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39話:操縦士のゆくえ

 辺境都市。マデュラの監禁場所はその都市の上空はるか先である。

 そこに行くにはまず空を飛ぶ手段がなければならない。


 月華は、航空機と腕利きの操縦士の話をしてくれた。その操縦士は、辺境都市にいるということだった。

「その操縦士と交渉して、空までの足になってもらう」

「なるほどな。単純だがそれが一番の近道だ」

「空を飛ぶなんて、何年ぶりだろうねえ」

 三途、月華、神流。思い思いの言葉を述べていた。

「とはいってもだ。いきなり部外者が辺境都市にやってきて、航空機で魔機の空中基地までつれてってくれなんていったところで、操縦士がうなずくとは限らない」

「だよな」

「だからやるべきは、操縦士にとって航空機を操縦するに値する報酬を用意することだ」

「報酬?」

「そ。ま、物理的な金銭でもいいんだけど。っていうかもちろんそれは破格の金持ってくつもりだけど。それともうひとつ決定打が欲しい。……ここは私もこれから調べにゃならん」

 月華はうーん、と腕組みした。

「操縦士自身についての詳しい情報はないのか」

「ないんだなー。私が得たのは、辺境都市に住んでることと、腕利きの航空機乗りだってことだけなのだ」

「いや、そんだけ集めるのも大変だっただろ。月華ありがと」

「むふっ、もっとほめてもいいんだぞ!」

 へえへえ、と三途は適当に月華の頭をなでておいた。


「熱心に作戦会議するのもいいけど」

 と、ヒュージが口を挟む。穏やかに微笑む彼の手には、空っぽのグラス3つと果実水だった。

「少しは休憩したら?」

「あ、ありがとう、ヒュージ」

「いえいえ、これはサービスね。

 まったく、基地を破壊して街を元通りにしたと思ったら、今度は新しい基地破壊を考えてるなんて。せめて1日くらい休息したら?」

「気持ちはありがたく受け取っておくが……俺は休むどころか作戦会議をする暇すら惜しいんだ」

「それは大変だ。作戦会議と休息は立派な義務だよ。番人なら、自分の体をまず大事にしなさい。はい」

「……すまん」

 三途は肩を狭めて果実水を飲んだ。

「……ま、ヒュージの言うことももっともだ。今日は働いて体くたくただし」

「俺はぜんぜん働かせてもらえなかったんですけど」

「うわ根に持つタイプだ。復興にいそしむ人たちを癒すという大事な仕事をこなしただろ」

「ぐ……そう言われると反論できねえ」

「はっはっは。口げんかでこの月華様に勝てると思うなよ」

「ちくしょう。神流に次いで口達者なやつが増えた」

「言い負かしでは僕に勝てたことなかったもんねえ、三途義兄さんは」

「ここぞとばかりに義兄さんとかつけんな、義弟」

 ふふっ、と神流が楽しそうに笑う。


「はい、今日の作戦会議はここまで」

 ヒュージがデザートを3皿差し出して話に割ってはいってきた。にこにこと邪気のない微笑だが、有無を言わせぬ雰囲気がある。

「ふおっ、野菜ケーキじゃないか! 材料あったん!?」

 月華が差し出されたケーキに目を釘付けにした。

 サツマイモとカボチャをふんだんに取り入れたタルトケーキだった。

「僕には僕の流通ルートがあるからね。保存のきくものはとっておいたし、今日はちょうど小麦粉が多く仕入れられたからね。余り物の寄せ集めだけど。三途君と神流君もどうぞ」

「いただきますっ!!」

「……作戦会議は?」

「明日!」

「うわあすげえ手のひら返し」

「何とでもいうがよい!」

 タルトケーキに夢中な月華には、もう作戦会議のことも頭から一時的に離れている。三途は諦めて目の前のデザートにありつくことにした。

「うーんうまー! カボチャとサツマイモの素朴な甘さがたまらん……」

「ご満足いただけたようで何より。うちのメニューに加えようと思ってたんだ」

「まじでか。加えてくれ! 毎日注文する!」

「毎日ヒュージの酒場で飯食うのか」

「デザートだけ注文する! めしは森の屋敷で食う! 復興したらな!」

「ああそう……」

 三途はしかたねーな、とため息をつきつつシナモンをふるったバニラアイスにスプーンをさした。

 現在、月華の屋敷は崩れておりまともに人が住めるような状態ではない。街の復興で街こそ元通りだが、獣の森は未だ魔機に荒らされた爪痕が残り続けている。

 月華によると、屋敷の復興はマデュラ、ガムトゥを取り戻してきてからということにしてあるらしい。

「しかしヒュージもさすがだなあ。三途が帰ってくるまでずっとここで手伝ってたけど、食べ物には困らなかったもん。地下からの流通だけじゃここまで用意できなかったんじゃないか」

