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魔機ごろしの三途 ~王国最強の力は少女のために  作者: 八島えく
八章、辺境都市と空中基地
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48話:鷹の手助け

 小型と大型の魔機は数と連携で三途を攻撃する。

 三途はどうにか敵のレーザーや滑空をすり抜けることができていた。

 だが小脇にマデュラを抱えた状態では、おちおち身軽に跳ね回ることができない。

 刀を一振りしかにぎれないのも枷だった。

(せめて月華が……神流がいてくれたら……!)

 

 三途は自分の中の負けん気を掘り起こす。ふと笑いがこみ上げてきた。今ならなんでもできそうだ。

 小型は高い位置から安全にレーザーを三途に照射する。三途はどうにか床を転がってやり過ごす。

 体勢が整っていない間にも、無数のレーザーはこちらへ向かってくる。

 それを刀ではじき返した。


「く」

 番人による力が働いたおかげで、刀はレーザーであっても受け止めることはできるらしい。刀身とかち合ったレーザーが鋭く曲がった。

「…………そうか」

 刀がレーザーから自分を守ってくれたことが、三途へヒントを分け与えた。

 三途は壁に背を預けながら立ち上がる。抱えたマデュラの体温が、今だけちょっとうれしい。

 

 大型魔機が三途に向けて急降下してきた。三途はそれを大きく飛んで回避する。ひゅうっ、と魔機が再び天井へ逃げていった。

 三途の攻撃は相変わらず当たらない。だがそれが三途のねらいだ。

 思った通り、小型魔機が一斉に三途へと照準を合わせていた。

 三途が瞬きした直後にはもう、レーザーがこちらを射抜かんと迫っていた。

 三途はそれを横へそれつつ、刀でもって受け止める。

 

 刀を受けたレーザーは跳ね返され、別の方向へと照準がずれた。

 その先が大型の魔機だった。

 大型魔機は三途への第二撃を与えようとエンジンを吹かしている最中だった。

 しかしその動力部分に、小型魔機のレーザーが突き刺さっていた。

 大型は動力源を失い、制御不能となった。真っ逆様に落ちていきく。

 三途が手を下す間でもなく、大型は落下の衝撃と動力部分から漏れていた液体が混ざり合った影響で、小さく爆破して果てた。


「……よし」

 三途はふっと息を吐く。部屋で一番やっかいな敵は片づけた。まだ油断はできないが、これで少しはこちら側が有利になっている。

 あとは無数の小型魔機だけ。これらもそれはそれで面倒な相手だった。

 小型魔機は宙に浮いて三途から距離を大きくあけている。三途の刀が届く場所にはいない。決してその場を動かない。

  

 足場さえあれば天井付近まで無理矢理飛んでいくことくらいは、三途であれば可能だった。

 だが今はマデュラを抱えている。この状態ではどうしても身軽さに枷がかかってしまう。

 マデュラを床に寝かせて自分だけ戦うこともできた。が、そうすると小型はマデュラに照準を変更するだろう。それだけはなんとしても阻止しなければならない。


 レーザーを刀で反射させて小型を落とそうと考えた。それを試してみたが、うまくはいかない。

 小型もそれなりに学習したようだ。迂闊にレーザーを当てると三途が跳ね返すということをすでに認識した。さっきからレーザー照射しないのはその証拠。警戒に弾丸をこれでもかと乱発してくる。


