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57話:活路

 臓物型の魔機は大きな目を三途にぎょろりとむけているだけだ。特に攻撃の意図が見あたらない。

 三途はじっくりと距離を詰めて慎重に相手の出方をうかがう。あれほど巨大な目に睨まれていると背筋がぞっと震える。

 臓物型はぱちり、と瞬きをした。するとそれに呼応したかのように、壁の水槽を泳いでいた魚型達が、一斉に三途へと視線を集中した。

「っな、何だ……!?」

 魚型達の目が金色に光る。眩く照るそこから光が漏れだした。

「シロガネ、離れろ!!」

 三途は反射でシロガネにそう叫ぶ。シロガネはフードを深くかぶって床に伏せた。

 魚型達の目から光線が放たれる。狙う先は三途だ。三途は上半身をそらしてそれらをやり過ごす。若干逃げ遅れた前髪が、じゅっと焦げた。

「このやろ! おまえらの相手はこの月華様だってーの!」

 月華がいらだち紛れに水槽を蹴飛ばした。月華の膂力ではびくともしない。

 

「というか、ガラスから光線が貫通すんのかよ……」

「みたいだねえ。いてて……」

 シロガネが腕をさすりながら起きあがる。

 光線は三途を集中的に狙って絶え間なく放たれる。三途は月華やシロガネから距離を置きつつ、その光線をくぐり抜けていく。

 三途の狙いは臓物型だけだ。あれが海中基地の大ボスである。それを破壊すれば海中基地は自然に滅することができる。

「ごめん三途! レーザーは自力でなんとかして!」

「わかってるよ月華! なにも心配いらない」

 月華はパチンコを構えてガラスに弾を打ち当てる。びすびすと小さい罅を刻むことはできたが、破壊するまでに至らない。どうやら、魚達の足止めは期待しない方が良さそうだ。

(月華やセーレでも苦戦する相手か……小型魔機もいい性能してるわ。性能というより、防御特化ってところだけどさ)

 三途は光線から逃れつつ考える。この光線をおびき寄せて臓物型の軌道上を通らせる作戦を立ててみた。

 だが魔機たちも想定の範囲内だったらしい。光線は、臓物型の水槽に当たる直前に軌道を曲げ、三途の方へと修正する。

「なかなか頭の良い機械たちだね」

「そのようだなシロガネ」

 シロガネがマントから薬瓶を取り出す。とぷん、と液体が跳ねていた。

「どうやら私は、三途君の近くにいない方が良いらしい」

「申し訳ないがその通りだ。それより水槽の魚たちをどうにかしてくれると非常に助かる」

「もちろん、それでいこう」

 シロガネは薬瓶を右方へと放り投げた。

 右側の水槽のガラスにがつんと当たった瓶はきれいに砕け。

 突如暴発した。

 爆煙が立ちこめ魚達の視界を遮る。煙が晴れ、シロガネは舌打ちした。

 ガラスを打ち破るに至っていない。

「私の薬物調合技術も落ちたものだ」

「違う、相手が堅すぎる」

「慰めのお言葉、どうも」

 三途は臓物型へともう一度近づいた。

 目の前の人間を睨むその目は、合わせるだけで恐ろしい。

 

 光線の軌道を臓物型へと誘い出すことはできない。小魚型の魔機を操っているのは臓物で間違いはないだろう。

 ならば臓物型を破壊すればいい。そのためには、自分の刀を臓物にまでどうにか届ける必要がある。


「この、このっ」

 珍しく焦ったセーレの声だ。突剣で水槽のガラスを突き続けるが、砕ける気配はない。

「シロガネ様、ぼくの刃に魔術付与を!」

「了解、ほら」

 シロガネが優雅に、何かを放り投げる仕草をすると、セーレの持っていた突剣にゆらめく陽炎がまとわりついた。ぼんやりと炎がともり、セーレと月華の顔を照らす。

「せいっ!!」

 セーレのひと突きが、水槽をわずかに貫通する。

「通った!」

「でかした!」

 突剣を引き抜くと、そこから水があふれ出てくる。セーレはすかさず上着のポケットに仕舞っていた瓶を取り出す。

 漏れた水はひとりでに瓶へと吸い込まれていった。

「わぁ……実際に見ると不思議なもんだなあ」

 月華はパチンコを発射しながら見とれている。

「月華様はこちらの水槽の魚達をお願いします」

「セーレは?」

「もうひとつの水槽を穿ちます」

「まかせろー」

 セーレが駆けだしていった。


 さて。三途は魚の光線をくぐりぬけながら、臓物を守る入れ物を刀で何度も撫でた。

 手応えはある。ガラスに鋭い一閃が刻まれている。だがガラスはひとりでに修復されていく。

 ならばと水槽頂部のチューブを切り裂いてみた。それもすぐにくっついた。

 臓物の背後に回り込むと、目がぎょろりとこちらへ向き直った。光線は相変わらず三途を狙う。そして水槽からはきれいにそれる。

 光線の一直線な攻撃を回避するのは造作もない。が、肝心の臓物型への攻撃に集中できない。

「せいっ!」

 三途は勢い任せに刀を前へ突き出した。

 刀は刃先だけ貫通した。だが肝心の臓物型には届いていない。

 それどころか刀が引き離されるような感覚さえ覚える。

 無理矢理引き抜かれ、真正面からくらった衝撃とともに、後方へ吹っ飛ばされた。

「三途君!」

「っ、心配ない!」

 軽い身のこなしで体勢を整える。すかさず光線が追い打ちをかける。

「あぶねっ」

 三途の額から冷えた汗が流れた。

 ようやく持ち直したバランスがさらに崩れた。そのとき刀を滑らせる。

 からんと床に落ちた刀に、光線が命中した。


「……あれ?」

 三途は刀を拾おうとして手を止めた。

 光線が、刀に当たって軌道を変えている。跳ね返されたのか。

「……!」

「三途君、無事か!」

「問題ない!」

 三途は今度こそ刀を拾い上げる。

 

