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53話:ガムトゥ発見

 港の隅。船や漁師から離れたとある場所。

 三途はおそるおそる、シロガネから受け取った薬を飲み込んだ。どろりとした甘い液体が喉をゆっくり通過する。

 身体に異変らしいものは見受けられない。

「基地までの道は覚えたか?」

 月華に問われ、三途は首肯する。

「問題ないよ、月華。俺が先行するから、着いてきてくれ」

「まかせろ」

 三途は刀を肩に背負い、海へと静かに飛びこんだ。


 水はそれほど冷たくなかった。それどころかぬるくさえ感じた。

 思い切って海中に全身を沈める。水が身体にまとわりつく感覚こそあったが、目を開いていても呼吸をしても、地上にいるときと変わらない。

「……息ができる」

「私の特性の調合剤だ。ふふ」

 シロガネが白髪をゆらしながら、にぃっと笑う。

「ああ、今回はあんたの薬剤知識に助けられた。この礼は必ず返すよ」

「律儀だねえ。期待して待っているとしよう」

「期待に応えておかなければな。……さて、行くか」

 三途は海を蹴って深く沈んでいく。

 

 海の中での行動は、地上のときよりも重力を感じない程度のものだった。

 ふよふよと身体が浮かぶが、ある程度は自由に動ける。何より呼吸ができるのが大きかった。とはいっても、呼吸ができる時間は少ない。

 三途はさっと海中を泳いでいく。それを追うように、月華がついてきてくれる。

 シロガネとセーレは、10歩ほどの距離をとって三途の後を追っていた。

 海中には無数の魚が優雅に泳いでいた。魔機によって占領されているとは思えないほどに。

 ただ海底近くになると、魔機とおぼしき機械の破片があちこちに見つかった。

「あれ、魔機の残骸か……?」

「かもしれないな。ちょっと待ってろ」

 月華がすぐに底へ向かい魔機の破片とおぼしきものを拾い上げて戻ってきた。

「これだな。どうよ、これ」

 三途は月華の手のひらに置かれた破片をじっとみた。

「……うーん、ちゃんと調べないと何とも言えないが……形状からして魔機……? で合ってるのか」

「魔機だね。この当たりではなく、王都で見かけるタイプの色だ」

 シロガネがひょいと破片をつまみ上げた。

「あっこら、シロガネこのやろう」

「これも調査しておこうか? 別途料金はいただくけれど」

「ま、まあ……あとで見積もりさせてくれ。今は海中基地に着くのが先決だ」

「もちろん」

 

 海から基地への道には、幸いにも魔機と遭遇することはなかった。

 静かすぎるほどだった。海の中は、魔機の残骸がいくつか見つかっただけで、海には何の変化もなかった。少なくととも三途にはそう感じた。


 静かに一心に、三途は基地を目指した。そのおかげですぐにたどり着いた。

 海中にただよい、底に根を張る基地が、三途の視界に広がっていた。

「……」

 三途はじっと眺めながら、海草に身を潜めて見守っている。基地の周囲を見張りとおぼしき魔機が10機静かに泳いでいた。

「巡回の魔機は破壊しておきますか?」

 シロガネの後ろにいたセーレが、そっと突剣に手を添えた。

「そうだな……。よし、俺とセーレで5機ずつ相手するぞ」

「承りました。……シロガネ様、よろしいですか」

「いいよ。存分に暴れておいで」

「その間に、私とシロガネで基地内に侵入しておくからな」

「頼む」

 三途は海草の陰から躍り出る。


 水中での動きは地上の時よりゆったりして速度が出ない。

 漂う海草や廃棄物の陰に隠れながらそろりそろりと巡回機に近づく。


「そこっ」

 三途が海中の岩石を蹴って飛び出し、巡回機1に刀を振り下ろす。陶器を叩き割るような感覚だった。

 三途の胴体ほどの大きさの巡回機はまっぷたつに砕かれ、底へと沈む。

 三途に続くように、セーレが突剣をゆっくりと巡回機へ突き刺す。

 赤いランプ部分を鋭く貫いた。突剣を引き抜くと、ランプの光は消えた。

 

 2機の魔機が破壊されてさすがに残りの巡回機も気がついたようだ。

 残り8機が赤いランプを輝かせ、三途とセーレを囲い込む。

「三途……!」

 下方から月華の声が聞こえる。

「俺たちのことは気にしなくて良い! 月華は中へ!」

「……了解、すぐにくるんだぞ」

 三途は軽く刀を振って答えた。

 巡回機のランプがうなりを上げ、甲高いサイレンが鳴り響く。だが水中ではサイレン音がくぐもって聞こえる。


 三途とセーレでそれぞれ4機ずつ破壊した。

 巡回機は小型で小回りがきいた。三途の刀やセーレの突剣が届かない距離から、青いレーザーを当てに来る。

 三途は水中で身をひねってかわす。肩先をかすめたそれからは、じゅうっと何かが焼ける音がした。少しばかり三途の肝が冷えた。

「……まったく!」

 三途は廃棄物や海中基地の壁を蹴りつつ巡回機へと近づこうとする。

 だが巡回機は、水中でも自由に動き回っている。こちらを挑発するかのように、レーザーをからだのあちこちに当ててきた。

 行動速度でいえば、巡回機の方が上だ。反撃に回ろうとしても軽々とかわされる。刀の切っ先さえも届かない。

「くっそ」

「三途様、ご無事ですか」

「ああ今のところは」

「呼吸ができてある程度行動もできるとはいえ、水中ではあきらかにぼくらが不利です」

「俺もそう思っていたところだ。どうしたもんか……。あ、セーレの魔術でどうにかできないか?」

「無理です。さきほどいくつか試してみましたが、発動しても速度が劣ります。巡回機に届く前にかわされてしまいました」

「そうか……」

「ご期待に添えませんで」

「いや、いい。それより試してくれてありがとう、だ」

 

