表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/91

45話:住人たちこそ敵

「待たせたなぁ、三途!」

「月華!」

「僕もいるよぉ」

「神流!」

 三途はほっと胸をなで下ろした。

 魔機の両断された胴体の中心に、青く輝く宝石にも似たかけらが埋め込まれていた。

 それは煌々とした輝きを未だ失わない。

 それだ、と三途は瞬時に行動した。

 刀を構え直して切っ先を魔機に向ける。

 三途を庇うように前へ踊り出ていた神流が、何も言わずに横へと跳ね避ける。


「そこだっ!!」

 三途の刀が魔機の宝石を貫く。軽快な音を立てて宝石は砕け散った。

 すると宝石からは光が消え、魔機も動きを止めた。

 がしゃがしゃと、力なく四肢を地に伏せた。

 じっと三途は魔機の動向を見守る。刀を向けたまま、警戒した。


 だが数秒しても魔機はぴくりとも動かない。完全に機能は停止したらしかった。

 ようやく三途はどっと息を吐く。いつの間にかいつの間にか早鐘を打っていた鼓動を、深呼吸して落ち着けた。

 ゆっくりと刀を鞘に納め、すっくと立ち上がる。

「よう三途。辺境都市でも人気者のようだな」

 月華がむふっ、と笑顔をこぼす。三途はそんな月華の頭をなでてやった。

「そうだな、俺って人気者みたいだな。そんなつもりねえんだけど」

「わたしの目には、鉢や花瓶を放り投げられていたが、人間というのはそういう敬愛の示し方があるのか」

 オルムがふんふんと感心したようにうなずいていた。

「いや違うからな? あれは敬愛なんかじゃない」

「そうだったか。人間とはかくも興味深いな」

「そうだな。俺もこの都市限定で人間に興味わいたわ」

「三途だって人間じゃん」

「まあな」

「……ていうか、なんなんだあいつら! 三途に寄ってたかって出てけとか! あろうことかモノ投げつけて! この月華様はみていたぞ! わたしの目は3キロ先の蠅も見通せるのだ!」

 思い出したように月華はぷんすかと憤る。むすうっと頬をふくらませ、顔を真っ赤にしながら地団駄を踏む。正直言って、三途にはぜんぜん怖くない。

「それは僕も思った。彼ら、三途に対してずいぶんひどい仕打ちだったね。余所者には冷たいところなのかな?」

「俺にもわからない……。ただ気になることは言ってたな。

 住人たちは、この魔機にたいして腰が低かった。何も言ってない、とか、許してください、とか……魔機に従ってる感じだな」

「魔機に? 人間が? あるのかそんなこと」

 首を傾げる月華に答えを示したのは飛竜オルムだった。

「あろうさ。魔機というのはこの星の脅威だ。人間というのは知恵と多様性に富んだ種族だが、純粋な力量は魔機どころか獣人や飛竜などよりも遙かに低い。生き残るためには、力の強い勢力に従順であるのが賢明な判断というものだよ」

