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魔機ごろしの三途 ~王国最強の力は少女のために  作者: 八島えく
十二章:イストリアとクロア
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74話:説得

 見た目はクロアであるその人物は、そんなことを言ってのけた。

 三途は一瞬だけ思考が止まった。


 魔機側の人間だって? 魔機は魔機だけで暮らしているわけではなかったのか?

 いや、よくよく考えたらそれが事実であるということも否定に値する根拠はない。それどころかしっくりくる。


 魔機は意志を持った機械生命体である。命を持たないただの機械であれば人の手で動かす必要がある。だが魔機はそれぞれ独立した意志をもって行動する。

 この一点だけを考えてみれば、魔機に人間や他種族といった別の種族による助力を必要としない。

 しかし、と三途は考える。

 魔機もあくまで機械だ。それらは三途のみた限り、破壊行動は持っているが自己修復の機能が乏しい。機能を持ってはいても最低限レベルだ。

 つまり、体躯のどこかが壊れたら必要最低限の応急処置だけしてあとは放置されてしまう。

 それでは魔機が破壊の一途をたどる。

 が、ここに第三者の手が入る。それが魔機ではなく、人間だったとしたら。


 その人間の一人が、クロアだったとしたら?


 しゅう、と三途の脳内に情報が更新される。番人システムが起動した。

 目の前のクロアを見据える。

 ばちり、と目の中に火花が散った。

 認めたくはないが、これは事実のようだ。


 クロアは、敵だ。

「何てことだ……」

 刀を握りしめる。


「う、うそです……。クロアが、そんな」

 背後に、イストリアの震える声だ。ずっとそばにいて見守ってくれていた忠義の騎士が敵であっただなんて知らされたら、そう反応するのも仕方はない。

「私は事実を述べたまで。ここまでの言葉に虚偽はいっさい含まれていない」

「そんな」

 三途は会話を立ちきって聞いた。

「……じゃあ一つ聞くが」

「何か」

「俺たちが見たクロアは何者なんだ。

 神流に任せた傷だらけのクロアは」

「あれは幻覚に過ぎない。周囲の空気を利用して幻覚をまとわすことができる魔機に、『満身創痍のクロア』を幻覚にし、周囲の人間の視覚をかわした。今頃幻覚は解け、本来の姿に戻った魔機が奇襲をかけていることだろう」

「じゃあ、神流たちは……」

 三途はクロアの言葉にさあっと青ざめた。

 最後に見送った神流の姿を思い出す。ふっと微笑んで任せて、と自分にあとを託してくれた兄弟の顔を。

 今から戻って神流の加勢にいくべきか? と逡巡したが振り切った。まず間に合わない。そしてこの機会を逃すと最奥の魔機を破壊することができなくなる。


 だとしたら、自分のすべきことはひとつ。

 目の前のクロアを倒し、王宮の最奥へ向かうことだ。

 最奥に魔機の大元がいるのは間違いない。番人システムは最奥に敵が存在することを警鐘している。

 

 神流のことは本当に心配だ。だが神流を優先して最奥を目指しては、星を魔機から守ることを捨てるに等しい選択なのだ。

 クロアの言葉は、情にあつい三途にとっての揺さぶりの面もある。

 こちらが動揺することを計算している。

 ならばその計算をはずしてやればいい。


 何より。


「侮るなよ。神流は俺と一緒に旅をしてきた兄弟だ。そう簡単に負けない」

「……」

「俺のやることは変わらない。ここでお前を倒す」

「見上げた精神だ」

「番人としての義務を果たすまでだ」

 三途は刀の切っ先をクロアに向けた。


 じっ、と。クロアを長く観察した。

 滴がひとつしたたり落ちたような音が、三途の心中に響いた。

 番人システムが起動したのだ。クロアが夜穿ノ郷の敵である、という情報が更新された。

(情報のアップデートはこまめにしてくれ……って、今悪態ついてもしかたないか)

 

 ぎっと奥歯をかみしめて、三途は駆け抜ける。すれ違いざまに刀を振り切る。

 刀はいなされ外へと流される。

 クロアが剣をひねり、三途の手から刀をはずさせた。

 刀が宙に舞う。三途の片手が空いた。


 クロアが三途の脇へと剣をたたき込む。

 刃が視界の端に迫り来る。三途はとん、と地を蹴り宙へ跳ぶ。

 くるり、と空中でクロアの頭上を飛び越え、クロアの刃から逃れた。

 宙に漂う刀も取り戻し、着地するころには双刀をしっかり握りしめることができた。

 クロアとは、背中を合わせた向きになる。

 クロアは背後へ向けて剣を振り下ろした。


 三途は風の切る音で、ほぼ反射で刀を前へかざした。

 きん、と金属のすり切れる音が頭上に響く。

 ぐっと刀を押し上げてやり過ごす。腰を低く落としてしゃがんだ状態から、三途は内側へと足をのばして払う。

 がつん、とモノに当たった感触。クロアの足に踵が当たった。


「!」

 クロアのバランスが崩れる。後ろへと揺れる。

 三途は見逃さず、腰を上げて刀を振り上げる。

 