 どうしたもんか。と三途はマデュラを抱え直して思考を巡らせた。

 どうにか、刀の届く距離まで近づくことができればいいんだ。それができれば、あとは数分で片を付けることができる。

 それができるにはどうしたらいい。敵の弾丸から逃げながら、三途は必死に活路を探す。


「お困りのようだ」

「え?」

 小脇から、低い声が聞こえた。

 ふっ! と脇に鋭い風が巻き起こった。三途の腕の重みが急に軽くなる。

「あれ、え!?」

 抱えていたマデュラが消えている。どこだ、とあちこちに視線をめぐらせた。

 一瞬あわてた三途だったが、天井の騒音によって冷静さを取り戻した。


 天井にはりついていた小型魔機が次々と墜落して炎上する。レーザーをこちらに向けていた魔機たちが、なんの前触れもなく現れた突風をもろに食らう。

 それを防ぎきる暇すらなく。魔機はすべて砕け落ちた。

 部屋にひゅんひゅんと走る風を生み出していたのは、紛れもなくマデュラだった。

 大鷹は自由になった空中を優雅に舞い、三途の肩に戻ってくる。

「これで少しは大人しくなったろう」

「マデュラ……! 動いて大丈夫なのか」

「問題ない。目覚めたてで思うように翼を動かせんな。しばし君の戦いに援護する形でウォームアップをさせてもらいたい」

「ああ、こちらから頼みたいくらいだった」

「任されよ。この老いた鷹でも、弾丸ほどには役に立とう」

「頼もしい限りだ」

 三途は部屋を出た。


 心配なのは、マデュラを探しに行ってもらっていた月華と神流だ。

 マデュラは三途が見つけて合流している。あのふたりは今どこにいるんだろう?

 マデュラの救出が達成された今、残った任務は空中基地の魔機全てを破壊することだ。

 三途のたどってきた道には、司令塔とおぼしき魔機はいなかった。

 だとすれば、月華と神流が司令塔にはち合わせている可能性も高い。

 

(月華も神流も強いけど……魔機も結構な手練れだ、早く合流しないと)

 三途は行く手を阻む魔機を蹴散らしながら、ふたりの居場所を探っていく。

 入り組んだ基地内を虱潰しに探すのは時間がかかる。

 この部屋にいるのか、と開いてみたら、警備していた魔機とはち合わせてやむなく戦闘。破壊したら次の部屋を開いて再び魔機とかち合って戦闘。この繰り返しである。

「三途」

「どうしたマデュラ」

「月華様の気配が近い」

「! どのあたりだ?」

「この道をまっすぐ進んでひとつめの角を右に曲がれ」

 了解、と三途は言われた通りの道をたどる。

「右手側の部屋に赤いラインの入った扉があろう。そう、それだ。その部屋に入れ」

「ここか!」

 押しても引いても開かなかった扉は、三途が双刀で切り倒した。

 中は暗く、部屋全体に張り巡らされた赤く発光した回路が明かりの代わりになった。

「ここにいるのか」

「いや、ここではない。足下の線に沿って進むのだ。壁に突き当たった場所に隠し通路がある」

「通路……? あ、これか」

 マデュラに言われたとおりに赤い線をたどって行く。壁だと思っていた場所から、わずかに風が吹き抜けていた。


「壊せるのか、この壁」

「壊さずとも良い。軽く押せ」

「押す? これ……? あ」

 訝りながらも律儀に言われたことをこなしていく。三途は壁の適当な場所を右手で押すと、重い感触が伝わった。それはずっしりとゆっくりと前へわずかにすすみ、何かにつっかえて瞬時に止まる。


