47話:合流
偵察機を打ち落としたことで、監視をつぶすことができた。
三途は月華を背後に庇いつつ、双刀をすっと鞘から引き抜いた。
「俺が前に出る。月華は援護、神流は好きなようにたたかってくれ」
「まかせろー!」
「いいよ」
頼もしい答えを聞いた三途は、滑走路の地を駆け抜けた。
目の前にいる人型魔機1体。細くて長い両腕の先端は銃口になっており、向けられた先には三途がいる。
軽快な発砲音が空に飛ぶ。弾丸は滑走路にひとつ穴をあけただけだ。
次の一手を魔機が繰り出すよりも早く。三途は懐に飛び込んでいた。
なめらかに鮮やかに、三途の双刀が魔機の腕を切り落とす。蔦をナイフで切るよりも容易に、魔機の腕が落ちた。
「もうひとつ」
魔機の胴体を刃で撫でる。横一線に刀の軌道が描かれた。
軌道を風が追い、ひゅうっ、と甲高い音が響く。
魔機の胴体がばっくりと割れ、中の複雑な回路が露わになった。ばちりばちりと火花を散らしている。
三途はその傷めがけてもう1本の刀をまっすぐ穿つ。
刃の先は、魔機を貫通した。
すぐに引っこ抜いて三途は魔機から跳び離れる。
数秒して、魔機は火花と小さな爆風を巻き上げ、動かなくなった。
「さっすが」
「お褒めの言葉どうも!」
三途の対角線上を維持しつつ、神流は一刀をふるっている。
人型魔機は銃撃によって10歩ほど神流と距離をとる。
神流は魔機の弾丸やレーザーを刀で受け止め流す。
ゆっくりと魔機と距離を詰めていく。
20発も弾をありったけ撃ち成らすと、魔機の銃口がぷすぷすと乾いた音を立てた。
「弾切れかな?」
神流はいたずらっぽく微笑んだ。
魔機の動きが一瞬だけ止まる。そこをすかさず神流が飛び込む。
神流は上段に構えた刀を振り下ろした。刃と魔機の装甲が金属のすり切れる音を奏でた。三途の耳にも届くほどの高い音だった。
魔機は頭から左右に絶たれた。切断面からやはり火花が散り、混じり合って爆風と爆音を生み出す。
一瞬だけ、灰色の風で神流の視界が覆われた。が、風はすぐに止み、神流の姿が三途にもみえるようになった。
三途が軽やかに人型を片づけているのを守るようにして、神流もまた人型を1体1体確実に葬っていた。
お互いの背中を預け合ってとにかく目の前の敵を破壊することだけに集中する。
そんな義兄弟ふたりを援護するように、月華のパチンコが炸裂する。
空を滑空する航空機型魔機を打ち落とし、時には人型魔機の攻撃を県政する。
「月華様のパチンコの腕なめんなよー!」
月華が空の航空機型めがけてパチンコ玉をぐっと引く。
まっすぐに飛ぶ玉は航空機型の翼を貫いた。
「もういっちょ」
すかさず次の玉を引いた。コクピットあたりに命中し、青色ガラスのその部分に白い罅が広がった。
ぐらぐらと不安定な飛行となったそれを、月華がパチンコでたたき落とす。無事だった方の翼とエンジン部分に玉が命中し、当たった部分から黒い煙とわずかな炎を露わにして、魔機は滑走路に落下した。
倉庫を背にしながら、月華は三途と神流の周囲を中心に戦況をじっと見渡していた。
かわいらしい緑眼が鋭くきらめき、獣のように獲物を見定める。
「こっちは、ほいっと」
三途の背後をねらおうとしていた航空機に向けて、月華はパチンコ玉を撃った。浅い命中だった。が、わずかにぐらついたその魔機は、三途に見破られ、三途の剣戟によって斬り伏せられた。
「助かる、月華!」
「ふははは! もっと私を頼るが良い!」
「そうする!」
三途は1体もう1体、と無限にわいてくる魔機に双刀を見舞っていく。
滑走路にやってきた増援は10体ほど。
だがそれらも三途の手によってきれいに破壊された。
魔機が攻撃を仕掛ける前に懐へ飛び込み、双刀でなぎ払う。魔機の四肢はすっぱりと断たれ、灰色の地に落下する。
魔機の頭部は月華がパチンコで打ち抜き、生命活動を完全に停止させる。
攻撃の際に無防備になる三途や月華の背中を守るように、神流が魔機の目の前に立ちはだかり、振り上げられた魔機の鈍器をまっすぐ受け止めた。
力に覚えのある神流はそのまま押し戻し、後ろへとバランスを崩した魔機の胴体に刃を突き立てる。
3人のバランス良い連携により、滑走路での魔機は瞬く間に全て破壊された。
三途は刀をいったん鞘に納める。魔機の骸を踏み越えながら、空中基地の内部を目指す。
滑走路の隅っこに、内部へと続く階段が隠されていた。正方形の切れ目に掴み手のような溝がある。怪力の神流がこじ開けてくれた。
忍び足で歩いているのに、足音はやけに反響した。かつかつと3人ぶんの足音が響いては落ちていく。
そしてサイレンと魔機の動く独特な機動音無数に満ちていた。
「外での騒ぎにはやっぱり気づかれていたようだ」
「うん。でも私たちがここにいることはまだ知られてない」
足音を必死に押し殺しても、反響する足音は消えない。だがその足音は、魔機たちのせわしない音によってかき消してもらえたようだった。