 今の三途に、もしや、という考えが浮かび始めていた。

 刀の刀身で光線の軌道をうまくそらすことができる。

「……ものはためし」

 そっとつぶやいた三途はいったんその場に足をとどめた。

 光線がまっすぐこちらへむかってくる。三途はそっと刀を上へかざした。

 光線は刀身上に当たる。案の定軌道が曲がった。

 だが刀から外れた光は跳ね返すこともできない。数本は三途の体をかすめた。

「いてて……」

「なるほど、ね」

 向こうでシロガネがつぶやいていた。そして光線のただなかをひらひらかわしながら、三途のもとへ駆け寄る。

「こ、こら! シロガネ、こっち危ねーから!」

「いや、なに。この程度は回避可能だ。それよりいい活路を見いだしたようだね、三途君」

「あ、ああ? うん、でもこれだけじゃ全部の光を返しきれない」

「そのようだね。刀は細いから。金属なら何でも跳ね返せるだろうか」

 シロガネはひょいっと手鏡を当ててみた。光線は跳ね返る。軌道を曲げて地面に落ちた。

「やはり金属か」

「そうだよ。これで跳ね返して臓物型に当てることができたら、ダメージ入れられるんじゃないかって」

「いいアイディアだ。ものはためし。やろう」

 にっ、とシロガネが微笑む。

「光線全部を跳ねかえすにはもう少し大きな金属が必要だぞ?」

「ああ、それなら心配ない。三途君、刀をかざして、ふたふりとも」

「え?」

 いいからいいから、とシロガネに催促される。手だてが見つからない以上、三途は望みを託してシロガネの言うことを聞いた。

 そっと立ち上がって刀をかざす。

「そのまま」

「え、っ、ぶわっ!?」

 三途の目の前に、甘酸っぱい飛沫がまき散らされた。

 思わず目を覆うが足だけは踏ん張れた。

 目を開くと、自分の刀が巨大化しているのに気づいた。

 光線が三途の方へ向かっていく。軌道は三途の胴体。刀からは僅かにそれている。

「おおっと、と」

 三途はあわてて軌道上に刀をずらした。目をぱちくりさせながらも、体は自然と動いてくれる。

 光線すべてを覆いきるには充分なほどの刀身だ。

 光線はすべて刀が受け止め、あらぬ方向へとねじ曲がる。

 そのうち1本が臓物型の水槽へと突っ切る。臓物型と水槽と小さな穴が貫通した。

「……やっぱり」

「シロガネ、俺の刀になにした?」

「一時的に物体を大きくする呪術を施しただけさ」

「へ、へぇ……便利だな」

「ありがとう。といっても肥大化させるには時間制限あるし、肥大化可能な物体ってのも限りがあるんだけどね」

 シロガネの言葉が切れると、たちまち刀はもとの大きさに戻る。

 三途は臓物型の水槽をみやる。貫通した穴はそのままだ。

「話はあとでな!」

「そうしたまえ」

 シロガネがひらひら~と手を振る。

 

 三途は水槽へ駆け出し、穴へと刀を突き通した。

 臓物の眼球横すれすれに命中し、深く刺さる。ガラスが徐々にふさがっていく。臓物は痛みも感じず、ただわずかに瞼を閉じただけ。

(いや、瞼あるのか、この構造……?)

 三途はひとつの疑問を頭に浮かべたが、深くは考えないことにした。

 自分のやるべきは、一刻も早く臓物型魔機を破壊すること。


 ガラスがふさがり、刀が引き抜けなくなる。だが三途はまけじと、刀を無造作に振り切った。

 がりがりと、臓物ごとガラスを削る。刀は自由になった。


「三途君、光線」

「え、あぶねっ!」

 三途はあわてて水槽から離れた。さっきまで自分が立っていた場所に、光線が集まる。

「次、来るよ」

「了解っ」

 小魚達が光線を放つ。きいぃ、と甲高い発動音が耳に響いた。


「三途、伏せてろ!」

 遠方から月華の声。月華の方へ視線をむけると、彼女はこちらにむけてパチンコを構えていた。

 深く考えることはもうやめておいた。月華がそうしろというならそれに従う。シロガネにこれを使えといわれれば従う。三途はその行為にためらいがない。そうすることで、魔機を破壊できるのなら、自分の意志など押し込める。

 

 三途が床に転げる上で、月華のパチンコ玉がまっすぐ飛んでくる。

 光線がそれに見事命中していた。

 パチンコ玉によって軌道を曲げられた光線は四方八方へ散り、そのうちいくつかが臓物型の水槽に突き刺さる。

  ガラスも臓物も穿たれ、水槽からどろどろとした粘液がこぼれ落ちてくる。

「いい腕だ、月華」

「あとでいくらでもほめてやる」

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