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魔機ごろしの三途 ~王国最強の力は少女のために  作者: 八島えく
一章:三途、地球に転生す
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5話:反撃の時

 銀の魔機が、ビルの合間を縫うようにして再び動いた。

 ちらちらと三途の視界から巧みに消えては現れを繰り返す。

 自然と三途の集中も銀の魔機に強く注がれ、銀の従える魔機たちの四方八方からの襲撃を見逃しやすくなる。


 だが三途はそれにひるむこともなく、セーレの突剣を握りしめて深呼吸した。

 魔機の行動パターンはわかっている。今この場で理解したのではなく、すでに知っている。


 銀の魔機の咆哮が、空から降り注ぐ。びりびりと震えた空気が三途の肌にもつたわってきた。

 

 隆起したアスファルトをつま先でとんとんかわす。

 背後から敵意を感じとり、素早くそちらを振り返る。

 振り向きざまに突剣を横に振り薙ぐ。

 ひゅうっ、と空を切り裂き、風が刃となって魔機のひとつを両断する。

 断末魔を上げる暇も許すことなく。胴と脚部を分かたれた魔機は地面にまっすぐ落下した。

 

 魔機の欠片がぱらぱらと風に飛ばされる。

 飛行型の魔機は火球を飛ばすほかには滑空からの脚技、かみ砕き、翼による斬り払い。

 

 装甲による守りは、並大抵の武器では通用しない。無駄に武器を欠けさせるだけだ。

 だが三途は違う。セーレの突剣は魔機に通ずるための細工がほどこされている。


 三途自身もまた、魔機に対抗できるだけの力が備わっていた。

 どういう原理か知らないが、使える手段ならいくらでも大いに活用してやろう。そうすることで、月華とセーレを守ることができる。


 三途は冷気漂う突剣を構え直す。

 次はおよそ10体の魔機が同時にしかけてきた。


 滑空による威嚇と斬り払い。三途は黄金の瞳をじっと凝らしてその動きを読みとる。

 体を横にずらして翼の攻撃範囲からわずかにそれる。もう一度、と高度を上げて体勢を立て直そうとした魔機を三途は逃さない。

 すれ違い様に突剣を前につきだし、魔機の喉を穿つ。

「ぐエッ」

 魔機の絶叫を隅っこにおいやって、三途は突剣を引き抜いた。刃に漂う冷気は魔機の残骸をも包み込んでいる。


 滑空攻撃を複数の魔機がタイミングをずらしてしとめる寸法だろう。

 上空には複数の魔機がぐるぐると飛びまわって次々と三途めがけて急降下してくる。


 三途はそれらを軽やかに回避する。死角からの不意打ちは、己の聴覚でもって読む。


 1体ずつ相手をするよりも、一気に破壊した方がてっとり早い。

 三途はそう決め、魔機らの攻撃から逃れることのできるポイントを探す。


(うーん……。……あっこかな)

 見定めた先は、屋根の崩れた古い家。だだっ広い日本家屋の塀にとんとんと登り、魔機の斬り払いから避難する。

 空を泳ぎ続ける魔機に、こちらから攻撃をしかけるにはどうすれば良いか。

 何も突剣だけが武器じゃない。突剣にまとっていた冷気は失われていない。柄を握る手から、刺すような氷の感触がやってくる。


(俺に力を貸してくれるか?)

 冷気が柔らかく三途の手首にふれてきた。従おう、といってくれているのだろうか。

(ならば、存分に貸してもらう)

 

 不安定な塀にしっかりと立ちながら突剣の冷気に攻撃の手だてとなるよう心中で頼んだ。

 

 すると冷気は白の粒子から氷に姿を変える。ぱきぱきとひび割れる音をかきだしながら、氷柱のごとく三途の周囲を守っている。

 よし、と三途は胸をなで下ろす。


 上空から、魔機が無数に飛びかかってくる。銀の魔機にくらべて、従っている魔機はさほど知性は高くないようだ。


 三途はひゅうっ! と突剣を横に薙ぎ払う。風を切る甲高い音と一緒に、三途の周囲に漂っていた無数の氷柱が魔機を迎撃する。


 がんがんっ! と氷柱は魔機の群れに果敢に突っ込んでいく。

 氷そのものは当たった瞬間に砕け散るが、さらに迎撃がつづく。


 (つぶて)となった氷は再び氷柱となし、未だ三途をねらっている魔機らに襲いかかる。

 氷に大したダメージは望めない。が、目潰しや隙潰しとして大いに役立った。

 

 三途は一瞬だけぐっと膝を曲げ、直後空へと跳躍する。

 ちょうど氷の襲撃に手こずっていた魔機が良い具合に近づいていたのだ。

 

