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魔機ごろしの三途 ~王国最強の力は少女のために  作者: 八島えく
十二章:イストリアとクロア
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71話:発見

 王宮は荒れていた。

 柱も柵も砕け、門は破壊された跡だ。

 折れた武器や割れた鎧、破り捨てられた布地があちこちに散らばっている。


 王宮正門前の柵には、無理矢理ねじ曲げられた形跡があった。魔機が力任せにこじ開けたんだろう。

「ひどい……」

 月華が顔をしかめる。弓を握りしめた小さな手が、強く握られていた。

「ああ、すぐに殿下を助けないとな」

「もちろんさ」

「……王宮の中は魔機がうろうろしてる可能性が高い。俺のそばを離れるなよ、月華」

「それこそもちろんさ」

 月華の頼もしい笑顔を確かめて、三途はよし、と門をくぐり抜けた。


 門前広場にあった花壇の花もすべて荒らされている。土は掘り返され花はつぶされている。

「ゆるせん」

「……ああ」

 低く、月華がつぶやいていた。

 軽く広場を見渡したが、魔機らしい魔機は見あたらない。

 警戒しながら静かに広場をまっすぐ進む。微風に揺られて鎧や剣がとばされていく。

 

 三途は月華を伴いながら、王宮の中へと踏み込んだ。

 中も庭と同じほどに荒れていた。

 装飾ははがれ壁は無数に穴を穿たれ、人らしい人は残っていない。

 中に入り込んだとたん、三途の背には寒気が走り続けていた。魔機特有の殺気……あるいは敵意がひしひしと伝わってくる。

 だがどこからくるのかわからない。全方位から敵意が伝わりすぎてかえって気づきにくいのだ。


 月華は矢をつがえながら、後方を注意深く見渡している。

「三途、魔機がどこにいるのかわからない」

「俺も……」

 瓦礫だらけの床をそろそろと歩いていく。

「三途、殿下はどこにいる?」

「王宮の離れにいる……殿下の気配が少しだけたどれる」

「なら、まずは離れだな」

「そうだな。えーと、離れまでの道のりは、」

 三途は生前の記憶を思い出す。かつてお忍びで、イストリアにつれていってもらった場所がある。

 王宮暮らしをすすめられたが、三途は丁重に断った。王宮から帰ってまもなく、三途は魔機によって一度死んだのだ。


 離れへの道のりは鮮明に覚えていたらしい。慎重ではあるものの、三途の足取りに迷いはなかった。生前の記憶はやけにはっきりしていた。

 

 ただ、奇妙な違和感も拭えない。

 門前広場から王宮内に入り、離れまではかなりの距離がある。一歩二歩でたどり着ける場所ではない。長い廊下をいくつも通り、緩やかな階段をいくつも上り下りする必要がある。

 道はまっすぐばかりではない。曲がりくねった秘密の通路を通らなければならない。

 くわえてそこまでの道のりは瓦礫によって封じられている箇所もあった。結果的に遠回りさせられている。


「足止めのつもりか……?」

 月華は周囲を警戒しながら、そろりと歩を進めている。

「かもしれないな。……しかし妙だ」

「魔機がいないことがか?」

「そう。王宮に入る前は魔機とはち合わせたってのにさ、王宮に入ったら1機とも戦わずにすんでる」

「罠かな」

「だろうなあ……。だとしたらさらに変だ。王宮へ引き寄せるための罠のためにあえて魔機がいないんだとしたら、王宮にくる前のあの魔機も設置する必要がない」

「そうだよな。なら最初っからあそこにも魔機と私たちを戦わせる理由がわからなくなる」

 三途は目の前に積みあがる高い瓦礫の山を軽々と飛び越えた。月華の手を取り、引っ張り上げる。

「もしかして、っていうか。私の当てずっぽうだけどさ」

「うん」

「戦力をそぐためなんじゃないのか? 無数の魔機は本体である大型魔機を壊さなきゃいけなかっただろ? 私や三途だけでは絶対にできなかった作戦だ。あれはセーレの突剣と、シロガネの呪術で空の雲を切り開いたからこそ成功した」

「……たしかに」

「高い場所に避難してる魔機を打ち落とすのだけだったら、私じゃなくてもシロガネの呪術でできそうなことだ。番人の三途なら言わずもがな。

 ……っていうことを考えたんだけど。当たってたらどうしよう」

 へへ、と月華は苦し紛れに笑う。三途もつられて笑みをこぼした。

「ほんと、当たったらどうしようだな」

「でもこの月華様は最後まで三途と一緒にいるぞー。私を三途から引き離すのは至難の業なんだかんな」

「そうだな。月華は体力あるし力の温存の仕方もよく知ってる。生き残るための術を持ってる月華を簡単に退けられるとは思えない」

「もっとほめてもいいぞ、むふーっ!!」

「森に帰ったらいくらでもな。……とすると、魔機側は俺たちの能力をある程度理解してるんだろうな。

 俺は空を飛べないし呪術は使えない。月華は飛び道具に秀でてるけど連射性は低い。一発でしとめるからな。

 セーレは突剣による素早さがあるが剣の届かない場所からの攻撃には対処できない。シロガネは呪術と薬剤で俺たちを支援してくれるけどシロガネ自身に戦う力はそれほどない」

「……ってことは、神流が一時的に私たちから離脱したのも、魔機の思惑通りってことか」

「可能性が高くなってきたな。神流は俺と対になるような剣捌きができる。俺が手数だから神流は一発一発でかいダメージを叩き出す。俺か神流単体でも戦えなくはないが、俺と神流が共闘することでさらに戦力が増える。

