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魔機ごろしの三途 ~王国最強の力は少女のために  作者: 八島えく
六章:三途、夜穿ノ郷に帰還す
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36話:一時休憩

 月華に導かれ、三途は無人の民家をめざしていた。

 その後ろで、先ほどまで攻略していた基地が、絶え間なく爆破と炎上を繰り返している。

「基地が」

 ぽつんと三途がこぼした。

「そうだな。基地燃えてんな。あの基地が街を支配してたようなものだ。これで街はいったん解放された」

「……そうだな」

「でも、魔機の残骸がないとも限らない。民家でいったん休息してから街に帰るぞ」

「わかった」

 三途はそれ以上は黙っていた。


 歩いて少しすると、月華の言っていた民家とやらが現れた。

 民家、というにはあまりに破壊されていた。屋根は半壊、窓もやぶれ、レンガがあちこちに転がっている。傍らには木の棒を突き立てた土の盛り上がりが見つかった。

「ちょっと崩れているが、雨をしのぐにはもってこいだ」

「ちょっとってレベルかこれ……? っつーか屋根半分飛んでるぞこれ」

「そこは風通しがよくて良スポットだぞ」

「うん……確かに風は通るな……」

「さっ、ここへ神流を寝かせるがいい!」

 月華が先んじて民家に入り込み、ぼろぼろの毛布を床に敷いた。三途は抱えていた神流をそこへそっと横たえる。


 月華とセーレが中を軽く掃除し、散らかり放題だった中はいくばくかきれいにととのった。

 月華が上着の内ポケットから地図を広げ、床にぺたんと座る。地図を囲むように、セーレとシロガネも腰を下ろした。


「さて、基地を破壊したわけだけど」

「あの基地が街の自由を奪っていました。街を徘徊する魔機も機能は停止しているはずです」

「これで街は奪還できたわけだ。……ま、しばらくは止まった魔機の回収や処分に追われるだろうね」

 シロガネは苦笑してこぼした。

「街の復興なら俺も手伝うぞ」

「三途は頼もしいなあ。だが今回は君が最大の功労者だ。復興は私とシロガネ主導でやるよ」

「なっ、なんでだ! 俺、別に疲れてないし、大した怪我だって負ってないし!」

 三途はあわてて弁解した。疲労と怪我のないのは事実なのだ。だから自分も復興に協力できると踏んでいたのに、信頼していた月華から梯子をはずされた。

「だーめだって。キミ、今は気分がハイになってて自覚がないかもしれんが、体にはめちゃ疲労がたまってんだぞ。本日と明日はゆっくりと休息をとれ。これは月華様の命令だぞ!」

「うっ……いやだ……皆が街を元通りにしてるときに、俺だけのんびりとかしてたくない……」

「三途様、どんまいです」

「ありがとうセーレ……。できれば休息と復興、代わって欲しいんだけど」

「それはできないご相談です」

「シロガネ、シロガネからセーレに頼んでくれないか」

「無理だね。君は休みなさい三途君」

「この悪魔ー!!」

「人間を人間と呼ぶことが罵倒だと思うかい? 今さら悪魔と呼ばれるなんて」

 はっはっは、とシロガネは低く笑う。

「まあそんな落ち込むなよ、三途。今日はここで休んで、明日は復興にいそしむから。今日と明日ちゃんと休んだら、あさっての復興には参加していーぞ」

「まじか! 寝る!」

「扱い易い番人ですね」

「何とでもいえ! おやすみ!」

 三途は弾む声で何もきかず、神流のとなりに雑魚寝した。

 静かに寝息を立てる義弟の顔を眺めていると強く安堵した。魔機にとらわれ、救出したときは疲労に満ちた表情だったが、ちゃんとした休息をとらせているうちに神流の顔色も赤みがさしてきた。

 

 三途も体が慣れずにいたためか、瞼はすぐに閉じた。月華はセーレとシロガネと何かを話し合っていたが、だんだんと三途の耳からとおく離れていく。体が重く、指先一つ動かすこともおっくうだ。

