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魔機ごろしの三途 ~王国最強の力は少女のために  作者: 八島えく
六章:三途、夜穿ノ郷に帰還す
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37話:帰還

 街から帰ってきた三途は、有無を言わずにヒュージの酒場で休息した。そうしなければ街の復興に関わらせてくれないからだ。

 とはいっても、体を動かす方が性に合っている三途にしてみれば、何もせず休めというのは酷だった。

 月華は譲歩し、ヒュージの店の手伝いに限って動くことを許可した。


「ただいまヒュージ!」

「お帰り三途君。街の魔機はすべて止まったみたいだね」

「そうだぞヒュージ! 三途がすべてやってくれた! だからこれから街のみんなに周知したいんだ。ヒュージもてつだってくれ」

「もちろん。僕が街全体に周知させるよ。きみたちは無理をしない程度に、魔機の回収と破棄を頼むよ」

「まかせろー。……ていっても、魔機の回収破棄は力仕事だから、街の人たちの手も借りないとどうにもならんのだよなあ」

 月華はうーんとうなる。三途をのぞいて力仕事ができるのは、現状神流だけだ。セーレの腕は細いし、シロガネに至っては杖よりも重たいものを持ったことがないほどに痩身である。

「俺が! 俺がやるから!」

「三途は今日一日サボりだっての。ヒュージの酒場のお手伝いしてがまんしなさい」

「くっ!」

「大丈夫だよ。ついさっき触をだしたから、街の人たちの手を借りられるよ」

「そうだな。彼らの力を借りるとするかー」

 月華はとかっと酒場カウンターの席につく。


「神流君もおかえり。待ってたよ」

 ヒュージは月華についてきた青年を迎え入れる。

「ただいま戻りました、ヒュージさん。これからは、三途と月華ちゃんと一緒に、街を元通りにしようと思います」

「うんうん。仕事熱心で関心だ。どこかのサボりたがりの幻術師に見習って欲しいくらいだ」

 ちら、とヒュージの視線がシロガネに注がれる。シロガネは丸テーブルでのんびり水を飲んでいた。

「ん? 何かお呼びか、ヒュージ」

「いやいや何も」

「ヒュージはやさしいなあ。正直にはっきり言っていいんだぞ、おめーは働けって」

「月華、口が悪い」

「シロガネには口悪くしていいんだよ」

「それ差別じゃね」

「シロガネに限っては例外」

「それが差別だろ」

 もういいや、と三途は諦めた。

「ま、どちらにせよ街の復興は街の人たちの力が必要不可欠だから、人が集まるまでみんなも休んでいたらいいと思うよ。昼頃には力仕事できそうな人たちも募れるだろうから、今日の午前はみんなここでのんびりしていなさい」

 言ってヒュージは冷水を全員に差し出した。

「そうだなあ……。ガムトゥもマデュラもいない現状、街の復興は住人たちの手がなきゃ何もできんなあ。っつーか私たち腕力にモノいわせるタイプがいなさすぎだよ」

「月華、月華。俺、俺」

「三途は一応力あるけど、どっちかっつーとしなやかな身のこなしでどうにかするタイプだろ?」

「でも魔機一体くらいなら片手で持ち上がるぞ」

 三途の黄金の目が輝いた。

「自分の腕力をアピールしても、三途は今日働かせないからな」

「なんでだ! 番人に死ねっていうのか!」

「むしろ生きろ」

「むりしぬ!」

「わかったわかったわかった」

 子供のようにわめく三途を月華が片手であしらう。

「まあまあ月華ちゃん。じゃあ三途君は、今日のところは僕の酒場の手伝いを頼むよ。月華ちゃんもそれくらいなら良いでしょう?」

「……まあ、ヒュージが良いなら。それくらいなら許してやっか」

「やったあ!」

「子供か」

「子供で良い!」

「女王陛下が今の三途君みたらなんていうんだろうね」

「どん引きすんじゃね。まあ陛下は三途にベタボレだったからねえ」

 女王、という言葉を耳にした三途のテンションが一気に落ち着いた。

「そうだ……、そういえば王都はどうなってんだ?」

「王都はまだ何とか保ってる状態らしいぞ。情報が交錯してるし、情報自体もそんなに多くは入ってこなくて、詳しい事情はまるでわからんがな」

「そうか……。無事だと良いが」

「無事だろ。あの脳筋黒髪野郎がいるんだから」

「月華ちゃん、クロアさんのこと言ってるの?」

「うむ!」

 むふーっ! と月華は胸を張る。

「早く戦力を増強して、王都も助けに行かなきゃな」

 三途はヒュージに招かれ、カウンター側に入れてもらった。軽食を作るヒュージに代わり、店にたむろする仲間たちへ水を注ぐ。

「現時点で魔機と対等に渡り合えるのは、三途のほかには私と神流、それからシロガネとセーレくらいだ。残念なことに、この月華様はお供の獣人ふたりがいて真価を発揮するタイプでな。マデュラとガムトゥがいないと、私の戦闘力は激落ちなのだ。だからまず、このふたりの奪還は優先したい」

「わかった。なら次の魔機を破壊するための作戦も立てよう」

「いいぞ。ま、その前に街の復興だな」

「明日からおれも復興に加わっていいんだよな? いいんだな!?」

「いいからいーから。三途、せりふだけ聞くとすっげえワーカーホリックに見えるぞ」

「番人のシステム上そうなってんだから仕方ねーだろ。まあシステム関係なくても俺は手伝うけどさ」

「だからってここまでホリックしてないだろ、働きものだなあ三途は」

「ほめ言葉として受け取っておく。……く、早く明日になんねーかな」

「大丈夫だよ三途君、街の人たちが外に出たら、きっとここを休憩所がてら休みに来る人も多いだろうから。そのぶん忙しくなるし、復興にいそしむ人たちをねぎらうのも、番人としての立派なお仕事じゃないかな」