 俺たちにとっては神流がいると非常に頼もしい。でも敵にとっては一緒にいてほしくない。それだけ戦力が増強されるからな」

 うむ、と月華は唇を指でなぞった。

「じゃあ、やっぱし今までの魔機は私たちをバラけさせるための足止め要員だったってことか!」

「可能性が高い。詳しくは魔機ご本人にご説明願いたいもんだが、意志疎通ができるのかねえ」

「どっちだっていいよ。殿下を助けて王宮の魔機をとっぱらえばいいんだから」

「……おまえ前向きだな」

「むふーっ、もっとほめても良いぞ、むふーっっ!!」

 はは、とお三途は乾いた笑いをこぼし、進んでいく。


「だとしたら、この瓦礫まみれの王宮内も説明がつく。これは月華と俺を引き離すための策略だ。身軽な月華だったらすぐに飛び越えられるが、俺はちょっと時間をくってしまう」

「身軽さなら三途も負けてないと思うよ」

「ありがとう。月華にほめられると悪い気しねえわ。

 もちろんそれも折り込み済みなんだろう。こんだけ荒らし放題したってことは、いつこの内部が崩れきるかわからない。天井が真っ逆様にここに落ちてこないとも限らない」

 そう言うと、三途の言葉に呼応したかのように天井からぴしぴしという音が聞こえてきた。

 三途はさっと上に視線を移す。小さな亀裂がどんどん広がっていく。その真下には月華がいるのだ。

「あぶない!」

 三途は月華を抱き抱えて向こうへと飛び込んだ。その直後、天井が落下してきた。

「ふわー……助かったよ三途。ありがとっ」

「どういたしまして。……こうして月華を痛めつけることで、俺と引きはがそうとしたんだろう」

「実感してる。魔機も知恵が働くようになったじゃないか」

「そのようだな。……ま、自分たちの体のつくりを急速に進化させていくような種族だ。知恵もこちらに追いついているんだろ。むしろもともと知恵はあったのに、それがさらに賢くなっちまったって可能性もあるな」

「イヤだなそれ! どうせなら平和的に知恵を絞ってほしいもんだ!」

「それは同感。ほら、いこう」

 三途は月華から離れ、手を引っ張り上げる。


 足場の安定しない内部で、しかも遠回りさせられていると思うと、三途もさすがに焦燥を拭いきれなかった。

 だがここに月華がいる。彼女の前でかっこわるいところは見せられない、と半ば意地になって焦りを隠していた。おかげでか、冷静さは保っていられる。


   *


「よし、ここだな」

 さんざん遠回りをさせられた三途だが、どうにかイストリアのいるであろう場所までたどりつくことができた。

 イストリアの隠れ家である離れ。

 王宮内はあれほどに荒らされていたのに、離れだけはその被害を免れていた。


 三途は離れの前に立って様子をうかがう。

 ざっと見通した限りでは不審な点は見あたらない。

 離れだけはきれいに整えられていた。魔機の気配もない。むしろそれこそが不審ともいえた。

「月華、何があるかわからない。いつでも弓を引けるようにしておいてくれよ」

「まかせろ」

「……それから、いつでも逃げられるようにもしておいてくれると俺が助かる」

「なにをー、この期に及んで今更逃げないよ」

「ありがとう、勇ましくて頼もしい。いやまあ、相手がわからないし、何が起こるかだって未知数だ。もしもの時は月華だけでも逃げてくれ」

「やだよ! また私をひとりにするのか」

 月華の方を振り向くと、怒ったような泣きそうな顔で、三途に抗議の視線をくれていた。三途ははっと思い出した。


 生前もそうして、自分だけが残って、月華を無理矢理逃がしたのだ。

 泣きそうな月華を退路へ放り込み、自分は迫り来る魔機に立ち向かっていた。

「悪かったよ。じゃあ訂正。

 逃げる準備はしよう。でも逃げるときは、俺も殿下も一緒だ」

「……」

「それならいいだろ? 月華をおいてどこにも行かないよ」

「ほんとだな? 嘘じゃないな?」

「嘘じゃない。誓う」

「……わかった。それなら良い」

「ありがとう、月華。屋敷に帰ったらたくさんほめてやる」

「むふっ、だったら今のうちにお褒めの言葉を考えておくがいいぞ!」

 月華の機嫌は、たちまち直った。


 じゃあ、行くか。と、三途は月華の手を取る。

 離れに足をふみいれた。

 

 離れは王宮庭園の休息所のようなつくりをしている。

 傷一つないその場所から見渡す庭園は、荒れ放題だった。魔機の爪痕がよくわかる。


 乳白色の離れの中心に、黒い一筋の線が伸びている。三途も月華も、それが王女イストリアの麗しい黒髪であるとすぐにわかった。


「殿下!」

 三途は急いで、ただし慎重に、イストリアのもとへ駆け寄る。


 王女イストリアは、離れの中心でゆったりと横たわり、静かに呼吸をしていた。

 質素なドレスに汚れ一つない。黒い挑発はさらりと床に垂れている。

 三途はイストリアをゆっくりと、抱き起こした。

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