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魔機ごろしの三途 ~王国最強の力は少女のために  作者: 八島えく
六章:三途、夜穿ノ郷に帰還す
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31話:甦る記憶

 楽しかった記憶を、嫌な記憶が塗りつぶしていく。

 三途の頭の中に、あらゆる記憶がおしよせていた。

 

 石畳を踏みしめた足がふらついた。

「大丈夫か、三途」

 前から、月華の心配する声。

「平気だ。……今になって全部戻ってきた」

「記憶が?」

「うん。森はめちゃくちゃにされてたな。神流もガムトゥもマデュラも捕まって、獣たちは全員ころされて」

「私だけは森から抜け出して何とか生き残れたんだ。三途が逃してくれたおかげでな」

「そうだったな……」

「うん。ほら、つくぞ」

 くらくらする頭を抱えながら、三途は前を見る。

 白い光がこちらへ差し込んでいる。まばゆい光の向こうには、変わり果てた故郷が映し出されていく。


 硝煙と血にまみれた土が広がっている。建物のほとんどは破壊され、無事であるのはなじみであったヒュージの酒場くらいのものだった。

 石畳を渡りきると、懐かしい土の感触が足につたってきた。背後ではいまだ白い光が輝いている。


「街、か……?」

「うん。森の方は監視が強くて戻るのは危険だと思ったんだ。街も危険なことにかわりはないけど……」

「俺が死んで地球に転生してからどれくらい経ったんだ?」

「夜穿ノ郷は3年ってとこだな。こっちの裏通りは監視が少ない」

 月華の手に引かれ、三途は変わり果てた街をながめている。そして思考の末、月華の言葉と自分の人生の矛盾に気づいた。

「……ん? 3年? 3年しか経ってないのか?」

「そうだよ。……あ、そうか。しかたないよな。

 夜穿ノ郷と地球だと、1年の時間が違うんだよ。夜穿ノ郷の1年は、地球の6年になるのだ」

 三途は指折り脳内で計算する。

「じゃあ……俺が地球で18年過ごしてた間は、こっちは3年経ってたのか」

「うむ。三途が地球へ転生したのは、この時間の流れの差も理由のひとつだろうな」

「時間?」

「そう。三途が18歳になるのを同じ18年間待っていては時間がない。だから地球で成長を早送りさせたというわけだ。3年なら、待てない期間じゃない」

「確かにな」

「それに、地球ってのは星の中では屈指の自己完結した星なのだ。異世界からの奇襲を免れやすい。まったくのゼロというわけではないが、ほかの星に比べれば比較的かなり安全に暮らせる」

「……なるほど」

「酒場はこっちな」

「はいよ」

 三途は月華の小さな背中についていく。

 かろうじて形を保っている酒場にたどり着いた。ガラスが割れ屋根が砕け、ドアはひしゃげている。


 裏口から忍ぶようにこっそりと入る。「入るよ」と月華が内部の人間に伝えた。裏口ドアが開かれた。歓迎したのは、三途にとっては懐かしい面影ーーヒュージだった。

「お帰り、月華。ああ……三途君も、帰ってきたんだね」

 さあ、と中へ招き入れるヒュージの表情は柔らかく、安堵していた。


 酒場の内部も荒れていた。

 不規則に並べられたテーブルはほとんど壊され、カウンターに整えられていた酒瓶は割れている。窓は砕けて破片が床に飛び散っている。月華は迷わずカウンターの中に飛び込み、ホウキとちりとりを持って破片を片づけた。

 ヒュージはかろうじて無事なカウンター席の埃を手でぱっぱっと払う。

「お帰り三途君。ひとまず、ここにかけてて。何か軽い食事を用意するから」

「あ……? ああ……いいのか? 飯とかもらっちゃって」

「良いよ良いよ。食料には困ってないのが不幸中の幸いだから。店の内部はひどいけどさ」

「じゃあ、お言葉に甘える」

「ヒュージ、掃除終わったよ」

「ありがと月華嬢。食事にしよう」

 袋に破片を詰め込んだ月華は、三途の隣に座った。ほどなくして、セーレも戻ってきた。


「セーレもお帰り。長旅だったね」

「いえ、引き受けた仕事ですから」

 セーレは三途の右隣に座り、書類をヒュージに差し出した。受注した依頼達成の報告書だった。

「三途様の護衛、終了です。ヒュージ様の酒場まで無事送り届けましたので、これでぼくの任は終わりとなります」

「護衛……? まさか、俺が地球にいる間ずっと!?」

「ええ。三途様が地球へ転生されてからずっとです。簡単に説明しておきましょうか。

 この夜穿ノ郷が魔機に襲撃され、三途様は一度死にました。ですが、番人としての任期は残っております。その任期を果たすため、非常に非常に特例として、あなたは別の世界で生まれ治すことができました」

 セーレは黒茶を飲む。


「地球は外部との接触をほとんど絶った、自己完結型の星です。が、それでも異世界からの襲来は皆無ではありません。

 郷を襲った魔機勢力も三途様が地球で暮らしていることを知り、何度か刺客を送り込んでおります。ぼくの役目は、そういった刺客の排除と、あなたが18歳になってこちらへ帰るまでお守りすることでした」