「まあね。地下ルートも利用してたけど、独自ルートも使うとよりたくさん情報も物品も手に入れられるんだ」

「ちなみに、その独自ルートってどんなかんじ?」

「ごめんね、極秘だから教えられないんだ」

 にっこりと微笑して、ヒュージは拒否した。


 デザートも食べ終え、三途は自室に戻ることにした。風呂は月華に譲り、神流といっしょに風呂が空くのを待つ。

 自室には、セーレとベッドで死んだように眠るシロガネがいた。

「三途様、神流様」

 気づいたセーレが、席からすっと立ち上がる。

「ようセーレ。食事は平気か?」

「はい。問題ありません。シロガネ様がお目覚めになってから、後ほど食べます」

「そか。……シロガネ見ててやるから、セーレだけでも食べてきてもいいぞ? ヒュージは軽食用意してくれてる」

「いえ。お気持ちだけで結構です」

「食べておいで、セーレ」

「!」

 ベッドで未だ眠っていたはずのシロガネが、セーレに優しく話しかけた。

「シロガネ様! お目覚めでしたか」

「あぁ、うん……。つい今しがたね」

「お体の具合はいかがですか」

「体が重い……。指揮しただけでこんなに疲れるとは思わなかった」

 セーレは心配そうにシロガネに寄り添う。三途はそっとシロガネの額に触れてみた。セーレにきっ、とにらまれたが、この際無視した。

「……熱はないな」

「うん。疲労だけだよ。ゆっくり休めば治る。

 ……だからセーレ。君は先に食事をとりなさい」

「しかし、」

「私のことは問題ない。三途君が見てくれているからね。

 セーレ、私に命令させる気かな?」

 弱い声だったが有無をいわさぬ強さもあった。未だ不満が残るも、セーレは承諾した。

「承知しました……。食事と入浴が終わりましたらすぐに戻ります。シロガネ様のお食事も、のちほどお持ちします」

「ありがとう、セーレ。ゆっくりしておいで」

 セーレが寝室から出ていった。


「三途君、もう寝る?」

「あ? まだ少し起きてる。セーレが戻ってくるまでの話し相手にならなってやれるぞ」

「それは頼もしい。私ももう一眠りするまでの間の時間つぶしができそうだ。それはそうと、君のベッドをお借りしてしまったのだが、君はどこで寝るつもりだ?」

「あ? シーツ敷いて床で寝るよ。固いベッドや床での就寝は慣れてるから」

「つくづく頼もしいねえ」

 シロガネが力ない声で笑う。

「……次に行くべき場所は見つかったかな」

「場所? ……ああ、次は空へ」

「空か。とすると空中基地にいくのだな」

「よく知ってるな」

「私は私の情報網があるのでね。というか、君たちの声が聞こえたから」

「酒場の話を全部聞いてたのか?」

「まあね。耳が良いから」

「こっそり内緒話もできねえな」

「違いない」

 くくく……、とシロガネがのどを鳴らす。

「残念ながら、今回私は君たちの助けにはなれない」

「そうか……。そりゃ残念だ」

「私には私のすべきことができてしまってね。君たちに手を貸す時間がなくなった」

 シロガネは目をふせながら、静かに話す。

「とても外せない用事だ。だがまあ、君たちなら私抜きでもすぐに切り抜けられるだろう」

「そりゃどうも。あんたの用事って、物騒なこと? ああ、ごめん。別に詮索するつもりはないんだけど」

「まあね。物騒だよ。でも失敗するつもりもないけどねえ」

「……。死ぬなよ」

「死なないよ。死ぬわけにはいかない理由があるからね。セーレがもどってきたら、ヒュージの空き部屋を借りて休むよういっておいて。私は先に眠るから。じゃ」

 それっきり、シロガネは布団にくるまって眠ってしまった。

 シロガネが規則的な寝息を立てて数分後、セーレも戻ってきた。三途はシロガネに言われたことを告げる。セーレはしぶしぶうなずき、シロガネの言葉に従ってくれていた。

(俺も寝るか)

 三途は薄い毛布にくるまり、自分の腕を枕にして、静かに瞼を閉じた。



 翌日。三途はさっと目を覚ました。夢を見る暇もなかった。

 体がとても軽い。部屋のカーテンを開いて窓も開く。

 まぶしい日差しが入り込んできた。

「うわぁ」

 三途は心地よい風に頬をなでられた。思わず顔がゆるむ。

 窓から街が一望できた。荒んで壊れた街は、すっかり今までの街の形を取り戻している。

(俺が魔機を壊したけど……この街を戻したのは、住人たちだった)

 そう物思いに耽っていると、うしろから「うぅ……」とうなり声が聞こえた。ベッドで優雅に眠るシロガネだ。

「まぶし……しぬ……灰になる……」

「うわっ、ごめんシロガネ! 太陽の光は苦手だったか」

 三途はあわててカーテンをしめた。

「ありがとう。私はどうも日の光ってものがだめらしい」

 シロガネは布団をかぶり、両腕で視界を遮る。

「オアシスまで赴いた時は平気だったじゃんか」

「あのときは日除けしていたし、今ほど苦手じゃなかったんだよ。年月を経て苦手になってしまった」

「そうか……。俺は日の光平気だからあんたの苦しさは理解できねえけど……その、なんだ、あんまり無理はするなよ」

「お言葉に甘えよう。よし、今日は昼まで寝ることにしよう」

「こらこら!?」

「起きたくない……。こんな日差しで始まる一日など私は認めない」

「わがままか!?」

 毛布を引っ張ったり叩いたりしても、シロガネは丸くなって籠城と決め込む。

 たたき起こそうと三途が四苦八苦していると、すでに準備を整えたセーレが助け船に来た。

「三途様、おはようございます」

「あ、ああ……おはようセーレ」

「そこで丸くなっておられるのはシロガネ様ですね」

「そう。起きたくないんだと」

「失礼」

 セーレはつかつかとベッドに近寄り、蓑虫のごとく丸まった物体にそっと手を添えた。

「シロガネ様、ぼくです。おはようのご挨拶に参りました」

「うんおはようセーレ」

 毛布ががばっと開かれた。寝間着と髪の乱れた男が引きこもりを脱する。

「早っ!!? 俺が引っ張ってもイジでもベッドから出ようとしなかったくせに!」

「シロガネ様はこういうお方ですから」

「なんか納得したけど認めたくねえ……」

 三途は頭を抱え、まあいいやと酒場へと降りていった。

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