「たしかに……。ヒュージ、頭いいな! じゃあ早速!」

「ものは言いよう……」

 月華はあきれてこぼした。


 その後三途はヒュージの酒場に置いてけぼりをくらった。

 月華は神流、シロガネ、セーレを連れ、街の外へ出て機能停止した魔機の収集と撤去にとりかかる。

 ヒュージの一声と月華たちの行動により、街の住人たちもじょじょに集まり始めた。力に自慢のある住人たちは率先して手伝った。

 主に魔機の撤去と破壊された施設や家屋の修繕などを行うこととなった。

 ヒュージの言った通り、酒場は人であふれかえった。住人たちがかわるがわる休憩所と称して軽食をとり談笑する。

 その住人たちが三途の変わらぬ姿を見て、三途が帰ってきたことを外で働いている住人に伝える。その好循環ゆえか、死にかけだった街に活気があっという間に戻ってきた。三途はよりいっそう働いた。


 明日には自分も復興作業に加われると半ばわくわくして仕事に取り組んでいたが、この日の夜には、ほとんど復興は完了していた。


 さて、その日の夜。くたくたに疲労しているシロガネをひきずるセーレと、未だにつやつやと元気いっぱいな笑顔を浮かべる神流と月華が酒場へ戻ってきた。

「お帰り、みんな」

「ただいま三途ー! ヒュージ! 水! レモン水ちょうだい!」

「はいはい。……シロガネは酸素でもあげようか?」

「ぜぇ……ぜぇ……うえ、」

「シロガネ様、無理にしゃべらないでください。ヒュージ様、レモン水で構いませんので」

 シロガネは虫の息でしゃべる気力もない。

「っつーか何で一番シロガネが疲れてんだよ。力仕事はしてないんだろ?」

「してないよ。後ろから的確な指示して効率的に手早く作業を進めてた。魔機には触れさせてないし、路傍に落ちてる小石ひとつも持たせてないよ」

「それで何であんな状態なんだ」

「指示のしすぎで酸欠。あとあいつの体力はな、三途が思っている以上の遙か上をいくくらい貧弱なんだよ」

「まじかよ」

「歩くだけで息を切らす」

「まじかよ!? 俺の生前は砂漠をしれっと歩いてただろ!? 体力落ちたのか!?」

「いえ、もともとシロガネ様に体力はありません」

「体力なさすぎるのも……考え物でね…………。砂漠の時は……増強剤のんでいたし……少し運動でもしようかな……」

「シロガネ様……あまりご無理をなさらずに」

「ありがとうセーレ……」

 さすがにこれは放置できないとふんだ月華は、シロガネを無理矢理勝つ次上げる。

「おら、たて。ヒュージ、部屋一つ借りて良いか? シロガネを休ませる」

「いいよ。運べる?」

「俺が運ぶ! 俺が!」

 三途が勢いよく立候補する。

「じゃあ三途君お願いね」

「まかせろ!」

「人助けのときはよく張り切るよなあ」

「いつものことだ! それに痩身とはいっても、男ひとり担ぐのは力仕事だからな。俺の出番だからな!」

 むふーっ、と三途がシロガネを軽々担ぎ上げた。そのままそろそろと、ひとまず空いている自室へ運ぶ。

 自室へシロガネを寝かせた三途は、再びヒュージの酒場に戻る。

 酒場は客人が入れ替わり立ち替わりして忙しない。だが三途はその忙しさを苦とも思わずヒュージの手伝いをした。

 

 復興に直接関われないのは残念だったが、復興に勤しむ住人たちの疲れを癒すためにめまぐるしく働くのも悪くはなかった。

 住人たちの活気はすでに取り戻されていた。生前に三途がみた元気とにぎやかさが、元に戻っている。

 節度は守りつつも覇気のある声、どんどん舞い込んでくるオーダー、楽しそうな笑顔。誰もが生気に満ちている。


 酒場が落ち着くころには、すでにどっぷり日が暮れていた。現場に立ち会っていた月華とセーレはもうすぐ帰ってくると言うことだった。神流は一足先に酒場に戻って風呂である。


 住人たちは少しずつ帰っていく。最後のひとりを見送って、三途はようやく酒場のカウンターに腰掛けた。

「ふー。たくさん料理運んだ……」

「お疲れ。はい、三途君のぶん」

 そうしてヒュージは水と料理を三途に差し出した。焼きたての肉と野菜からはほこほこと湯気が立ち、思わず三途の腹も盛大に鳴る。

「食べていいのか……?」

「もちろん。がんばったご褒美だよ」

「やった……! いただきます!」

 三途は勢いよく料理にかぶりつき、あっという間に平らげた。


 三途が食事を終えたのと同時に、月華とセーレも酒場へ戻って来た。

「お帰り、月華。セーレも」

「ただいま三途ー!」

「三途様、シロガネ様は」

「シロガネなら俺の部屋に寝かせてあるよ」

「わかりました」

 セーレはまっすぐ2階の部屋へ向かっていった。

 月華が三途の隣に座る。

「復興もすぐに終わりそうだな」

「だろ。私が指揮したおかげだ。むふーっ」

「はいはいえらいえらい」

「これなら明日から街も活動を再開できるな」

「復興に加われなかったのはなんとも複雑だが……街が早く元通りになるのはいいことだ」

「だよなー。さすが三途」

 ヒュージからもらった紅茶を飲みつつ、月華は真剣なまなざしになった。


「さて、三途」

「どうした月華」

「次の魔機のアジトの攻略をしたいと思うんだが」

 三途の表情も、つられて引き締まった。

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