 だが刀は空を切った。クロアもまた宙を返って刀をかわしたのだ。

 くるり、と最低限の動作で斬撃を回避する。

 宙返りしたクロアと目がかち合った。冷えた目が、三途の黄金の瞳を射抜いている。

 こんなに凍てつく目線を、このクロアは持っていたのか。


(だけど)

 と、三途は不思議に思って首を傾げた。

 生前の自分は、クロアを敵であることを認識できなかった。


「っくそ……」

 考え事をしていると、クロアの剣戟がおそってくる。少しでもクロアから集中を切ったら確実に負ける。

 戦闘に集中しながら、三途の脳内では疑問を払拭するためにフル思考した。

 

 きん、と刃がぶつかり合う。剣を押し返して、三途はペースを自分の方へと持って行く。

 体を動かしながら考えるのは慣れていない。

 だがクロアと相対しているうちになじんできた。


(……えーと、どこまで考えたんだっけ)

 と、間抜けなことを自問する程度には余裕ができた。

 生前はクロアを敵と認識しなかった。これは番人システムの情報が古く、魔機に対応できなかったのが原因だろうと三途もすぐに理解できた。

 そして自分は一度死に、地球で生まれ直してこの星に帰ってきた。

 生まれ直した時点で、18歳になって魔機と戦ったことで、番人システムの情報は最新に更新された。

 この理屈を考えると、その時点でクロアが敵であるという重大な情報を得ていてもおかしくない。


 それがなされなかった可能性は二つ。


「うわわっ!!」

 三途の目前に、ひゅっ、と切っ先がかすった。

「三途!」

「大丈夫だ月華! 死んでいない!」

「よかった! でも油断するなよ!」

 月華とイストリアの声で、三途はもう一度意識をクロアに集中する。

(考えろ、考えろ! あと少しで答えがみつかる)


 いったん距離を開かせる。クロアの冷えた眼差しに、うっすら焦燥のかげりが現れた。ように、三途は見えた。


 番人の情報が更新されなかった答えの候補は二つ。


 クロアが敵であるという情報が、さらに最新の情報として更新されたため、三途の番人システムでもってしても、更新された情報に追いつかなかったから。


 もう一つは、クロアが番人システムにとっては『敵』であるという情報にならなかったから。


 もしも後者が正解であるなら、クロアは夜穿ノ郷の住人で、魔機に所属するモノではないということだ。

 この可能性は、三途の望む答えだった。

 だが可能性は半分。敵か味方か。


 裏付ける根拠はない。これを主張する自信はない。

 何か根拠があれば。せめて何かのとっかかりさえあれば。


「……クロア」

「何か」

 クロアが、ぴたり、と手を止めた。どうやら話を聞く姿勢は持っているらしい。


「お前に聞きたいことがある」

「何なりと」

「……? ずいぶん、律儀に聞いてくれるんだな。問答無用で叩っ斬ってもよかったのに」

「そうしてほしいなら、望むままの行動をするが」

「いやいや! いい!」

 三途はあわててストップの合図をする。


 仕切り直して、三途はクロアを見据える。


「お前、最初っから魔機側だったのか?」

 直後、クロアの表情が固まった。硬直しているのを必死に動かそうとして、かえってひたひたと震えている。

 ごくわずかの変化だ。さらりと流し見ているだけではきっと気づかないほどの、本当に些細な変化である。

 だが三途はそれを見逃さなかった。ここにチャンスがあると見抜いた。

 

 三途は畳みかける。

「本当に魔機の世界の住人だったのか? それともやっぱりこの星の住人だったのか? もし星側の人間なら魔機側に寝返ったってことだろう」

 だけど、と続ける。

「もし魔機側の人間だったなら、あんたの言った言葉に嘘はない。全部事実だろうな。

 だとしたら魔機側の者が魔機を裏切ってこっち側についてくれたっていうことなんじゃないのか」

「……なにを、いっている」

「確たる証拠はない。だが俺の番人システムは、お前を『敵』として認識していない。俺の感覚だけが頼りだ」

「そんな、個人の感覚ではあてにならないな」

「ああ当てにできないさ。

 だけどなクロア。これは番人になった者だけはわかる。星の敵かどうかっていうのは、人にとっては感覚的でしか無いが番人にははっきりわかる感覚なんだよ。

 このシステムによる感覚がしっかり俺に伝えてる。クロアは敵じゃないってな」

「くだらないな」

「そんなわけない。俺の知るクロアは、冷静で厳しくて生真面目で、陛下のことになるとどこまでも一生懸命で、王国に忠誠を誓うような、アホだけど信頼のおける男だ」

「それこそくだらない。私はこの時のためにその仮面をかぶっていたに過ぎない。

 私は最初から魔機の暮らす星の住人だった。希少な人間だった。

 長く王国に仕えていたのは、すべてこのときのためだ」

「本当にそうか?」

「なに」

「少なくとも俺の目で見たあんたは、王国も陛下のことも根っから案じてくれていた。魔機でもって王国を滅ぼすために演技していたんだとしたら、なかなか迫真の演技だ。舞台役者の俺にしてみれば、今すぐにでも役者にスカウトしたいくらいだ」

 にぃっ、と。三途は不敵に笑った。


「俺が夜穿の番人だからこそ言えることだ。

 お前は、本当は魔機側に戻ったんだろう。

 だけど! 戻ったあと、やっぱりここへ寝返って魔機を裏切ったんじゃないのか!」



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