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魔機ごろしの三途 ~王国最強の力は少女のために  作者: 八島えく
十章:王都へ行く道すがら
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64話:触手

 隻腕の魔機の眼球部分から、青い光がほのかに照っている。

 ぎらつく眼光は、三途の方を睨んでいた。

「アレを壊せば良いんだな」

「そのようです」

 三途は双刀を引き抜いた。


 隻腕の魔機が一歩こちらへ歩み寄る。ずし、と低い足音が地面に渡った。

 その足が踏みしめた地面は、たちまち異臭を放って瘴気を漂わせた。

 干からびていた地面が、さらに朽ちた。

 よくよく隻腕の足まわりを見回してみると、足跡とおぼしき場所だけから瘴気が立ちこめている。

 なるほどな、と三途は納得した。

 隻腕がこの地に一歩を投じるたびに、地は悲鳴を上げ命を奪われていくのだ。

 逆に考えれば、この隻腕さえ倒せばこのあたりの環境は大きく改善されるということだ。

「俺が前にでる。セーレは援護を頼む」

「承知しました」

 三途は上体を低くして、まっすぐ隻腕へと距離を詰めた。


 隻腕の直前までに迫った三途は、すれ違いざまに双刀を引き抜く。

 居合いの要領で、ポンチョから隠れた刃がひらめいた。

 隻腕は横に胴体をそらしてやり過ごしていたらしい。三途の刃は隻腕の脇をかすめるだけだった。

 

 ざっ、と三途は足を止める。ふるり、と双刀を構え直した。

 足を軸に回転し、遠心力を利用してもう一度隻腕へ刃をたたき込む。

 しかしその刃は隻腕の左腕によって受け止められた。ぎぃん、と金属のかち合ういやな感覚が三途の手に響いてくる。

 三途は左手の刀をまっすぐ前へと投擲する。狙いは隻腕の胴体だ。

 

 放たれた刀は、隻腕によって弾き飛ばされた。

 隻腕の腹部中心が円状に開き、底から灰色の触手が現れる。触手は刀をからめ取り、空の向こうへ放り投げた。

「……まじかよ」

 三途は隻腕から一歩退いた。

 一瞬だけ視線を空へ向ける。刀は優雅に回りながら空を舞っている。自分の手元に還ってくるのを待つ暇はない。

 隻腕の触手が、ぶわっ、と四方八方へ展開する。

「うわっ」

 三途は後方のセーレを抱えて横へと飛び退く。

「三途様、ぼくのことはお気になさらず。自分の身は自分で守ります」

「そ、そうだったな。ごめん、つい体が動いてしまった」

「ご好意は受け取っておきます」

 セーレをその場に残し、三途は隻腕をじっと睨んだ。


 触手はうようよと伸びていく。灰色の管のようなそれは無限に広がっている。失った腕の代わりだろうか。

 よくよく観察してみると、それらの先端は丸くて鈍い。どろりと粘液がまとわりついていた。

 粘液が触手の先端からぼろぼろこぼれた。その液にふれた地面が、しゅうっと音を立てた。

「あれ……触ったら痛いどころじゃなさそうだな」

「酸性の液体か何かでしょうか……。いえ、さほど強くはなさそうですが……」

「あれに当たらず本体を壊すってか」


 触手が伸びてきた。ぬっ、と数十の数がまとめて目の前まで迫ってくる。

 三途は横へそれてやりすごす。

 双刀の片方で無数の触手を切り上げる。すぱん、と確かな手応えがあった。

 切り落とした触手はぼとぼとと地面に落ちる。

 それらは魔機から引き離されると、どろどろと溶けていった。

 地面からしゅうしゅうと焼ける臭いがたちこめ、地面になじんでいく。


「本格的に、当たっちゃいけないな」

「同感ですね」

 三途の手元に、ようやくもうひとふりの刀が戻ってきた。


「俺がせいぜいひっかき回してやる」

 三途は伸びている触手の横をなぞるように、隻腕へともう一度駆けていく。

 腕のなくなったわき腹にかけて刃を撫でつけた。

 刀は今度こそ深く隻腕を切り裂いた。刃が通り抜ける。

 くるり、と向きを変えて、隻腕の背部にもう片方の刃を穿つ。

 野菜を刺しているかのように、隻腕そのものの装甲は柔らかかった。

 金属を打ち鳴らしているというより、訓練用の巻き藁を相手にしているかのようだった。


 だが三途はそれを不思議がるよりも早く、連撃で隻腕の隙をつぶした。

 何度も胴体を貫く。ひるんだ隻腕の首に向けて刃を振り下ろす。

 このまま何の抵抗もなければ、三途の刃は隻腕の脳天をかち割るはずだった。


 しかしそれは阻まれた。

 灰色の触手が三途の刀をからめ取ったのだ。

「っち!」

 三途は舌打ちひとつして、刀を後ろへ引いた。が、触手はそれよりも強くからみつき、容易に引きちぎることができない。

「三途様っ」

 触手と三途の間を割るように、セーレが突剣で応戦した。

 突剣が触手を的確に刺したことで、触手が怯み、力がゆるむ。

 セーレの突剣により三途は自由になった。

「セーレ!」

「ご心配なく。

 ……属性付与、炎」

 セーレの刀身に、ゆらめく炎がまとわりつく。セーレが突剣をひとふりすると、火の粉がセーレの周囲に飛び散った。

「えいっ」

 炎をまとった突剣が、未だ怯む触手を斬る。触手の断面に炎が移り、ぼうっと炎が広がっていく。

「……なるほど」

「三途様もお使いになりますか?」

「え、できんの?」

「できます。ぼくは多少の魔術を使えますから」

「わあ、頼もしい。雷、出せるか?」

「むろんです」

 はい、とセーレが三途の双刀に手をかざす。

 蛍光緑の光が瞬く間に広がるやいなや、三途の刀身に雷がまとわりついた。

「ありがと、セーレ」

「いいえ、当然のことです。……しかしあの魔機、奇妙ですね」

「奇妙?」

「はい。あまりに装甲が柔らかいのです」

 

