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魔機ごろしの三途 ~王国最強の力は少女のために  作者: 八島えく
六章:三途、夜穿ノ郷に帰還す
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34話:神流救出

 魔機は巡回しているが、こちらの存在にはまだ気づいていない。

 だがこれから戦闘になるから、嫌でも三途と月華を排除しようと行動することになる。

 三途は腰にさしていた刀二振りを引き抜いた。生前ずっと使っていた愛用の刀のきらめきは、今もずっと変わらない。

 月華がその手に握りしめたのは、いびつな枝で作られたパチンコだった。玉をあてがってゴムを引き絞る。

「あの扉を叩き割って、神流を救出する」

 三途はすっと腰を落として構えをとる。月華に目配せすると、無言でうなずいた。

「三途の好きに暴れていいぞ」

「この上ない頼もしい言葉だ」

 三途は自然に微笑んで、迷いなく影から飛び出した。


 蛍光の青色の光が、神流を閉じこめる扉に這っている。

 三途は刀で横にそれをなぎ払った。

 刃は案外すんなり通った。刀はなめらかに扉を断つ。

 四方八方から警報が鳴り響いた。さっきまで青白く輝いていた空間が、急に赤色へと豹変する。

 扉の前を巡回していた魔機すべてが、三途へと武器を向けた。死んだような殺気が三途の全身へびしびし当てられる。


(刀の感覚、振るう動き。うん、今まで通りだ)

 刀を振るった時の感触は、生前戦っていたときのことを思い出させてくれる。勘ががだんだんと戻っていくのを三途は感じていた。


「月華、援護たのむ!」

「まかせろ!」

 魔機4体が三途を取り囲む。銃口を三途に向けた。

 その魔機たちが発砲するよりも早く、月華のパチンコ玉が魔機の頭部を破壊した。


 びしっ! と小さなひびが魔機の頭部に入り、電源部分を的確に貫き壊す。

 月華の狙いすました飛び道具により、魔機は腕をだらんと落としてうなだれる。

 だが魔機もそれで攻撃を諦めたりはしなかった。魔機の数体が壊れても、第二第三ーー第百以上の魔機が侵入者の排除を行うだろう。

 そんなものを相手するのも一興だが、三途のすべきことは神流の救出だ。

「あとでいくらでもつきあってやる」

 三途はどんどん増えていく魔機をやりすごしながら、扉の断面めがけて蹴り入れる。

 ずぅん、と扉は低い音を立ててあちら側へと倒れ込んだ。少しだけ白煙が舞った。

 その先は灯りもつかず真っ暗闇だった。羽音のような機動音がかすかに聞こえるだけ。


「神流!!」

 夜目の利く三途には、こんな暗闇など大した障害ではない。野生の勘にも似た嗅覚で、懐かしい香りをかぎ取る。神流の匂いが漂っていた。

 迷わず部屋に飛び込んだ。そして立ち止まる。二歩先には、間違いなく神流がいた。

 忘れもしない。ずっと一緒に旅を続けてきた義兄弟。入念な手入れをされた髪と肌。

 小さく身をすくませて顔を膝に埋めている。

「神流、神流!」

 神流の肩が、ぴくっと反応した。そろりと顔を膝から放し、声のした方へと視線を泳がせた。 

 三途は膝を折り、そっと神流の肩に触れる。神流の顔色はあまり芳しくない。うつろな目でやつれきっている。満足な食事もできなかったんだろう。何より、舞踊をはじめとした体を動かすことを好んだ神流にとって、満足に踊れないこの檻はこの上ない苦痛であっただろう。