 深い呼吸を繰り返していくうちに、冷たい固い床に丸くなって、三途は眠りについた。



   *


「……んん」

 はっ、と三途は目を覚ました。頭がすっきりと晴れ、黄金の目もさえている。

 だんだんと、眠る前の記憶を思い出す。確か、月華に休息を強要されたのだ。一刻も早く街に戻って復興に勤しみたかったが、月華が止めたんだった。

 胸元に、もぞもぞと動く大きな物体。よく見ると見慣れた焦げ茶のポニーテールが揺れていた。

「…………月華」

 目が覚めたら自分の胸に顔をうずめる月華がいた。もう驚くこともないくらい見慣れた光景だ。

「まあいいや」

 三途は前髪をかきあげ、月華をそっと引き離す。

 ほぼ全壊という名の半壊した民家で一夜をすごしたわけだが、三途の疲労はすっかり癒えた。そもそも疲労していたという自覚すらなかったが、眠りから覚めた後の体の軽さは尋常ではなかった。症状がないだけで、実際はそうとう疲れていたらしかった。

 三途はまだ眠る月華の頭をそっとなでた。きっとこの少女は、三途の体力の限界を見抜いていたんだろう。

 民家の隅っこでは、すでに起床していたシロガネが、いくつかの小箱を開いたり閉じたりしていた。

 こちらの視線に気づいたシロガネは、ふっと微笑んでちょいちょいと手をふった。

「おはよう三途君。よく眠れたようだね」

「おはよう。あんたは早起きなんだな、シロガネ」

「まーね。セーレも起こすつもりだったんだけど、あんまりに気持ちよさそうだったから寝かせている」

「……ああ、ほんとだ」

 月華や神流に混じって、セーレも身を丸めて未だ眠りについていた。


「で、あんたは何してんだ?」

「ああこれ? 仕事道具の手入れだよ」

「仕事道具?」

「そう。私はあらゆる薬草を調合して粉末状態にしたものを駆使して戦うタイプでね。前線で剣をふるうよりは、剣をふるうものを支援する役割がある」

 シロガネは説明しながらも慣れた手つきで小箱の中の粉末に指先をつっこんでいる。

 三途は額を指で押さえ、生前の記憶をたぐり寄せる。

「ああ……そういえばあんた、オアシスの時にそんなことやってたな」

「思い出してもらえて何よりだよ。君が戻ってきてくれて本当に助かった」

「……そりゃどうも。別に、俺にとっては当然のことだ。それより、18年も待たせて……いや3年だっけ? どちらも長いことに変わりはないか。とにかく今後は、街と王国のために動くよ」

「ふ……頼もしい。セーレも報われたというものだ」

 シロガネにふっと微笑が漏れる。

 三途が地球で生活していた間、彼を守っていたのはセーレだったのだ。しかも3年ではなく、18年という長い年月を実際に受け続けながら、何も知らない非力であった三途を見守り続けていた。