 セーレと三途の会話を断ち切るように、触手が再び伸びてきた。

 三途はセーレと二手に分かれて攻撃をやり過ごす。

 よくよく隻腕本体を観察してみると、隻腕自体はさほど目立った動きをしていない。

 脚部をぴったりと地面につけてたたずんでいる。眼球部分は煌々とこちら側をにらみ据える。

 三途とセーレをとらえるために動く部位といえば、灰色の触手くらいのものだ。


 三途が攻撃を仕掛ければ隻腕自体も多少動きはするものの、基本的に目立った動きはない。

「……もう一度」

 三途はためしに、と触手をかいくぐって隻腕本体へと近づいた。

 隻腕は動かない。ぴたりと足を地面に縫いつけたかのように、その場から離れようとしなかった。

 三途はひゅっと双刀を切り上げる。雷をまとった刃はしかし隻腕に届かない。

 いつの間にか近づいていた触手の群れが三途の刀にからみついていた。

「やっぱり」

「三途様っ」

 セーレの突剣が触手を穿つ。刃の炎が触手を焼き、三途から引きはがした。

「助かった、セーレ」

「いえ」

 牽制で刀を振り回す。触手が離れ、隻腕が後方へ飛び退いた。ようやく動いた。

 だが、それだけだった。

 隻腕そのものは行動しない。三途とセーレに立ちはだかろうと動いているのは触手だけだ。

 

 三途の黄金の瞳が、すっと煌めいた。

 うごめき迫ってくる触手を切り払いながら、その視線は隻腕本体に集中していた。

「……魔機の核は隻腕の胸元だ」

「では、触手を退けて隻腕を叩かなければなりませんね」

「ああ。だけど触手が多すぎるんだ。……なんか増えてね?」

「……。……」

 セーレの端正な顔が、若干ゆがんだ。

「ええ、明らかに増量しています。正直な気持ちを申し上げますと、気味が悪いです」

「俺もおなじだ」

 

 隻腕の腹部からあふれ出ている触手は、最初は数十本程度だった。

 しかし今はどんどん増幅し、もう幾百幾千と無限にわいてくる。

 隻腕の体内にとどめておくにはあまりに量が多すぎる。いったいどこに隠す場所があったというんだろう。

 触手は四方八方に散って三途を襲ってくる。べちゃべちゃと粘液をまき散らしながら、無数のそれらはお構いなしにやってくる。

 動きそのものは単純だから回避も反撃も難しくはない。

 ただ数が多すぎる。そして触手の相手だけしていては、この不毛な戦いは終わらない。触手を操る隻腕を破壊しなければならない。


「触手は時間稼ぎか」

「そのようです。そして……あれが敵の体力をじょじょに奪っていくのでしょう」

「たしかに。隻腕の装甲自体は柔らかかった。核をねらうのも難しくない。本体がもろいからああして進化したのかもしれないな」

「興味深いですね。魔機というのも。サンプルとして生け捕りにすれば、シロガネ様の研究にお役立てできるかもしれません」

「できればいいけどなあ……」

 セーレの碧眼はきらりと輝いている。三途は苦笑しながらそれを見守っていた。

「ですが、今回はそうそううまく行くとは思っておりません。破壊しましょう。それがこの場所のためでもあります。三途様も、ぼくやシロガネ様にお気遣いいただく必要はありません」

「ああ、ありがと……。じゃ、全力で叩き潰す」

「微力ながら、お手伝いします」

 

 ぬっ、と触手がわいてきた。地を這いずって足場を浸食してくる。

 三途はとん、と軽やかに跳躍する。触手が地面を覆っていた。となりにいたセーレは少し離れた木の枝に避難していた。

 三途は距離をおいて着地する。そこに触手の群はまだきていないのが祺いだった。


 隻腕の視線はこちらを向いている。その方が都合がよい。

 三途は一気に駆け抜けた。ぬるい風が肌にまとわりつく。刃も鈍くぬめっているようだ。

「せいっ」

 三途が刀を横へなぎ払う。しかしすでに迫っていた触手が盾となり、刃を阻む。隻腕の体に行き着くことはなく、代わりに斬られた触手が地面へばらばらと落ちていった。

「この」

 三途は隻腕の視界から隠しておいたもう一振りの刀を逆手に持ち直す。隻腕本体との距離はほぼゼロだ。

 触手の残骸をくぐりぬける。上体は地面すれすれを駆けている。

 三途の目の前にたたずむ隻腕の脚部を、迷わず切り払った。

 すぱんっ、と華奢な足は切断される。

(よし!)

 まずは足。もともとさほど動かない本体をさらに動けなくしてやれた。


 が、隻腕も考えなしの構造をしているはずもなかった。

「えぇ!!?」

 三途は目を見開いた。その切断部分から、ずるりずるりと触手が漏れ出るように生えてきた。

「そんなのありかよ!」

 三途は地面に手をついてそこからすぐに離れる。

 刀を構えなおしてもう一度隻腕を睨み据えた。横目でそっとセーレの安否を伺う。枯れた木々を渡り駆けて触手の侵攻から逃れているようだった。三途はそっと胸をなで下ろす。


「こりゃあ……ちっとばかし面倒だな」

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