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魔機ごろしの三途 ~王国最強の力は少女のために  作者: 八島えく
六章:三途、夜穿ノ郷に帰還す
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33話:行動開始5秒前

 月華は心底嫌そうな顔をしていたが、ヒュージの案に渋々ながら賛成した。人手の足りない現状、選び好みができないとわかっているのだ。


 ヒュージはすぐにシロガネと連絡をとった。シロガネは明朝に酒場へ行くと約束してくれたらしい。それまで、月華と三途はゆっくり休むことにした。

 

 風呂から上がった三途は、ヒュージが用意してくれていた月華の寝室に行く。まともに使える部屋がほとんどないため、月華と相部屋を使うよう言われていた。

 質素なシーツを1枚拝借して床に寝そべろうとしたところで、月華が入ってきた。

「こら三途。床で寝るなど行儀が悪いぞ」

「しかたねえだろ。ベッドは1台だけだしソファもないし。ベッドは月華が使え」

「おいおい、これくらい広いベッドならふたり寝ころんでも狭くはないだろ」

「一緒に寝れるか! おまえ女の子としての恥じらいをもて!」

「持ってるよー。でも三途は寝込みを襲ったりはしないだろ? ほらっ! わたしの隣でおとなしく眠るがよい! 良い夢みれるぞ!」

 月華はベッドに寝そべり、ばふばふと枕をたたく。これ以上言っても仕方がないと悟った三途は、諦めてベッドに入った。すぐさま月華が抱きついてくる。じゃれてくる犬のようだった。

 

 月華はそのまますぐに眠りにつき、三途もさっさと瞼を閉じて夢の中へ潜り込んだ。



 翌朝、三途はすぐに目を覚ました。寝起きは良く、まだ眠っている月華をそっと引き離してベッドからさっさとでる。

「……おい」

 三途は低い声でうなる。服の裾を捕まれる感覚。後ろをふりむくと、無意識に三途の服をぎゅっと掴む睡眠中の月華。

「……月華、離れてほしくないなら起きろ」

「うんん……んー……んむー」

「月華? 起きてんの? 寝てんの?」

「ねてる……」

「起きてんじゃねーか!」

 問答していても時間の無駄だ。三途は月華を抱き起こしてベッドに座らせた。ぼさぼさになった焦げ茶の髪を櫛でといてやる。着替えはさすがに渡せない。「先に降りてるからな」とさっさと部屋を出た。


 とんとん、と階段を降りてヒュージの酒場に足を踏み入れる。

 カウンターには朝食を皿に取り分けるヒュージが立っていた。

「ああ、三途君。おはよう」

「おはよう、ヒュージ」

「よく眠れた?」

「おかげさまで」

「それはよかった。……シロガネもすでに到着してるよ」

 ヒュージの指さす方に丸テーブルがあり、そこに向かい合うようにして、シロガネとセーレが座っていた。テーブルの上に重ねられた空の白い皿をうかがうに、すでに食事はすませているようだ。