「んむぅ……そういうもんか。けど、それにしたって三途を襲っていいことにはならないだろ? そういう住民性か?」

「いや違うな。あれは何か弱みを握られているだけだ。……ただ、せめて情報がほしい。このままじゃ宿に泊まることすらできねえよ」

「たしかに……。っつーか三途、わたしの目には、ものすごい剣幕でたくさんの住人たちがこっちに駆け寄ってきてるように映ってるんだ」

「奇遇だな月華。俺もだ」

 三途は乾いた笑いをこぼした。


 辺境都市の住人とおぼしきものたち、大人も子供も老人も、男も女もそれ以外も区別なく。

 手には包丁やら棍棒やら鋤やら鍬やら手に握りしめ、憎悪の形相を張り付けて、言葉として成立していない怒号をまき散らしている。


「おまえがああぁ!!」

「なんてことを!」

「おまえたち、ぜんいん、しねええ!!」


 そんな罵声が聞こえてきた。

「……やべえ」

「逃げようか」

「賛成っ」

「お供する」

 三途はきびすを返し、さっさとその場から離れた。


   *


 辺境都市から離れた森林。そこには枯れた木々が鬱蒼としげり、奥深く進むと誰も住んでいない苔蒸した小屋が建っていた。

 三途は月華と神流をつれてひとまずその家に隠れることにした。オルムはさすがに入れないので、小屋の外で見張りをかって出てくれた。


 月華が荷物のなかから携帯食料を差しだし、3人と1匹で仲良く分けて腹を満たす。

 グラス1杯ほどの水を飲み干した月華は、堰を切ったようにぶちまける。

「なんなんだあいつらは!!」

「それ、さっきも聞いた」

「何度でもいうぞ! 何だあれ! 住人たちは魔機におびえてるんじゃないのか! 三途は番人だぞ! それを邪険に扱いやがってゆるさん!!」

「落ち着いて月華ちゃん」

「落ち着いてるとも! もしわたしが冷静じゃなかったなら、あの住人の右目全部に矢を打ち込んでいるところだ!」

「冷静でいてくれてありがとうございます月華様」

 三途は神流と月華の言い合いを、半眼でほほえましく眺めていた。

 被害を受けた三途本人は、不思議と怒りもわいてこない。そういうものだとあきらめているというか、むしろ衝撃的すぎて心の理解が追いついていないのだ。


 オルムの大きなあくびの音が、外から聞こえてきた。その音で月華はひとまず怒りを静めてくれた。

「ったく、恩知らずな連中どもめ。あの場で三途が魔機をしとめていなければ、被害は拡大していたというに」

「それなんだよなあ。あいつら、被害を最小限におさえるために、俺を襲った感じがする」

「なんじゃそりゃ」

「俺の印象でしかないが、住人たちは魔機に脅迫されてるんだと思う。魔機は住人を脅して、自分たちがやりやすいように命令しているんだ」

「命令ねえ。魔機って言葉が通じるのかな」

 神流の問いに、三途はうーんと数秒うなって答えを出した。

「通じる機種もあるらしい。番人システムがそう言ってる」

「便利だねえ」

「ほんとによ。

 んで、さ。魔機も夜穿ノ番人のことはもう理解してるんだと思う。現状、魔機を破壊できる存在だからな。それをおそれて、魔機は住人たちを脅迫で支配したんだ」

「なんのために? どう脅して?」

「魔機は自分たちの身の安全の確保のために。そのために、辺境都市の外からきたものをすべて拒絶し、余計な知識や情報を与えないよう命じた。いくら番人だって、情報がなければ何もできないからな。そして手助けするな、放置しろ、徹底的に追い出せ、と。

 まあ、脅しの材料は俺もわかんねえけど」

 なるほど、と神流はうなずいた。


「じゃあ、なぜ脅されているか、なぜ従っているか、その辺をつきとめることが、住人たちを安心させる一歩になるね」

「おうよ。……だが問題はある。もう俺の顔は割れてる。神流と月華も魔機と戦ってて、ばっちり住人に顔を見られてる。都市に行けば、出ていけと追い出されて終わりだ」

「オルム……は、さすがに図体でかいからな、もっとばっちり見られてるよな」

 すまんな、と外からオルムののんびりした声が聞こえた。

「ねえ、彼らはさ、辺境都市の住人でない者に対して、迫害を行うんだよね?」

「ああ。だから俺とおまえの変装も通じない」

 三途と神流は、舞台の経験から別人になりきるだけの技術と力量を持っている。だが辺境都市の住人は、余所者に等しく冷酷なのだ。

 

 逆に考えれば、余所者でない、辺境都市の人間であれば口を開く可能性はあるのだ。

 その可能性にたどり着いた三途は、ひとつだけ閃いた。

「…………ガンド」

 神流と月華が、同時に三途の顔を見た。

「そうか、ガンド! あの男は確か辺境都市の出身だった!」

 月華は勢いよく立ち上がる。おちつけ、と三途が強引に座らせた。

 ガンドは辺境都市を留守にしているだけで、辺境都市の人間であることに変わりはない。彼を通じて都市の現状を聞き出すことができれば、解決策や住民たちが外の人間を甥だそうとする理由をあかすことができるかもしれない。


「だがあんまり気乗りはしないんだ。ガンドは病弱だし、列車で待ちぼうけを食ってるからな」

「列車で待ちぼうけならば、私の背に乗せて来ようか」

 外のオルムがそう問う。

「とはいっても……。ガンドは病を患っていただろう。足も怪我してる。強引にこちらの都合で引っ張り出すわけには」

「なあに、心配はいらない。飛竜というのは乗り手の健康状態と目的を鑑みて最適な飛行をする。ガンドとやらは足を負傷しており、病といったな? なれば低空で速度をゆるめて飛べば、負担も大幅に減らすことができる」

「オルム……」

「私は飛竜の中でも飛行能力は高い、と一族から評価を受けていてね。私の背に乗った経験者からもそう話してもらえている。私を信頼してもらえれば、君たちにとってもガンドにとっても実りのある成果を出すと約束しよう」

 オルムが優しい声で三途に語りかける。

 三途はオルムに搭乗したばかりだから、オルムの話の信憑性も高いとわかっている。だが万が一のことに考えを移すと、どうしても心配が上回る。

「ちょっと待っててくれ。……うーん」

 三途は隅っこに座り込んで視線を下に落とす。

 番人システム、と心の中でつぶやき、脳内であらゆる策をシミュレートする。

 三途の頭が比較的脳筋なのもあってか、ガンドをオルムにつれてきてもらう以外に選択肢が見つからなかった。


 三途は家屋から出て、オルムに相対する。

「わかった。オルムを信頼する」

「……ありがたいことだ。引き受けよう」

 オルムはふっと息を吐き、穏やかに応えてくれた。

「ガンドに事情を話して、安全に乗せてきてくれ。都市の前でガンドをおろして、彼に住人たちから事情を聞き出すよう伝えてほしい」

「それが良いな。私も顔が割れている。私の姿が見えない程度の場所におろすとしよう」

「うん。そんで、事情を聞いたガンドと合流して、こちらの家屋につれてきてくれ。ばれないように」

「難しいな。だが、不可能ではない」

「無理難題ばっかりでごめん……」

「なに、気にすることはない。任されよ、番人。さっきよりは時間がかかるが、列車が動き出すよりは早くガンドをつれてこよう」

「頼む。……道中気をつけてな」

「うむ」

 ばさっ、とオルムは翼を広げ、高く飛び上がる。

 空に吸い込まれるように小さくなってゆくオルムが、ひゅっとまっすぐ駆け抜けていった。


 三途は家屋に戻り、腰を落とした。

「さて。俺たちはオルムとガンドが来るまでどうするか。武器の手入れでもするか?」

「そだなー。ついでにこのあたりに住んでる獣たちに話を聞いておきたい」

「できるのか」

「できるのだ。この月華様は獣の王だからな、むふーっ!!」

「すげえ」

「もっと褒めても良いぞ!」

「さすが」

「むふふーっ! 月華様は有頂天! 早速話を聞いてくる!」

「俺も行くよ。森の現状も見て置かなきゃ」

「じゃあ僕は荷物番してるね。ついでに木の実とかあったらとってきて」

「わかった。気をつけてな、神流」

「お互いにね、三途。月華ちゃんも」

 三途は月華を連れ、神流といったん離散した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