三途は曲がり角の陰からこっそりと様子をうかがう。けたたましいサイレント赤いランプがあちこちで暴れ回っている。
四肢の巨大な人型魔機が何体も規則的な足取りで、ゆっくりと広い通路を歩いていた。機動音こそけたたましいが、魔機の行動は冷静である。
「魔機を破壊するのはもちろんだが……まずはマデュラの救出が先だな」
三途のつぶやきに、うむ、と月華がうなずいた。
「俺がおとりになって魔機を引きつける。その隙に月華と神流はマデュラを探してくれ」
「まかせろ。すぐに見つけだしてみせるからな」
「頼もしい。神流、月華を頼んだぞ」
「言われなくとも」
神流がにっこりと、手を振ってくれる。
さて、と三途は陰から身を乗り出す。
見回りをしていた魔機10体ほどが、一気に三途へと視線を集中した。ご丁寧に、赤いライトもすべて三途に注がれている。月華と神流はその陰かに隠れて存在を認識されずにすんだ。
三途はすらりと双刀を引き抜く。にぃっと口端をつり上げて、そのまま一気に魔機へと駆け抜けた。
整列している魔機の間を縫うように、すれ違いざまに剣戟を滑らせていく。手応えが手に伝う。
魔機の胴体や四肢、頭部、側面。刃の痕は無造作に無差別に、魔機の機体のどこかをなぎ払っていた。それだけでは致命傷にならない。
だが魔機の集中は完全に三途へ注がれている。それがねらいだ。
自分が暴れれば暴れるほど、マデュラを探し出す時間を稼ぐことができるのだから。
三途は魔機を縫いきって足を止めきびすを返す。
がら空きになった魔機の背後に飛び込み、双刀を振り回した。
金属の擦れる不快音と共に、火花が魔機からまき散らされた。
機動停止した魔機は障害物となってほかの魔機の動きの邪魔をする。
三途にとっては、便利な足場ができて幸運なほどだった。
このチャンスを逃さず、三途はかけ続ける。
魔機の死体を踏み台に、高く飛び上がる。
「せいっ!!」
魔機1機の頭上に舞いあがった三途は、回転しながら魔機へと無数の刃を見舞った。
連続の斬撃が魔機の頭部をかち割り、再び三途にとっての足場が生まれる。
積み上げられた魔機の骸を飛び越え、三途は自由に動き回っている。
その動きや危険性から、魔機にとっては最優先で排除すべき対象へと認定される。
三途の足下と腰を埋めるように、魔機の残骸が散らばっている。
(このあたりの魔機は、あらかた壊したな)
三途は刀を構えたまま、広がる通路を軽やかにたどっていく。
十字路のような内部構造をしている基地内にいくつかの大部屋とおぼしき部屋が存在する。
手当たり次第三途はそこを調べるが、マデュラはそのどこにもいなかった。
ここも手応えなしか、と三途が最後の扉を開いた。すると大部屋よりもさらに広い一室に迎え入れられた。
どうやら魔機はまだきていないらしく無人の部屋だ。
無数のモニターが壁全体を支配しており、中央には円柱型のカプセルが管に刺されて浮かんでいる。
青白く発光していて目にまぶしい。
「……マデュラ!!」
目が慣れたところでカプセルの中身を視認した三途は、思わず叫んだ。
鷹の姿のマデュラが、カプセルの中で液体に浸されていた。
「マデュラ、ここにいたのか……!! 待ってろ、今出してやる!」
カプセルに刃を突き立てると、ぴきぴきと罅が広がっていく。
何度も双刀でカプセルの表面を突き続けていくうちに、罅からどろどろと液体が流れ出す。
部屋全体に、警告音が鳴り響いた。
『動力源制御室に異変発生。速やかに問題を解決せよ』
機械的なアナウンスがブザーと共にやってくる。
三途は再び刃を強く突き立てた。そのまま刀を下へと下ろし、無理矢理カプセルを砕く。部屋に満ちるブザーがけたたましくて仕方がない。
「よし!」
ガラスに大きな穴をぶちあけた三途は、穴からマデュラを引きずり出す。
液体に浸されたマデュラはぐったりと気を失っているが、少なくとも死んではいない。三途はほっとした。
だがそれもつかの間のことだった。
扉は全てロックされ、壁のモニターは画面ロックがかけられている。
「うおっ」
天井から魔機が数体落下してきた。
人型ではなく三角形を模した飛行機型をしている。ジェットエンジンがオレンジ色に燃えていた。
三途はマデュラを抱えながら構え直す。飛行機型の魔機に続くように、天井からべりべりと剥がれるように、小型飛行機の形を為した魔機が続いている。
「くっそ」
三途は舌打ちするが戦意は失わない。
大型魔機は宙を自由に飛び交い、三途を翻弄していく。
体躯を用いた滑空を数度繰り返し、三途と刃を交わすその瞬間に、小型ミサイルを撃ってくる。
三途はマデュラを庇いつつやり過ごす。あいている片手ですれ違いざまに刀を振るおうとしたが、魔機に命中することがなかった。
小型はホバリングして安全な場所からレーザーを放ってくる。
すんでのところで三途は回避したが、小型の攻撃が止んだかと思うと大型がすかさず飛び込んでくる。おまけといわんばかりのミサイルを跳ね返しはできたが、反撃ができない。




