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魔機ごろしの三途 ~王国最強の力は少女のために  作者: 八島えく
十章:王都へ行く道すがら
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61話:早い出発

 三途の荷造りは終わった。持て余した時間はヒュージの酒場の手伝いをしたり、街の子供たちの遊びにつきあったりしていた。

 神流と月華は各々の武器の手入れに時間をかけていた。とりわけ神流は酒場の裏庭で模擬刀をふるっていた。

「体がなまってるからねえ。すこし勘を取り戻しておかないと」

 そう言ってふわふわに微笑んでいた。

 

 そうして待ち合わせの日がやってきた。三途は神流と月華をつれて、あらかじめ決めておいた場所へ向かった。「いってらっしゃい」とヒュージが見送りにきてくれた。待ち合わせ場所へ向かう道中、街の者たちがちらほらと「気をつけて」「早くかえってきてね」と激励してくれた。

「月華、ガムトゥとマデュラは?」

「獣の森の留守番を任せた。森は治ったから、新しい獣たちも生まれてくるだろうし、そのまとめ役にって」

「そっか」

「大変だったぞー。ガムトゥが『ガムトゥもいくー!』って言って聞かないの」

「そりゃ言いくるめるのも大変だったろうな」

「だろだろー。でも神流に頭とか背中とか撫でてもらっておだてたらころっと留守番するーって言うの」

「神流はガムトゥを手懐けるのが上手いんだな」

「えっへへ、僕はペットの躾には自信があるからね」

 

 そうこうしていると、その場所にシロガネとセーレが立っていた。

「お待たせ、シロガネ」

「いいや、ちょうど時刻通りだ。さて、いこうか」

 ここからは長旅だ。とシロガネは言った。


 シロガネの宣言通り、王都までの道のりは長かった。

 王都は何とか住人たちが抵抗しているおかげで魔機に完全な制圧を許してはいない。だが魔機たちの監視の目や外部からの侵入者に厳しいチェックを行っている。

 今回は旅の行商という偽装で王都に忍び込む作戦だった。

 交通の手段は荷車。運転手をセーレが引き受け、三途たちは荷車の座席に押し込められることになった。その中で行商人の装束をシロガネに渡される。そういえばシロガネとセーレが目深にローブをかぶっていたのはそういう理由か、と三途は納得した。

「行商といっても実際に商売人のようなまねごとはしない。が、検問でいろいろと小難しいことを言われるだろうが、それはすべて私が引き受ける。

 私が行商、きみたちはその護衛に雇われた傭兵。セーレは運転手。こういう役割分担だ。……理解できたかな?」

「良いよ」

 三途は着慣れぬ装束に身を包んだ。いつも着ている服とは生地からして違うから、着心地や肌触りが段違いだった。体を覆い隠すようなポンチョのおかげで、双刀もすっぽり隠せる。

「なに、難しいことは考えなくていい。これは舞台で演技だと思えばいいのさ。ただ台本がないだけのね」

「……なるほど。そう言われるとがぜん簡単に思えてきたぞ」

「その調子だ。月華嬢も、そのつもりでね」

「まかせろー。この月華様はアドリブの天才だからな」

「たのもしい」

 荷車はがたがたと揺れながら、王都をめざしていく。


「なあ、移動手段とか道筋とかは全部任せてしまってるけど、どういう陸路をたどるんだ?」

 ポンチョの下で双刀を握りしめて三途がシロガネに聞いた。

「ああ、街からふたつほど山を越える。山の中に社が立っているんだ。その境内は宿泊施設があるらしくてね。そこで一晩休んで次の山を越えて、荒野を越えて回り道してから王都だ」

「ずいぶん遠回りするな……?」

「その方が安全なんだ。それに、最初の山にはわずかだが魔機の目撃報告もあがっていてね。王都へ向かうついでに残党を完璧に破壊しておきたかった」

「そうか……。その社は無事かな……というか元々誰かすんでたのか?」

「住んでいたよ。私のしる限りでは100年前には少なくとも住居があったと聞いている」

「ひゃ、ひゃくねん……」

「今はどうだかわからないけどね。でも社とあるくらいだから、山の神がいるかもしれないよ。視えるかどうかはわからないけど」

「神……勝手に踏み入って祟られないか?」

「最大限の礼儀をもって慎ましくしていれば見逃してくれるんじゃないかな。そうだといいね」

 はっはっは、とシロガネは乾いた笑いをあげる。要するに保証はしないらしい。

「月華……この世界の神への敬意の表し方を教えてもらえるか?」

「いいぞー。月華様はお山の神々のことにも割とくわしいからな、むふーっ」

 月華がささやかな胸を張って、三途と神流に儀礼と作法をレクチャーしてくれた。


 魔機という異星生物の侵略を受けている以上やむなしではあるが、それでも神々は勝手に足を踏み入れられて怒りを覚える可能性だってある。見逃してくれればいいけど、と三途は月華の話をしっかり聞いていた。


   *


 座席ががたんと傾いた。どうやら、坂道にさしかかったらしい。

「ここからはお山に入るよ」

「もうそんなところか」

「山に入って少ししたら休息所がある。そこで小休止してまた出発だ。セーレの負担を激減してあげなければ」

「そういやずっと運転しっぱなしだったな……」

 出発してからすでに2時間は経過している。そこまでただの一度も事故やトラブルらしいものに遭わずにすんでいる。セーレの強い集中力と高い運転技術のたまものだろう。だがそれがいつ切れるかわからない。