「……まさか、俺の周りでいっつも危ないことが起きていたのは」

「魔機たちの仕業です。周囲に被害が及んでも三途様がけが一つ負わずにすんだのは、ぼくがそれらをすべてはじいておりましたためです。できることなら、被害そのものを最小限にとどめるべきと考えてもおりましたが、魔機の攻撃はすさまじく、三途様への攻撃をはじくので精一杯でした」

 三途はぽかんとセーレを見つめていた。セーレの言葉は筋が通っている。今まで地球で過ごしてきた数々の不吉なことの原因が明かされた。そしてその原因と理由は三途にとっては思いも寄らなかったことだった。ここまで大きな陰謀が自分の周りでうごめいていただなんて。


 その陰謀にある意味荷担していたセーレは、なんと言うこともなくしれっと言ってのけている。重大であると認識していないのか、それとも当たり前のことだと思っているだけなのか。

 陰謀、といっても、セーレは三途の味方についていた。

 それも18年間、ずっと三途を守っていたのだ。

「おまえ……俺がのんびりしてる間……そんな、大変な任務についてたのか」

「大変かどうかは個人の認識にもよりますが、ええ、三途様の護衛任務についておりました」

「そんなしれっと! 俺、自分のことしか考えてなかったっていうのに……」

「それは仕方のないことです。あなたが番人として覚醒しない限り、あなたはずっとご自分を不運な地球人として生涯を終えるしかありませんでしたから。結果、あなたは夜穿ノ番人の使命を思い出し、ここへ戻られた。それでぼくの役目は果たされたと言って良いですし、それにあなたを護衛することはぼくが決めたことですから」

「セーレ……。18年も俺を助けてくれてたのか」

「ええ」

「こんなことをここで言っても何だけど……ありがとう、守ってくれて」

 三途は頭を下げた。

 

 夜穿ノ郷での記憶も、番人の役目も思い出した今、自分がどれほど恵まれた場所で守られていたかを自覚した。三途は深々と、セーレに礼をする。

「頭を上げてください。ぼくはぼくの仕事をしたまでですから」

 セーレの華奢な手が三途の肩に触れた。

「ぼくよりも月華様を案じてください。最初、月華様がぼくの役目を果たそうとしておりましたから」

「あっこら何バラしてんだっ!」

 月華があわてて口を挟んだ。

「え、どういうことだ?」

「三途様が地球へ転生したことを確認したのち、あなたをお守りする役目ができました。その際、月華様がやるやると声を大にして立候補されまして」

「おいこらっ! セーレっ! このクールビューティ月華様のイメージを壊すんじゃないよ!」

「おまえクールビューティってキャラじゃねえだろ……」

「話を戻してもよろしいですか?」

 すいませんお願いします、と三途はセーレにこたえた。

「現状、王国は王都がどうにか生存を保っているだけであり、ほかの都市はほとんど制圧された状態にあります。

 制圧したのは魔機(まき)と呼ばれる機械生命体。地球で三途様を襲ったのもその魔機が絡んでおります」

「まき……。あれは異世界の生物、なんだよな」

 三途は先ほどの戦闘で遭遇した奇妙な機械を脳内で思い出す。命が感じられない冷たい印象と、意志をもって動いているという矛盾が、あの魔機にははらまれていた。

「そ。アレらは比較的最近生み出された世界の住人なんだ。その世界がどこにあるのかはわからないけど」

 月華が言葉を継ぐ。

「夜穿ノ郷をねらう理由はわからないけど、調べたところによると、魔機は異世界を無差別にねらっているわけでもないらしい。というか魔機に襲われたのはこの星だけだ。そして星の番人である三途が転生した地球も、継続的に奇襲を行っていた」

「なるほど。……番人って、星の脅威にも太刀打ちできる力を持ってるはずだよな? 死ぬ前の俺はどうして魔機にかなわなかったんだ」

「単純なことです。番人システムは魔機の出現に対応できなかっただけです。システムの更新が遅れてしまい、魔機への対処法を国それぞれの番人に与えることができなかった」

「なるほど……。定期的なアップグレードは重要だな」

 三途は苦笑して冷や水を飲む。

「ですが、本日の戦闘を目にして確信しました。三途様の番人システムは最新版に更新されております。魔機と互角に渡り合い、破壊をなしたのですから」

「そうか……? あのときは夢中で戦ってて何も考えてなかったから……」

「三途は戦うとなるとほかのことがおろそかになるからなー。だからこの私が後ろで支援をするのだが」

 むふーっと月華が口を挟む。そしてセーレがそっと、席を立つ。

「……さて。ご歓談中恐縮ですが。ぼくの仕事は終わりました。報告も完了しましたので、ぼくはこのあたりで失礼します」

「あれ、帰っちゃうの? 僕が送ろうか?」

 ヒュージが書類を受け取りつつ言う。

「いえ、お気遣いなく。魔機たちの目をかいくぐって持ち場に帰るのは得意ですので。それではまた」

 一礼したセーレは、しれっと酒場の裏口から帰って行った。その足取りと後ろ姿は、どこか弾んでいるようにもみえた。

「……さて、三途。この星の現状と、わたしたち森の関係者の状態をおさらいしておこう」

 月華の声が低くなる。

「そうだった。神流は……捕まった、んだっけ?」

「うむ。マデュラ、ガムトゥ、神流。この3人は魔機側から目を付けられ、

 それぞれ別所に監禁されている」


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