振り向くことはまるでない。

 月華が何度も矢を放っている。だが、乾いた音が立つだけで相手には矢も効果がないようだった。

「陛下、こっちへ!」

 月華はイストリアの手をとって魔機から距離をとる。

 その場に残されたクロアは、消えた表情で魔機を見つめていた。動かないのではない。動けないのだ。

「クロアも! こっちだ!」

 月華がクロアに鋭い声を放つが、クロアには聞こえていない。

 魔機が斧をふりかぶった。

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