「……1時間くらいセーレを寝かした方がいいんじゃないか」

「何を言うんだ三途君。8時間睡眠でなければ足りないよ」

「俺たち割と急いでんだけど!? いやこれが安全で仕方ない回り道ってのはわかってるけど! っつかあんたセーレに甘くね!?」

「従者を気遣うのは主人として当然の姿勢だろう。どこに甘い要素があるというのだ」

「むしろ甘くない要素がどこにある!?」

 シロガネの天然な発言にいちいち突っ込みを入れていると、車がゆったりとスピードを落としてしまいには止まった。

 

 運転席から降りたセーレが、ひょっ、とこちらの座席に顔を出した。

「ご歓談中申し訳ございません。休息所に到着しました」

「あ、ああ……ありがとう」

「三途様、シロガネ様のぼく贔屓は今に始まったことではございません。お気になさらず」

「聞こえてたのか。ごめん」

「いえ。……さあ、こちらへ」

 セーレが先導するその場所に休息所はあった。


 休息所といってもすでに人の気配はない。魔機の気配も感じられないのは幸運だろう。

 あたりにうっすらと霧が漂っている。この先を進むとさらに霧が濃くなるだろう。

 形だけの休息所だった。ところどころガラスがひび割れ、天井からぼろぼろと木屑が舞い落ちる。駐車場とおぼしきスペースには瓦礫が散乱しているし、室内も荒れていた。

 三途は顔をしかめながらその惨状を眺めていた。

「何というか……痛ましいな」

「そうだな」

 月華が静かな足取りで休息所に踏み入った。

 中は備品が散らかり放題で足の踏み場もほとんどない。壊れかけの給水機はかろうじて新鮮な水を出してくれた。

 三途も月華に続いて中に入る。一通り内部の様子を観察したが、誰もいなかった。

「ここに人はいないんだな」

「そのようだな。でもここで人が怪我をした形跡もない。死人はゼロだと思いたいな」

「……そうだな」

「三途のせいじゃないからな。番人といってもできることには限りがあるんだ。割り切れ、とは言わないけど、あまり背負いすぎる必要もないぞ」

「そっか。ありがとな、月華」

「いくらでもほめるが良いぞ、むふーっ」

 月華が胸を張った。


 内部には幸いなのか否か、惨状の中でわずかに保存食を見つけた。小さな缶の中に魚やスープ詰め込まれてあった。一同はひとまずそれで小腹を満たした。

「小休止がてら、ここで道のりの確認をしておこう」

 と、シロガネが地図を出す。

「今われわれがいる地点はここだ。この山のふもと。つぎに向かうエリアはこの山を越えた先の……この休息所だね」

 シロガネの骨ばった指先が、つんと山の目印をなぞる。

「この休息所でももう一度休む。陽が暮れているようならここで一晩過ごすよ」

「わかった」

「では、出発といこうか」

 シロガネが地図を閉じた。空になった缶詰は、月華がまとめて洗った。

「月華、それ持ってくのか」

「ここで食い残しの形跡がみつかったら、魔機に感づかれるかもしれないからな。まあ、ちゃんとした街に着いたらそこで捨てるよ」

「……ちゃんと考えててえらいな」

「むふーっ!!」

 水を飲んで口の中をすすぎ、三途は月華の頭を撫でてやる。そして休息所の用事が済んだ一行は、車に乗ってお山を越えていこうとする。



   *


 走行中、三途は窓から外を眺めていた。

 見渡す限り緑で生い茂った木々に囲まれている。道は舗装されておらず、車が走るたびにがたがた揺れた。もともと乗り物に乗っての旅を続けていたせいか、三途も神流もその程度で気分を悪くすることはなかった。月華はもともと強いらしい。

 ……が、シロガネだけは別だった。

「シロガネ……なんか、顔が真っ青通り越して紫色なんだけど」

「気のせい気のせい。私はもともと顔色が悪いから」

「顔色が悪いってレベルじゃねえぞ……。おい、揺れで酔ってるんじゃないか?」

「大丈夫大丈夫酔ってない酔ってない。これは、そう、昨日酒を悪飲みしただけだ」

「嘘つけ!!」

 三途は見ていられなくなってセーレに声をかけた。シロガネの体調が崩れたと聞いたとたん、セーレは迷わず車を停める。運転席から真っ先に飛び降りた。

「シロガネ様」

「ああ、セーレ……ごめん……」

「いえ、少し外の空気を吸いましょう。このあたりの地面はぼこぼこで車もはげしく揺れますから」

「しかし早く王都へ行かないと……ただでさえ回り道しているのに」

「無理を押して王都へ行っても、魔機と戦える状態でなければ意味もありません。さあ、降りて」

「もう酒なんて飲まない……」

「飲んでいないでしょう」

 ほら、とセーレが無理矢理引っ張り出すとシロガネも観念して車からでた。

 三途はシロガネとセーレを守るように車をでた。

 うずくまってひたすら吐き気にさいなまれるシロガネを、セーレは背中をさすってやっている。

(あの末恐ろしいシロガネともあろう男が……)

「三途様、水をいただけませんか?」

「あぁ、ちょっと待ってろ」

 三途は車に置いてきた荷物から水袋を持ち出し、セーレへ渡した。

「シロガネ様、飲んでください」

「うん……」

 ごぼごぼと盛大にこぼしながらも水を飲むと、シロガネの顔色もわりと治ってきた。


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