 三途は冷気離れた突剣を振りかぶってその魔機に強く振り下ろす。

 細くしなやかな刀身であったが、それが魔機に折れることはなく。

 なめらかでまっすぐな軌道を描きながら、魔機を断ち切った。


 骸となり果てた魔機を踏み台に、三途は次の標的に向かって跳んでゆく。


 魔機の背に飛び乗り、ふりおとそうと暴れる魔機の装甲と装甲の間をねらって突剣を突き刺す。

 魔機の生命活動が停止するまえに三途は次の魔機へと飛び乗る。


 飛び乗って急所に突剣をさして、次の魔機へ、刺して次へ、また次へ。


 砕かれたビルに近づくとたまに割れたガラスの隙間に滑り込んで、安定した場所で一息つく。ビル内には人がいない。すでに避難したか、逃げ遅れたか。


 そして自分めがけて突っ込んでくる黒い魔機をいなし、考えなしにぶっ離される火球は軽やかなステップで回避する。


 相手の攻撃の手がやんだら、すかさず三途は反撃をたたき込む。

 魔機の大振りな脚爪をかいくぐり、攻撃直後で体勢がやや崩れている魔機を穿つ。


 がちゃがちゃと音を立ててくずおれる魔機を踏み台に、三途は再び空へと跳ね戻る。


 空を支配する魔機は三途の無謀な戦いにより、数が減っていく。

 空の魔機が三途ひとりに撃墜され、地上へ落ちる。地面は魔機の残骸で埋め尽くされ、金属の臭いが満ちていった。 


 三途は銀の魔機を探す。

 空に羽ばたく銀色のボスと、再び視線がかち合った。


「お前を倒せばおわり」

 三途は踏み台にした魔機から跳躍する。銀の魔機に向かってまっすぐと。


 突剣以外、何も持たない三途は無防備きわまりない。

 そして足場という足場はもう残っていない。

 だが三途はそれでも進んだ。

 

 銀の魔機はすでに火球放出の準備を終わらせていた。

 魔機の顔が炎で照らされる。


 ごっ!! っと放たれた火球は三途へと瞬く間に迫ってくる。

 三途はそれを真っ向から受け止めた。

 

 突剣を盾代わりとして前に構える。

 炎をぶつ斬るように、刃が火球を穿った。


 それでも三途を後ろへ追いやろうとする火球の勢いはいまだ衰えず。

 三途は火球に吹っ飛ばされる。


 かのように見えたがそれも計算のうちだった。

 かき消した炎の隙間から、朱色にひらめく剣があらわれる。


 三途は後方へ押しやる力に反発しながら、空中で起用に身をねじる。

 ねらうは魔機の脳。


「終わりだ!」

 ぶんっ!! と思い切り突剣を、魔機に向かってまっすぐ投擲した。


 火球を放った後の隙をつかれた魔機は、自慢の翼で防ぐこともできず、新たな炎で刃を迎撃することもできない。


 魔機の雄叫びも装甲も炎もすべて斬り開いた刃は、魔機の胴体に深く穿たれた。


「があああっ!!」


 三途は半壊したビルの硝子に背中を打ち付けた。思い切りたたきつけられたが、ガラスはひびが入っただけで盛大に割れ散らばることはなかった。


「……ってえ」

 三途は一度だけせき込み、すぐに戦闘態勢を切り替える。

 

 ずり落ちる前にガラスを蹴って再び空中へ。

 突き刺さる剣をどうすることもできない魔機がじたばたと暴れているところにもう一度突っ込んでいく。

 

「そんなにコレを抜いて欲しけりゃ手伝ってやる」

 にっ、と三途が不適に微笑んだ。


 魔機はすでに落下の一途をたどっている。空から地面までの距離およそ10メートル。


 三途は無造作に魔機の口へと左足を突っ込んだ。魔機の胴に右膝をつく。

 じたばたと四肢を暴れさせる魔機は、三途の足を食いちぎることも忘れていた。

 魔機を貫く突剣を引き抜いて、三途は逆手に持ち直した。


「これで、どうよ!」

 突剣を魔機の喉へと貫く。金属から柔らかい肉を刺した感覚がつたってきた。

 切っ先がかつん、と固い物体に突き当たる。魔機の体内に宿る心臓とも呼べる核に、三途の攻撃が届いた。


 三途はさらに体重を剣に乗せる。次はがつんっ、と物体の欠ける音が響いた。とたんに魔機の絶叫がぴったりとやんだ。足首に食い込む牙が抜けていく。もがく四肢はそれ以上動かない。


「……ぉらっ!」


 足を魔機の口から引き抜く。

 両膝を曲げて、まっすぐ魔機の胴へ足をうち込む。

 反動で三途は上へ跳び、魔機を地上へたたき落とした。


 地盤が割れてところどころ隆起したアスファルトに落下した魔機は、地面との衝撃であっけなく砕けた。

 

 金属の破片や装甲は手のひらでつつみこめるほど細かく砕け、四方へ八方へ飛び散る。

 破片は風に乗って空へきえる。三途の頬にその漂う破片がびしびし当たった。

  

(よし)

 三途は破片の塊となった魔機の骸を踏むように、軽やかに地面へ着地した。

 すとん、と地面に戻ってきた三途に、大したけがは見当たらない。


 三途は周囲をぐるっと警戒する。ボス格の魔機はすべて壊したが、しとめそこねた魔機がのこっているかもしれない。

 だがその心配もなかった。

 生き残った残党は確かに存在したが、そのいずれもがぴたっと行動を止め、空から地へまっすぐ落ちていった。

 おそらく、緑、赤熱、銀の魔機が動力源だったんだろう。これらをつぶしたことで、部下たる魔機も生命活動の源を断たれたのだ。

(……色つき魔機を優先して倒しておくべきだった)

 三途はいらだちまぎれに、魔機であったかけらの一部を蹴り上げた。


 

 自分を脅かす敵は一掃した。

 そう感じるまで三途はずっと空に視線を集中させていた。今回襲ってきた魔機は飛行型のものであり、地上に降りて戦うタイプではない。

 翼を休めるためと、地上の獲物をとらえるために降り立つことはあるが、それでも空中にいる時間の方が長い。


 見渡す限りの大空に巣くっていた黒き大群はすでに一粒として残っていない。

 そのいずれもがぼたぼたと地上に落とされ、地を黒く染めている。


 嗅覚、聴覚と第六感を駆使し、このあたりに敵意や殺意がなくなったことを確信し、三途はようやく月華のもとへと駆けつけた。

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