「……さんず?」

 神流の目に光が宿る。

「神流……!」

 三途はほっと胸をなで下ろした。

 神流は大した怪我をしてはいなかったが、衰弱が激しい。供に戦うには少し時間がかかるだろう。

 神流の目に光が宿る。虚ろな表情が驚愕と歓喜に変わっていく。

「三途、帰ってきたんだ……!?」

「ああ、18年……、いやこっちは3年か。待たせて悪かった」

「待ってた……!!」

 神流が細く骨ばった両腕を三途の首に回す。

「ようやく会えた」

「ごめん、待たせた。でもこれからはずっとこの星にいるからな。少なくとも100年」

「うん……」

「さあ、感動的な再会のお楽しみは後にとっておこう。ここから出るぞ」

「わかった。……けど、ここ、魔機がいっぱい」

「心配ない神流。魔機は基地ごと全部ぶっこわす。そんで悠々と帰るぞ。……手を」

 三途が神流の手を引いた。扉の前に立ちはだかっていた魔機2体は、三途が無造作に刀を振るって片づけた。


「おお、三途!」

 部屋をでると、パチンコを駆使して魔機をひっかき回す月華がいた。

「待たせた月華。神流を頼む」

「まかせろー! シロガネを呼ぶか? 魔機がすんごい増えてるぞここ!」

「わかった。全部俺が引き受ける。月華は神流を護衛しながら安全な場所に避難! シロガネとセーレに会えたら合流するよう伝令たのむ」

「おっけー! 存分に暴れろ!」

「お言葉に甘える。


 さて、こっからは好き放題動けるな」

 月華と神流が自分から離れていくのを見届け、三途は刀を構え直した。

 番人の記憶も使命も、この星での思い出もすべて思い出した。戦いは地球で一度行っているが、まだ勘を取り戻しきってはいない。流れ弾が仲間に降りかかるのを防ぐため、三途はふたりを遠ざけた。


 だがこれからはこの心配をしなくてもいい。周囲にいるのは倒すべき敵のみだ。

 どれほど力を解放して戦っても問題ない。

 三途はふっと不敵に笑い、魔機に刃を向けた。


「王国番人、三途・リドリー。いっちょ暴れますか!」


 この基地に設置されている魔機は、人型と鳥型と巨人型の3種である。

 成人男性を一回り大きくしたほどの人型、警戒巡回用に空中で監視をする鳥型、そして邪魔者の排除に特化した巨人型。

 人型も戦闘能力はあるが、巨人型ほどの脅威はない。三途が現在戦っている魔機は、そのすべてがまだ人型だ。


 三途はひとまず刀を横に凪ぐ。金属を刃に滑らせる感覚が手に残った。

 人型の魔機5体を一気に叩ききる。

 刀が何の抵抗もなくすらりと魔機の体を断ち切っていた。魔機の中に内蔵されていたエネルギー源の油かなにかが、魔機の破片とふれあって炎上する。

 5体がそうして炎上に覆われ、近くで戦闘態勢を整えていた魔機10体ほどが巻き込まれる。

 派手なオレンジ色の炎が、蛍光色の灯りよりもずっと明るく照る。

 おかげでか視界も多少は改善された。

 

 三途は前に立ちはだかる魔機たちに迷いなくつっこんでいく。

 魔機も各々武器を構えて三途に応戦していた。持っている武器はほとんどが機銃だった。

 食らえばひとたまりもない武器だ。三途は魔機の間をすり抜けるように、刀を流麗に振るっていく。

 武器をねらうように刃の当たる位置を調整した。

 魔機の腕を切り落としてダメージを受ける危険性をそぎつつ、確実に息の根を止めていく。

 力加減はいっさいしていない。思い切り、自分のもてる力を振るいきってとにかく暴れ回る。


 刀は抵抗なく魔機を次々と断ち切っていく。番人の力が働いている。

 魔機を破壊して次の魔機へ。ほとんどは人型の魔機と戦っていたが、時々天井から鳥型の魔機が三途の行動をじゃまする。くちばしとおぼしき部位からビームを放ち、三途の横髪をわずかに焦がした。


 三途は壁と魔機を足場に蹴って跳躍した。鳥型との距離は一気に縮まる。

 ビームを撃った硬直で動けない鳥を、ばっさりと断ち切るのはそう難しくもない。

「せいっ!」

 軽やかに宙へ浮かぶ三途は、刀を振り下ろした鳥型魔機をすべて叩ききる。両断された鳥は一瞬固まって直後爆死した。三途はすとんと床に着地する。

 

