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魔機ごろしの三途 ~王国最強の力は少女のために  作者: 八島えく
八章、辺境都市と空中基地
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46話:避難ついでの作戦会議

 辺境都市近辺の森で、三途は月華に着いていた。

 食べられそうな木の実をいくつか失敬した。獣を1頭は狩ろうかと月華に提案したが、月華は首を横に振る。この森には獣が極端に少ない。木の実も最低限の採取だけにとどめるよう彼女が言っていたのはこのためだ。


「獣が全くいないわけじゃないんだろ?」

「うん……。ただ、数が少なすぎる。乱獲されたのかな、ここ……」

 三途も獣の気配は感じ取っていた。ごくわずかではあるが、しっかりとした呼吸が聞こえる。だが、不思議と殺気も敵意もなかった。

 その疑問はすぐに見つかった。

「あれは」

 三途の目の先に、魔機の残骸が捨て置かれていたのだ。

 おそるおそる近づいてみたが、再起動することはなかった。機能は完全に停止している。

 そっと装甲を指でなぞる。番人システムも、これはすでに骸だと告げていた。

 その装甲には牙や爪で抉られた跡がある。獣たちの抵抗だろうか。

 番人ではない獣たちだが、森の仲間すべてを動員してこの1機を葬ったのだ。


「三途……!」

「大丈夫だ月華。止まってる」

「こいつが森を荒らしていたのか」

「かもな」

「獣たちが森を守ろうとした証だな。魔機を破壊したはしたけど、獣側の犠牲も甚大だっただろうな」

「それで獣たちが少なかったわけだ。魔機のやろう、絶対ゆるさん。全部産廃にしてやる」

「気持ちはわかる」

「空中基地の魔機は私が全部ぶっこわしてやる」

「手伝うよ。あまり無理はするなよ」

「しない!」

「いい返事だ」

 三途は月華の頭をぽんぽんと撫で、帰ろう、と促した。


 隠れ家にしていた小屋では神流が静かに訓練をしており、その傍らでガンドが白湯を飲んでいた。

 家の前にはオルムが翼を休めており、小さくうなずいたのを伺うあたり、どうやら作戦は成功したらしい。

「あ、お帰りなさい、三途さん」

「ただいま、ガンド。……悪い、俺たちの事情に巻き込んで」

「いえ、助けていただいてお礼と思っていただければ。それに病気の原因もわかりましたし、飛竜にも乗れましたし、貴重な経験が得られたと思います」

「すまんな……。

 あれ、病気の原因ていうのは?」

「同郷の人たちに話をうかがったところ、辺境都市は空中基地の魔機に脅迫されていたようです」

 木の実を置き、三途はガンドの話を聞くことにした。



「どうやら、空中基地の魔機は辺境都市に特殊なエネルギーを散布したようです。そのエネルギーというのが僕の原因不明の病気につながっているようで。

 その病気というのが、進行すると罹患した患者が砂になって死んでしまうらしいんです」

「砂……?」

「はい。体がまず堅くなって、石化して、ぱらぱらと細かい砂粒になって散っていくとか」

「そんな病気があるのか……!?」

「みたいです。僕もにわかには信じられませんが、彼らの中には実際に砂になって死んだ知り合いをみた人もいるそうです」

「ただの脅しじゃなかったわけだ」

「はい。それでその病気というのは、自然に進行するものではなく、辺境都市を監視している魔機の裁量によって進行度を変えられてしまうということでした。

 なので、魔機の任意によって住人は自分が死ぬかもしれない、とおびえているとか。僕は病気になりはしましたが、幸い辺境都市を離れていたので、病気の進行や魔機のランダムの人選からははずれていて、軽度の症状ですんでいるみたいですが」

「魔機の気まぐれひとつで、今死ぬかもしれないし、隣の人が死ぬかもしれないってことか」

「彼らはそういってました」

「その病気を治すための方法はないか?」

「すみません、そこまでは聞き出せませんでした……。ただ、魔機が散布したエネルギーというのは、空中基地にいる魔機の生命とつながっているらしいです。なので、空中基地の魔機を破壊すれば自然と治るのではないかと……」