「セーレが18年かけて俺を守ってくれたからな。その気持ちに報いるためにも、行動で示していかなきゃ」

「その調子だ。……私としては、セーレも無事にこちらへ帰してくれて三途君には感謝しているよ」

「そりゃ、セーレもこの星の住人だろ? 助けるのは当然だ」

 地球の人間の犠牲者を多大に出した罪悪感は、三途に重みをのこしてはいる。が、シロガネはそこには触れなかった。

「いや、ありがとう。地球に魔機が多数襲来したと聞いたときはさすがに肝が冷えた。必要とあらば、きみと月華嬢を見捨ててでもセーレだけは取り戻すつもりでいた」

「はは……守れておいてよかった」

 三途の額に冷や汗が流れる。楽しそうに笑うシロガネの目は本気だった。

「……おっと、月華嬢もお目覚めかな。私も手入れは終わったところだし、ちょっと外の空気吸ってくる」

 シロガネは小箱を部屋の隅に並べ、上着のポケットに手を突っ込みさっさと外へ出た。


「おはよぉーう、三途……」

 月華は寝癖まみれのポニーテールを揺らしながら三途に近寄ってきた。ずるずると華奢な足を引きずり、しまいには座り込んでいる三途になだれこんできた。

「うおっと!」

「ごめーん……まだねむいんだ……」

「しかたねーな。髪も少しぼさぼさだぞ。いったんほどいて結い直しな」

「うい……」

 月下はといた髪留めとポケットから取り出した小さな櫛を三途に手渡した。結ってということだろう。

「わかったわかった。ほら、すわんな」

「おー」

 月華はおとなしく髪をとかれるのに甘んじていた。うーん……と気持ちよさそうに頭を少しだけ揺らす。

(ガムトゥみてえな反応するな……)

 月華の飼い犬であり獣人の少女を、三途はふと思い出した。

 

「ふあぁ……」

 ふと、後方から間延びした声。

 三途はそちらに振り向いた。義弟の神流が、瞼をこすりながらこちらへ近寄る。

「おはよう神流。体の調子はどうだ?」

「すっごく調子がいいよ、三途。……僕、基地から出てこれたんだね」

「そうだよ。月華たちのおかげだ。まだ自由に身動きはとれんが、基地にいたよりは遙かに体を伸ばせるぞ」

「やったぁ」

 神流は歓喜の声を上げる。月華の髪を結い終えた三途に、遠慮なくだきついた。

「うおいっ」

「ありがとう、三途。僕をあの場所から助け出してくれた」

「そんなの、義兄弟として当然だろう。それに俺は番人だ。神流を助けるのは義務でもある。だから離れてくれん?」

「もうちょっと三途充したいからやだー」

「変な造語を使うな!」

「ずるいぞ神流、私も三途充するー!」

「おめーも抱きついてくんな! 重いわ!」

「うーん三途だー。3年もたつのに変わんないね」

「まあな……。番人だし」

「3年か。長いような短かったような。ともあれ、お帰り三途。これからは僕らがきみと一緒に戦うよ」

「……ありがとう」

 ほどなくして、一服していたシロガネが戻ってきた。携帯灰皿にあふれんばかりの吸い殻が押し込められていた。


 三途たちはそのまま街へ戻ってきた。改めて街を回ってみると、巡回していた魔機たちはすべて止まっていた。ためしにがんがん叩いてみても何の反応もない。やはり基地の魔機を破壊したことで、街にはびこる魔機へ流すエネルギーがすべて断たれたためだろう。

「魔機はすべて止まってんな」

「そのようですね。ただ、街の方々はまだ外へ出ておりません。情報の周知が必要でしょう」

「セーレの言う通りだ。ヒュージの手を借りて、魔機の占領から解放されたことを伝えよう。ついでに街の復旧作業の人員も募らなければ」

「全面的に同意だが……シロガネ、おまえ作業さぼるんじゃねーぞ」

「おやどうしてバレてしまったのかな月華嬢」

「おめーの魂胆なんてこの月華様にはお見通しなのっ!」

「まあまあ月華。シロガネは力仕事向きじゃないし、監督作業してもらうのが一番じゃね」

「そうそう。力仕事なら僕もできるからさ」

「おうよ。俺だって力のみせどころ、」

「三途は今日お休みだから」

「何でだよ!」

「三途は基地で大活躍して私たちのおいしいとこをぜーーーんぶ持ってったから! 罰として、一日休みの系!」

「月華の人でなしー!」

「何とでもいえ! そのかわりご褒美に明日はうんと働かせてやっかんな!」

「まじか! ヒュージの酒場で休んでくる!」

「三途様は単純ですね」

「何とでもいえ! 目的のためなら手段も選ばないのが番人だ!」

「本末転倒の気がしなくもありませんが……ご本人が納得されているのなら良いのでしょうか」

「そうさセーレ。あんまり深く気にしないことだ」

「そのようですね、月華様」

 そんな風に冷静に会話している月華とセーレをよそに、三途は張り切ってヒュージの酒場へと駆けていった。

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