「お?」

 目の前の人型魔機の武器が、機銃からさらに大きな銃砲に切り替わっている。銃口からは煌々と青白い光が輝いていた。

「させるか!」

 三途は魔機が銃を放つよりも早く、その腕を刀で落とした。

 ごとんっ、とくぐもった音を放ち、落ちた腕が炎上する。

 ひるんだ魔機に二撃めを与えるべく、三途は魔機の懐まで無謀につっこんでいいく。

 二振りの刀を好き放題斬り凪ぐ。

 魔機の堅い装甲の抵抗が手にのしかかる。手応えがある。

 三途はそれを振り切り、魔機を切り捨てていった。


(よしよし……だんだん体がなじんで勘がもどってく……!)

 三途に思わず笑みがこぼれる。にっと口の端が上がり、気分が高揚する。

 この調子のまま、三途は止まらず走りだす。

 体が軽くて息も整っている。刀を振りきった時の筋肉の伸びが気持ちいい。

 高揚に心地よさを感じながら、三途は1機また1機と魔機をつぶしていく。


「三途ー!」

 後ろから月華の声。振り向くとパチンコで応戦している月華が立っていた。

「月華、無事か」

「心配ないぞ!シロガネとセーレも合流した!」

 よくよく見ると、月華の後方には武器を構えながら周囲を警戒するふたりが見えた。

 魔機は彼女たちに迫ってきているが、月華がパチンコ玉で確実に急所をねらって破壊する。

 セーレは素早い剣戟で魔機を翻弄する。突剣の刃に雷をまとい、魔機の装甲を削り取る。

「三途、どれくらい魔機を壊した?」

「さあ、10体くらいから先は面倒で数えてない!」

「おっけー、いいぞいいぞ! ならばこの基地のボス魔機を壊すぞ! そいつが止まれば残った魔機も機能を止める!」

「任せろ! んで、ボスはどこに?」

「わからん……! だがこの基地の魔機すべてを取り仕切る母体があるのは確かなんだ……」

 月華は悔しそうにこぼした。

「了解。だったら、最後の1機になるまで壊すだけだ」

 言うや、三途は目の前の人型魔機を思い切りたたき壊した。

 刀は無数の魔機を切り倒してきたというのに、刃こぼれひとつ見あたらない。

 一歩踏み込んで次の魔機を破壊。邪魔をする鳥型魔機は刀を投げて破壊した。

「きりがないな」

 いくらでも動きはするが、これほどまでに無数の魔機が現れ、終わりが見えなければいくら三途でも苛だちは生じる。


「おっと。……どうやら、向こうから来てくれたみたいだな」

「お?」

 今までねじ伏せてきた魔機の骸の山の、その向こう。

 ずんずんと重い音を立てて、ゆっくりとこちらへ歩いてくる存在がひとつ。


 巨人型の魔機。図体は三途の十数倍はゆうに越えている。右手に斧、左手に銃。装甲は灰色に輝き、存在感をこれでもかと主張する。

「巨人型魔機だ! でかいっ!」

「こいつを壊せば終わりだな?」

「そう! でもこいつ、きっと手強いぞ!」

 魔機はずんずんと三途へ近づいてくる。ぎらっと光る眼球部位が、三途をにらむ。明確な敵意が感じ取れた。

「援護しましょうか、三途様」

 セーレがシロガネをかばいながら進み寄る。が、三途はそれを手で制した。

「ありがたい申し出だが、気持ちだけもらっとく。

 俺はまだ自分の力をちゃんとコントロールできてない。うっかり攻撃にセーレや月華を巻き込むかもしれない」

「……わかりました」

「代わりに、人型と鳥型魔機の相手しててくれないか。俺、集中すると周りが見えなくなるから」

「もちろん。お任せを」

「そうだぞ三途! そういうことならこの月華様にまかせろー!」

「頼もしい!」

 三途はにっ、と笑い、巨人型魔機に向かって駆けだした。

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