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魔機ごろしの三途 ~王国最強の力は少女のために  作者: 八島えく
十二章:イストリアとクロア
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76話:チャラ

「光芒無キ果は、星の中でもきわめて小さく住人も少ない星だ。

 私たち人間のような種族は王都の人口よりも少ない。異種族も存在したが、彼らを合わせてようやく王都に並ぶくらいだ」

 クロアが、ぽつぽつと告げていく。

「住人がもともと少ないから発展していくペースも非常に遅い。文明はこの星より劣っていたが、こちらの星ならではの名物もあった」

「名物ってのは?」

「鉱石だ。今や諸惑星間で流通している魔法石の原石でな。この星で流通している呪術や魔法を使用するための魔法石も、我々の星で採掘できた鉱石を使用している。……今は別の惑星の石を使用されているのがほとんどだがな」

 クロアはふっと自嘲した。

「……して、その鉱石は当時魔機たちにとっては貴重な資源に見えたらしい。魔機の動力源もある意味魔法だからな。その理屈や公式は夜穿ノ郷とはまったく違うが。

 魔機は光芒無キ果の鉱石を目当てに、我々住人を滅ぼしたのだ」

 数秒、沈黙が流れる。この場にいた全員を一瞥してクロアはつづけた。


「光芒無キ果はもともと規模が小さいし、住人たちもさほど多くない。住んでいる場所も星の割合からしておそろしく狭い。

 ゆえにか魔機は、光芒無キ果がまだ未開の土地であると思いこんでいたんだろう。だが星にはすでに住人がいた。

 困った魔機は、何とか鉱石だけを得られないか考えた。そして星の代表へと接触した」

(代表……?)

 三途は疑問を頭に浮かべたが、クロアの言葉を黙って待った。


「しかし、魔機側の要求はこちら側にとって決して許容できるものではなかった。

 鉱石をすべてこちら側に譲渡し、半永久的に採掘と譲渡をしろといってきた」

「どういうことですか……? 譲渡、とは」

「言葉のままです陛下。

 光芒無キ果から生まれる鉱石をすべて、魔機側に所有させること、そしてまた新たに生産される鉱石を採掘し、それも採れ次第魔機へ譲れということです。鉱石は採って終わりではありませんから、採掘にかかる人員や費用はすべてこちら側の負担、その先の加工技術もこちらでまかなえと」

「なんてことを……」

 イストリアは顔を暗くした。

「理不尽極まりないな! 狩りだって獣を狩って終わりじゃねーんだぞ! 採掘だって同じように手間暇があるだろうに、絶対これは反発がくるって私でもわかる!」

「その通りだ。だが魔機は人間や獣人のような機微を持たない。すべて効率重視であり自己優先的な性格だ。それが災いしたのかどうなのか知らないが、こういった駆け引きや交渉にはまるで不向きだった。

 我々は断固として拒否した。そのような要求をのんでいては、いずれ星が滅びるからだ」

「拒否して、そして……」

「お察しの通り、星はほぼ全滅した」

 さらりと、クロアは答えた。そんな風に簡単に言えるようになるまで、いったいどれだけの時間を必要としたことだろう。

 苦い表情で顔を覆っている三途と対照的に、クロアは淡々としていた。

「光芒無キ果側も抵抗した。だが武力は魔機の方が圧倒的に勝っていた。我々は明らかに負け戦だったのだ。住人のほとんどが殺され、もともと何もなかったような星が一気に焦土と化した。

 生存した者もいなくはなかった。私を含め、片手で数えられるくらいではあるが」

「生き残った者達は今どこに?」

「光芒無キ果にいる。魔機が即席で用意した住居で、最低限の食事と運動と、ほんのわずかの娯楽でどうにか生きている」

「……それでクロアが魔機側についてこの星に刃向かうのは何でなんだ?」

「魔機の要求だからだ」

 クロアは少し強く答えた。


「夜穿ノ郷を掌握するから、そのための一つの戦力として従うことを私につきつけてきた。

 上手くいけば、残ったわずかな光芒無キ果の住人たちの生活を保障すると」

「……」

「夜穿側を魔機が完全に制圧したら、光芒無キ果からは手を引く。大量の金も追加でな」

「そんな……」

 イストリアが悲壮な面もちになる。

「光芒無キ果の人間として、私は魔機に協力し、自分の住人たちを助けるためにこの星に来た。

 夜穿ノ郷に入り込み、経歴を偽って王国王都の騎士として成り上がった。魔機が一度三途を追いつめて殺したのだが、その先導を行ったのも私だ。親しいとは言わないでも、会話をする程度には顔見知りの自分ならある程度の警戒心は解かれるであろうからな。

 そうして王都の中枢から王国をじょじょに破壊していき、ないしは王国全土、月華の暮らしている森でさえ侵略の対象とした。魔機が番人である三途を追いつめることができたのも、私が告げ口したからだ。番人というシステムがあるということを。それは星の侵略者から星を守るために生み出された存在であると。