 巡回機はいずれも元気に泳ぎ回り、三途とセーレを翻弄してくる。

 刃が届かないのは明らかにまずい。そしてセーレの術も回避されるというのなら、三途側はお手上げ状態なのだ。

 巡回機の青いレーザーを何とかやりすごし、三途はどうしたもんかと考える。

 

 すると、三途ははっと目をこらした。

 自分を狙っていたレーザーが、ある場所から急に方向を変えて曲がったのだ。

「……?」

 曲がったポイントをそっと見やると、そこには苔に浸食された鏡が打ち捨てられていた。

「……あ!」

「三途様?」

「勝てるかもしれない!」

「なんと」

 三途は巡回機にむかって、無謀に飛び込んだ。セーレが止めるのも聞かない。

 巡回機は無防備な三途へ、照準をぴったりと当てた。巡回機10機すべて、三途へ殺意を注いでいる。

 三途のねらい通り、巡回機はレーザーを放ってきた。

 

 三途は自分一点にむけられる青い光から身体をひねってやり過ごす。

 巡回機の青いレーザーが、三途の横髪を焦がした。

 三途は身を翻したと同時に、刀2振りをレーザーに当てる。


 するとあおいレーザーは反射し、巡回機たちへとそれぞれ跳ね返った。

 光は巡回機をまっすぐ貫く。反応する暇もなかった巡回機はすべて、がしゃん、とくぐもった音を立てて海底へと沈んでいった。

 ふうっ、と三途は息を吐く。刀を納めてセーレのもとへ戻る。

「待たせたな、セーレ。もう大丈夫だ」

「……なるほど、刀身に反射させたのですね」

「そう。自分の手が届かないなら、相手の力を利用して返してやればいいってな」

「発想の転換ですね。お見事です」

「ありがとう。……さあ、俺たちも基地内に侵入するぞ」

「はい。シロガネ様が、きっとお待ちです」

「おまえ、ほんっとシロガネ好きだな……」

 当然、とセーレはしれっと答えた。


   *


 三途はセーレを伴い、後れて海中基地の内部へと足を踏み入れた。

 海中での浮遊感は消えて、地上とおなじ重力が身体に乗っかる。

 入り口付近の壁や天井のあちこちで、引きちぎられたコードや魔機の残骸が三途の目に入る。それらを壊した張本人である月華とシロガネが、優雅に三途とセーレを出迎えてくれた。


「よう三途。ちょっと遅かったな」

「ああ、少し手こずった。ごめん、手間をかけた」

「ぜんぜん! 水中だと何かと不便だったろ。……見張りは壊しておいた」

「助かる。シロガネも」

「かまわないよ。セーレ、怪我はないかな」

 シロガネはまっすぐにセーレに駆け寄った。セーレの肩や腕をそっと撫でつけている。

「なにも問題はありません、シロガネ様」

「それは何よりだ。怪我でも負っていたら一緒にいた三途君に責任とってもらうところだったよ」

「何で俺だ!」

「は、冗談だ」

「あんたの表情からして全然冗談に聞こえなかったんですけど……」

 肝を冷やしながら、三途は海中基地の攻略に集中した。


 海中基地内は空中基地よりもさほど広くはない。魔機とすれ違うことはなかったし、巡回機や基地門前の魔機を破壊したというのに、警戒する兆しもない。

 ごうごうと鳴る機械音や三途たちの足音以外なにも音はない。殆ど無音で耳が痛くなるほどの静けさだった。

 それでも三途は警戒を緩めず、刀に手をかけていた。

 忍び足で基地の一室一室を調べていく。

「ガムトゥ、どこにいるんだろ……」

 月華がそっとつぶやく。

「うん、どこだろう。早く見つけてやらなきゃな」

「きっとおなかすかせてる。ここ撃破したら、港町のメシ食わせてあげたい」

「そうだな、どれも旨そうだった。ガムトゥ、きっと気に入るぞ」

「だよな!」

 むふっ、と月華が鼻をならした。

 基地内のある一室に足を踏み入れる。広大なモニターがいくつも宙に浮かんでいた。そのモニターには基地内の様子が映し出されている。

「……監視室でしょうか」

 セーレがこぼす。

「そのようだ。ここで基地内の異変を察知するんだろう。それにしては妙だな。まるで機能していない。これではただの映像室だ」

 シロガネは監視室の長デスク上に浮かんだキーボードを叩く。

 三途は青白く光る映像ひとつひとつに視線を移し続けていた。映像の中には先ほど壊した魔機の残骸までもが映っている。

(どういうことだ……?)

 首を傾げ、三途は考える。

 仲間である魔機が壊れているというのに、基地内の魔機はまるで行動していない。少なくとも、三途は生きている魔機に会っていない。

 あまりに無防備すぎる。


 映像を吟味していくうち、三途ははっとした。

「……そうか、なるほど」

「どうした三途?」

「あまりに静かすぎる理由がわかった」

「まじかよ」

 三途はそっと映像のひとつに指をさす。その映像に目を移した瞬間、月華がかっと緑眼を見開いた。


「ガムトゥ!!」

 月華の猟犬ガムトゥが、無数の魔機相手に牙をむいている映像が、そこにあった。

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