 すると、目の前の壁ががちがちと穴をあけていく。ぴったりと合わさったパズルピースを剥がして行くように変形していった。

 白い煙が三途の足首を撫でていく。どうやら、マデュラの読みは当たりだった。

「よくわかったな、ここだって」

「気配をたどったらここだっただけの話よ。獣人は鼻がきく」

「今回はその鼻に助けられた。これですぐに月華も神流も助けにいける。

 この先にいるんだな」

「いる。ただし警戒しろ。この先に空中基地を統率する魔機がいる」

「つまりボスか」

「そうだ。そのボスを倒せば基地内の魔機は全て機能停止する。

 ゆめゆめ油断はなされるな」

「ご忠告、傷み入る」

 三途は双刀の柄に手を添えながら、暗い抜け道をそろそろと歩んでいく。


 暗い道で足音は反響していた。どれだけ足音に気を配っても、音は鳴り響いて遠くへ消える。

 しばらく歩いていると、だんだんと光が見えてきた。

「そういえばマデュラ、あのカプセルん中に閉じこめられてたけど。あれはなんだったんだ」

「動力源の一つとして利用されていたらしい。私の生命力が予備電源や緊急時の動力になっていたようだ」

「おいおい……! つまり命を吸い取られたってことだろう、動いて大丈夫なのか! いますぐにでも街へ戻って休んだ方が……!」

「心配ない。獣人の生命力は人間よりも遙かに強い。あの程度では衰弱したうちにも入らぬよ。ただ、まあ、翼を広げることができなかったゆえ、多少鈍ってはいるがな」

 三途の心配もよそに、マデュラはしれっと答える。その言葉に誇張はないようで、翼を開くのに少しぎこちなさがあった。

 とはいえ、脚がおぼつかないことはなく、しっかりと三途の肩に乗っている。それでいて鋭い爪が食い込むことのないよう、力加減はできている。


「心配なさるな。この基地で鬱憤をはらせば、元の状態に戻れるだろう。本調子ではないにしても、小型の魔機の相手程度はつとまる」

「……はは、助かる。この基地でやっかいなのはでかい魔機じゃなくて、それを援護する小型だ。あれに邪魔されると大型へ満足に攻撃できない」

「だろうな」

 マデュラと会話しているうちに、光は大きくなる。

 その光をくぐると、まぶしさに三途の目が一瞬くらんだ。

 だがそれも一瞬で、目が慣れるのも早かった。


 冴えた目は、閉鎖的で広々とした空間を映していた。

 その部屋の広さは、三途がマデュラを見つけた部屋の比ではない。

 辺境都市や街どころか、獣の森すらすっぽりと覆ってしまえるほどだ。

 部屋の中央に、巨大なカプセルが立つ。仰々しい支えや装置がこれでもかとほどこされ、四方八方に灰色の太い管が広がる。管はカプセルのところどころに刺さり、どくどくと脈打っていた。

 カプセルの中には、人間の男を模した乳白色の柔らかそうな何かが眠っている。

 ごうごうと鳴る動力音が、三途の腹にまで響いてきた。

「何だ……あれ……」

「私も初めてみた。あれも魔機、なのか……?」

 

 もう少し情報がほしい。三途はいったんカプセルから目を離す。鈍いのかおおらかなのか、この部屋に足を踏み入れても何も言われない。

「三途ー!」

 カプセルのそばにいた人影が、三途に向かって走ってくる。

 焦げ茶のポニーテールを揺らし、うれしそうな表情に満ちた少女が、三途の胴体に遠慮なくタックルしてきた。

「三途ーっ!!」

「ぐふ……っ。ここにいたんだな月華……」

「僕もいるよー」

 のんびりと歩いてご丁寧に手をふってくるのは義弟の神流だった。

「おっ、マデュラ! 三途が見つけてくれたんだな!」

「お待たせいたしました、月華様」

「うむ、大事なさそうで何より」

「今後は援護の形で共に行動いたします。

 ……それよりあれは何ですかな」

「ああ、私もよくは分からないが、新種の魔機だと思って間違いなさそうだ」

「魔機? あれが?」

 三途は首を傾げながら問う。


 魔機といえば、堅い金属装甲に身を包んだ機械生命体だとばかりおもっっていた。今まで三途の戦ってきた魔機は、すくなくともそれだけだった。

 だがあのカプセルに眠る物体は違う。堅い装甲など持っていないし、どちらかと言えば聖人のようなものに近い。

「ここに来るまでのあいだ、私は神流と一緒にデータルームに運良くたどり着いてな。そこにこのなんか白い変なヤツの実験記録とか載ってた」

「データ見れたのか」

「見れたよ。セキュリティは全然かかってなかった。月華ちゃんが適当にボタン押したのに、何にも反応がなかったの」

「ガバガバじゃねえか……安全性とか大丈夫なのか……」

「空中基地だし、誰も手が出せないと思って慢心した結果だな!

 んでな、そのデータにははっきりと、『魔機』だって書いてあった」

「なるほど。今までとは全然違うタイプだよな。何であんなものが」

「作成記録も着いてたぞ。あれは意図的に作られた形らしい。装甲とか金属とか武器とかは内蔵しない、まったく新しいタイプを作りだそうとしていたのは確かだ。突然変異ではない」

「へぇ……。何か目的はありそうだな」

「そこも書いてあったんだけど、読もうとしたら別の魔機に見つかっちって最後まで読めなかったんだ。しかも戦闘の流れ弾でデータ壊れたし。ごめん」

「いやいいよ。むしろそこまで究明できたのはでかい。助かった月華」

「もっと褒めても良いぞ、むふーっっ!!」

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