「……! なるほどな。つまり、やることは変わらないわけだ」

「予定通り魔機をぶっこわして空中基地も粉々にすればいいんだな!」

 木の実をばりぼり食べながら月華が口を挟んできた。

「月華おまえ……貴重な木の実を……」

「一個だけだもん!」

「わかったわかった……。じゃあ、やるか」

 双刀でとん、と床をたたく。不敵に笑った月華と神流が、無言でうなずいた。

「俺たちはこれから空中基地の魔機破壊を開始する。……といいたいとこだけど、問題は空中基地までの足だな」

「ならば私が連れて行こうか」

 外のオルムが声をかけてくれた。

「いや、3人一緒には乗せられないだろ」

「まあな。だがほかに手はないぞ」

「うーん……」

 三途は頭をかかえた。ガンドの飛行機を頼りにできない上に時間が惜しい以上、希望的な手段は飛竜オルムだけなのだ。

「……背に腹は代えられない。オルムにひとりずつ運んでもらおう。頼めるか」

「おやすいご用だ」

「決まりだな。じゃあ三途! 私と神流と合流するまで、ぜったいにひとりで突っ走るんじゃないぞい!」

「……」

「三途兄さん、返事は?」

「…………はい」

 よろしい、と神流はにっこり笑った。



 *


 その後、ガンドを都市の近くの道まで送っていった。ガンドは辺境都市の住人には、獣の森たちの様子を見に行くと言ってごまかしていたらしい。

 都市に無事送り届けた三途は、森の前で待機していたオルムと合流する。

 双刀を背に抱え、オルムの背中に乗った。

「先に行くからな」

「おうともさ! 私を待っているが良い!」

 月華にそろりと手を振り、三途はオルムにしがみつく。

「では」

 オルムが翼をはためかせ、上空へと突き進んでいく。


 空からの圧を頭上から感じていた三途は、ぎゅっと目をつぶっていた。心なしか上昇速度が緩くなった気がする。

「もうすぐだぞ」

 オルムの声が三途を励ます。何とか歯を食いしばって、空を高く飛ぶ感覚に耐えた。


 雲を突き抜け冷気が頭上から容赦なく降ってくる。

 その強さも最高潮に達したあたりだろうか、上昇速度は徐々にゆるみ、最終的にはオルムが停止した。

「オルム……?」

 おそるおそる、三途は伏せていた顔を上げる。ばさっ、と翼がはためいていた。


「着いたぞ」

 その一言だけで、三途はすべてを理解した。

 

 広大な空中基地。

 辺境都市の真上に建った、魔機の根城。

 広く延びた滑走路。黒色に染めあがった全体に白い目印はよく目立つ。


 飛行機型の魔機が多く、ぞろぞろと倉庫へ帰って行く。

 人型に近いタイプの魔機は飛行機を誘導したり見回りを行っていた。


 基地の周囲を富んでいるのは、小型飛行機だった。空色のそれらもおそらく魔機なんだろう。


「……ここが、空中基地」

 三途はぽっとつぶやいた。

「隠れられそうな場所がないな」

「そうだな。見回りにむき出しの滑走路……。こりゃ神流と月華を待ってる余裕もないな」

「遠くから少し様子を見るか? どこかに死角があるかもしれんぞ」

「……。いや。魔機のセンサーにひっかからないぎりぎりの場所まで降りてくれ。あとは俺がおとりになって滑走路の奴らを片づけておく」

「良いのか? 神流にきつく言われていただろう、先走るなと」

 うっ、と三途は飲み込む。

「い、いや忘れてはいないけどさ! こうしてのんびりしててもらちがあかないし、どうせ見つかるんだから不可抗力だし……。

 ええいもう! 神流に怒られるのは覚悟の上だ! 深追いはしない! それで怒りをおさめてもらう!」

「君はどれだけ義弟が怖いのだ」

「この世で一番」

「怖いな」

 ふう、とオルムは息を吐き、三途の頼みに従ってくれた。

 

 基地周囲を富んでいる偵察機のセンサーをかいくぐり、航空機や人型の目を盗める場所といえば滑走路くらいしかなかった。

 オルムはそろそろと高度を少しずつ下げる。白色の図体は、黒い滑走路によく目立つ。が、空の雲にはよくとけ込んだおかげでか、最後まで魔機には見つからずにすんだ。


 オルムの背から軽やかに飛び降り、三途は滑走路の端に着地する。オルムにそっと手を振り、頼む、と伝えた。

 オルムはすぐに身を翻し、雲の中へ消えていく。


 隠れる場所も何もない。さて、と三途は体をちぢめて滑走路から倉庫へと距離を縮めていく。

(月華と神流がくるまで深追いはしない。深追いしない……しないしない)

 自分に強く言い聞かせる。背に負うた双刀を手に、倉庫の影に身を潜めた。


   *


 程なくして月華が空中基地にたどり着き、追うように神流とも無事合流を果たした。

「お待たせ三途。僕の言いつけはちゃんと守ってくれていたみたいだね」

「ああ、うん……。正直、偵察機や見張りにバレて戦闘やむなしかと思った」

「ま、バレずにすんで良かったな。まず手始めに……うっとうしい偵察機から壊すか?」

 月華は上着の内ポケットから使い込まれたパチンコを取り出した。

「……それで破壊できるのか?」

「できるぞ! 月華様は弓だけじゃなくパチンコも得意なのだ! それにあれくらいの小ささなら、急所に当てれば打ち落とせる。……ところであの偵察機って弱点どこ?」

「意味ねえ……。せっかくの特技が意味なくなってるよ月華! 弱点は赤く光ってるコアだ。あれが動力源になってて、破壊すると止まる。番人がそういってる」

「良いシステムだな。私の特技が存分に活かされる。では手始めに!」

 ひゅうっ、と、偵察機がちょうど、三途の背後上空へと回り込んでいた。

 この時点ですでに偵察機に感づかれたが、偵察機に緊急サイレンをならされるよりも早く、月華のパチンコ玉が赤いコアを打ち砕いた。

 ばりん、と軽快な音を立てて破片が空へ飛び散る。続いて遭遇した偵察機も、月華が弱点を射抜いて墜落させた。

「ひゅぅ……。月華ちゃんのパチンコの腕は一流だねえ」

「むふっ、もっとほめたたえても良いぞ!」

「うん、あとでね。今はひとまず」

 神流がすっと立ち上がる。三途も同じように腰を上げた。


 3人を取り囲むように、人型の魔機4体が、眼球部分を青白く煌めかせている。その視線の先に、三途が立っていた。


「こいつらを片づけちゃおうか、三途」

「賛成」

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