 魔機はそれも簡単に対策してしまった。もともと機械だから、番人という守りのシステムを解析して攻略するための最適解を簡単に暴き出せた。1か月もかからなかった」

 三途は生前に王都へ行ったときのことを思い出す。

 王都でのイストリアとの謁見。謁見前にはすでに三途が番人であることは王都側も知っていた。つまり王都側と思われていたクロアも、当然三途が番人であることも知っている。


 三途はうかつに何かを喋った記憶はないが、番人であるということを黙っていたことはなかった。もっともイストリアとの謁見に来た時点ですでに番人だと知られているのだ。

 その事実ひとつだけで、クロアをはじめ魔機側には有利な情報を与えていたのだろう。


「……あとのことはお前も身にしみて存じであろう。魔機は番人システムを攻略し、王都を中心に王国全土を滅ぼしていった。まだ森に住んでいたお前も覚えはあるだろう」

 三途へのクロアの問いには、三途よりも月華が苦い顔で答えた。

 森は魔機によって蹂躙され、月華の森に住んでいた獣も同じく殺されていったのだ。

 三途はうつむき、そろりと月華を一瞥する。拳を握りしめている。こらえているのは涙だけではない。


「森が被害地になることはなかった。だがそこにはお前という番人がいたから、魔機は集中して森に戦力を投入したのだ」

「……本来なら、森は制圧予定の地域からははずれていたと?」

「そうだ。彼らはそれほどまでにお前を狙っていた。もし王都に住んでいれば王都の被害はこれ以上のものだったし、別の地域にいればその地域が重点的にやられていただろう。

 今の魔機も、お前がここに来ていることは知っている。王都へのこのこ来たのは手間が省けたとさえ考えているだろうよ」

「事情はわかった。お前が魔機側に協力していることも、お前の背負ってる事情も。

 だけど一つ気になることがある。答えたくないなら蹴ってもいい。

 光芒無キ果の住人のお前が魔機に協力するのもわかるが、

 どうして協力者が『お前』だったんだ?」

 三途の疑問は、そこに凝縮されていた。


 光芒無キ果の生存者がごくわずかなのは三途もイストリアも月華も理解している。問題は、ここにいるのがクロアでいる必要性の意味だ。

 単に魔機が気まぐれに選んだだけなのだろうか。それとも。


 その問いに、クロアは対して躊躇もしなかった。


「それは、私が光芒無キ果の番人だったからだ」

「……そう、か」

 だが三途には、何となくその理由に見当がついていた。

 戦闘中のあの激昂を覚えている。「何も知らないくせに!」と憤った表情のクロアが、力任せに剣を振り下ろしてきたの光景を。

 自分が同じ立場にいたら、クロアと同じ選択をするだろう。そしてクロアを一概に叱責する気はおきない。こちらは家族も同然の獣たちを、故郷を、恩人を殺されているというのに、その怒りをクロアにぶつけることはできなかった。

 クロアが三途と同じ番人だからだったのは大きな理由かもしれない。

 クロアが語らずとも、三途には彼の行動や選択の意味が理解できた。

 

 番人というのは、その星を守るためのシステムだ。そしてそのシステムは、少なくとも星にとってはランダムの人選によって決まる。人間がそうなるとは限らない。獣かもしれないし、魔物が番人になるかもしれない。三途が番人になったのは、本当に偶然なのだ。夜穿ノ郷がそう決めただけにすぎない。


 クロアの故郷も同じように番人として彼を選んだ。クロアの望む望まないに関わらず、番人となったのはクロアだった。


 星を守るために彼は奔走したことだろう。星を蹂躙されて怒りを覚えない番人はいない。

 魔機に無理難題をつきつけられた時、彼はそれが星の存亡に関わるとすぐに気づいただろう。それを拒否することも、その後に起こり得るであろう事態も、伴う損害も、すべて理解していた。

 住人を失うことが、どれほどクロアにとって苦しい思いで受け入れなければならなかったか。

 その星を滅ぶ寸前まで追いこんだ天敵に従い、あれらの利益となるよう動かなければならないことの、どれほど苦痛であったことだろう。

「……クロア」

「軽蔑しただろう」

「……いや。俺はそう思わない」

「ならば……」

 そう言い掛けてクロアは口を閉じた。


「三途が思わなくたって、私は思っている」

 頭上から降ってきたのは、怒気をはらんだ月華の声だ。そっと三途はそちらを振り向く。

「げ、月華……」

 クロアを責める気持ちがないのは確かであるが、同時に月華に対してクロアを恨むなと言うことができないのも事実なのだ。月華は家ともいえる森や獣を奪われている。つい最近まで、忠臣であったマデュラとガムトゥも魔機にとらわれていた。

 そして、そばにいた三途も一度失っている。そんな月華に、クロアを許してやれだなんて言うことはできない。

 何より、月華の森を蹂躙させた間接的な原因は、三途にあるのだ。

「お前が先導して、魔機を侵攻させたことは事実なんだな?」

「そうだ」

「今話したことに嘘はないな?」

「ない」

「わかった」

 言うや、月華は三途を押しのけ、「あ……っ、月華……」というイストリアの声も聞かず、クロアの胸ぐらをつかんだ。

 そのまま、力任せに、小さな拳で彼の顔を殴りつけた。鈍い音が、三途にもよく聞こえた。

「月華!」

 クロアは抵抗しない。あわててイストリアが月華とクロアの間に割って入った。

 月華はそれだけやるとすぐに立ち上がり、もうなにもしなかった。


「これでチャラだ。心優しい慈悲深い月華様に感謝しろ」

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