「おはよう、三途君。お久しぶりだね、3年前以来かな」

 柔らかく微笑んだシロガネが、優雅に会釈する。それに続いてセーレも三途へ礼をする。三途は相席することにした。

「ああ、久しぶりだな。3年……俺にとっては18年だけど」

「そうだったね。地球と夜穿ノ郷では時間の進みが違うから」

「セーレのおかげでここへ無事に帰ってこれたよ。シロガネにも感謝している」

「お役に立てて何より。王国の番人は、我々にとっての利益そのもの。守るのは当然だ」

「その利益に応えられるよう、結果はこれから出す」

「頼もしい」

 ヒュージがコーヒーを注ぎに来てくれた。

 ほどなくして、渋々嫌々しかたなく、と言った表情で月華が酒場へ降りてきた。月華も交えて、今後の作戦会議が始まった。



 ーー月華の独自の地図をテーブルに広げ、4人は基地攻略の作戦を練っていた。

 基地の内部構造、外壁の作り。とらわれている神流のこと。

 侵入できる場所が正門入り口しかないこともシロガネへ話した。そして

その最初を突破するためには、シロガネの力が必要だということも。

「なるほど。最初をどうにかできればいいわけだ」

「そうだ。魔機の一時的な機能停止ができるのはシロガネくらいのものだって聞いて」

「おや、私はいつのまにここまで頼られるようになったんだろう。魔機の機能停止だね。……この魔機の詳細構造はわかる?」

「あるぞ。くすねておいた」

 月華は若干低い声でもう1枚用紙をテーブルに滑らせた。魔機の設計図だった。

「さすが月華嬢」

「当然の準備だ」

「謙遜なさるな。ふむ……」

 シロガネは設計図にざっと目を通した。そして次はじっと眺める。その目は真剣だった。

「わかった。ありがとう」

「シロガネ様、機能停止にぼくの手は必要でしょうか」

「いや、セーレの手をわずらわせることはない。君は侵入ができ次第、三途君と月華嬢に従って魔機の破壊に集中するといい」

「……そうですか」

 セーレの声が小さくなった。

「大丈夫だよセーレ。シロガネにもきりきり働いてもらうから。シロガネは前線向きじゃないから、シロガネが安全に立ち回れるように護衛してやって」

「月華様の作戦ですから、月華様の言葉に従わざるをえませんね」

「いいつつうれしそうに顔ゆるめてるぞー。……うむ、基本的に前線で戦うのは三途だ。番人の力が更新されたから、パンチ一発で魔機を破壊できるぞ」

「いや、殴るの得意じゃないから……。おとなしく武器振り回す」

「そか。そんでだ、三途の援護は私がする。後方から弓とパチンコ打って魔機を攪乱する。侵入後のルートはできるかぎり覚えててくれ。その方が私も動きやすい。

 で、神流を救出するまではなるべく戦闘は避ける。私たちの最優先事項は神流の身柄を保護すること」

「それが成功したら?」

 意地悪く笑むシロガネの問いに、月華が負けないほどに不敵な笑いで返す。

「魔機の破壊、それと基地の殲滅」

 月華の目と三途の目が、爛々と輝いた。



 神流のとらわれた基地。街にでんと立つ目障りな敵の城。

 三途は月華と供に、基地から少し離れた平地でその様子をうかがっていた。

 堀によって守られた基地の周囲に、球体型の魔機がぐるぐると漂っている。

「あいつらは一定のルートをルール通りに回ってるだけだ。目から出てる光がセンサーで、あれに当たると侵入者だってバレる」

「わかった。

 シロガネ、入り口を頼めるか」

「了解」

 三途の後ろにちゃっかり控えていたシロガネが、裾の長いコートの中から手のひらサイズの球体を取り出す。笹で包まれたそれは少しだけいびつな形をしていた。

 

 シロガネは月華の指示を得て入り口近くまで忍び足で進んでいく。門を守っている魔機も、巡回している魔機もまだこちらに気づいていなかった。

 シロガネは笹の球体を門の魔機めがけて放り投げた。

 美しい弧を描いたそれは、魔機の横すれすれに落ち、突如ぱんっ! とはじけた。

「うぉっ!?」

 三途が思わず小さく悲鳴を上げた。

「ああ、すまないね。事前に告げておくべきだった」

「いいからいくぞっ! 三途、私についてこい! シロガネはセーレと一緒に一歩遅れてついてくるがよい!」

 言うや月華は有無をいわさず、さっと門をくぐり抜けた。魔機はこちらの侵入に気づかずぼーっと止まっている。シロガネの投げた玉が機能停止の手段だったのだろう。

 三途は刀をにぎりしめ、容赦なく離れていく月華の背中を追いかける。

 月華がいうには、魔機の行動パターンはすべて把握しているらしい。ということは月華についていけば魔機に気づかれない。そう判断した三途は、ひとまず深く考えるのをやめておいた。


 門をくぐり抜けるとそこは全体的に暗かった。床や天井、壁から直線上の文様がときどき発酵しているのが目の頼りとなった。

 構造は精密さに埋め尽くされている。三途が今までみた世界とはまるで異なっていた。地球にもにたような建築物はあったが、ここまで発光する灯りはみたことがなかった。


 蜂の羽音のような音と、機械の機動音がそこかしこから聞こえてくる。

 羽音は魔機のエネルギーが稼働している音だ。基地内の影に隠れて魔機をやり過ごしているうちに、その音の正体に三途は気づいた。


 人型の魔機ががちゃがちゃと忙しなく、ゆっくりと巡回している。入り口付近はそれほど魔機に出くわすことがなかった。

 三途は月華の背中をじっと追いかける。軽やかで素早く音もない。この基地に紛れ込んだ異物だというに、魔機にまったく違和感を抱かせない。

(さっすが月華)

 三途はそんな少女の背中を、同じく音を立てずに追う。

 

「三途、こっち」

 月華の手招きに三途は従う。決まったルートを巡回する魔機のセンサーをくぐり抜けていく。

「ここからは私から離れないように動いて」

 そうして月華が手をさしのべる。手をつなぎながら行くということか。

「かまわないけど、何で?」

「この先は魔機の数が格段に多くなってる。わずかな時間差でバレる可能性が高い。できるかぎり私と同じタイミングで進んでほしいのだ」

「わかった。……が、何で手をつなぐ必要があるんだ?」

「そういう作戦だからだ!」

 むふーっ! と月華は胸を張る。

「安心しろ、戦闘になったらさすがに手は離すから。片手で弓とか引けないし、三途だって二刀流だし」

「ああ、常識はあったんだな……よかった。

 そうなるとシロガネとセーレはどうするんだ」

 セーレが先導しながら、シロガネと一緒に月華のもとへたどり着いた。

「シロガネはセーレと一緒にここで待機。もし魔機に見つかったら戦闘して良いし場合によっては撤退してかまわん。私たちを置いていっていい。

 ただ、神流を助ける段階で魔機と戦闘する可能性が非常に高い。この辺にいる魔機がキミらを襲ってくるかもしれない。いつでも戦えるようにしておくのだ」

「了解。神流坊やを助けたら、その後は?」

「ここで合流してみんな仲良くとんずら」

「ここでなのかな? 脱出するための出口はずいぶん遠いけど。大人数だと目立って脱出が困難になるのでは?」

「心配ない。ここが出口になる。……ま、それまで魔機に警戒していろ。

 いこう、三途」

「おお」

 三途は月華について駆けていく。


 月華とつないだ手は暖かかった。小さな手を握りつぶさないよう控えめに握り返す。すると月華の指がわずかに強く、三途の手に絡んできた。

 改めてエリアを見ると魔機の数は格段に増えている。ある一定の部屋付近では、5体の魔機があたりを動きながら目を光らせている。

「あれは」

「あの部屋が神流のいる場所だ。

 ……ここまでこれたけど、この先は私にもわからん」

「神流……。待ってろ、すぐに出してやる」

「その意気だ三途。

 では、始めるぞ」

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