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魔機ごろしの三途 ~王国最強の力は少女のために  作者: 八島えく
四章:【過去】夜穿ノ番人
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22話:街奪還作戦

 神流の唐突な報告をとりまとめると、要するに街はすでに敵の支配下に置かれたということだった。

 

 夜穿ノ郷は異世界交流を積極的に行うため、不正なルートを用いてちょっかいをかけてくる不届き者も多少は出てくる。今回その不届き者が、街に現れてしまったというだけだ。


「街全部が占領……!? 全部陥落されたのか!?」

 月華が焦りをおさえながら神流に尋ねる。

「マデュラさんの報告によると、その通りだそうだよ。

 詳しくはマデュラさんとガムトゥちゃんが聞かせてくれるから、ちょっと居間まで来てくれないかな」

 神流が一足先に部屋を出る。

 三途は月華を顔を見合わせながら、神流のあとについていく。



「結論から申し上げますと、街の中で唯一落とされていないのはこの森のみです」

 淡々と、厳格な低い声で、マデュラはそう報告した。

 居間の大テーブルに街の地図を広げ、あっちは落ちたこっちも落ちたと指さしながら説明する。

「現れたのは突然でした。この街では見かけない武装をした集団が速やかに街の主要地域を侵攻、役所や自警団屯所、武具屋や宿屋、ヒュージ殿の酒場でさえ、すべては敵の手に落ちております」

「敵の武装は、具体的にはどんな感じなの、マデュラ」

「灰色でございます、月華様。

 皮鎧のような素材ではございませんし、このあたりの獣の素材で作られたものではありますまい。光沢がかって薄くも固い。牽制として何度か攻撃をしてみましたが、そのいずれもはじかれました」

「マデュラでもってしてもはねのける装備とはねえ……」

「防具もさることながら、奇妙に映ったのは武器です。

 奴ら、はじめは武器を持ってはおりませんでした。気がついたらいつの間にか、ふと剣や槍……銃器を装備しておりました。まるで最初から持っていたかのように」

「武器を持ってなかった?」

「さようですとも、三途殿。

 ただの丸腰だったはずの敵が、一瞬にして武器を手にしていた。……転移魔法のたぐいか何かかと思われます。そうして街の住人の警戒心を刺激せず、うまく街へ入り込めたと考えられます」

「なるほど……」

「それでヒュージの酒場も占領されたってわけか」

「そのようです」

 酒場として酒と飯と歌を提供しているヒュージの酒場は、同時に獣の狩猟や狼藉者の排除といった荒くれ仕事を仲介する紹介所という面もある。その一面あって、酒場には腕利きの狩人や兵士が毎日たむろしている。

 彼らやヒュージを制圧するのは並大抵のことではない。逆にいえば、敵はそれほどに強く狡猾なのだ。


「敵の数はおよそ200。うち100名は街の重要施設に数名ずつ割かれ、のこりの100は交代しつつ街を見張っております」

「こっちの森には気づいてる?」

「まーす! でもこの森を攻める気はないみたいですよ」

 ガムトゥが元気よく挙手した。

「森の存在はバレてます。でも獣たちの遠吠えと、森の入り口近くにぽーんと投げたニセモノの死体にビビって近づかないです」

「ガムトゥが機転を利かせて、森の獣たちに協力をあおいだようです。時間稼ぎでしかありませんが、対策を練るには充分な余裕が出ます」

「そうだな、よくやったガムトゥ。明日のご飯は角煮にしてやろう」

「やったー!! 月華様のごはん! 月華様のごはんっ!!」

 人間モードのガムトゥは月華に頭を撫でられ、ぴょんぴょんはねとんだ。


「……まあ飯のことはおいとくとして。どうすっかねえ」

 月華は人間モードでお座りするガムトゥを撫でつつ、危険な現状を切り開く策を考えていた。

「敵の数200か……。街に居着いてるんじゃ住人を人質にとられてこっちの身動きが限られてくる」

「偵察に向かわせた獣の話によりますと、住人たちは見つかりしだい、街の重要施設に監禁されている模様。そして敵の武器の中には、広範囲で火薬を放つ類のものもありました。一気に人質を殺されるおそれもあるようですな」

「火薬を放つ? 銃器か?」

「おそらくは。形は銃器でしたが、残り香を察するにあちらの世界の魔法か何かでしょう。薬のような臭いがしましたゆえ」

「魔法……あいつらにとっては簡単に使えるもんなのか」

「ええ、三途殿。攻撃をしかけてきた敵のほとんどは、攻撃後に魔法発動時特有の臭いを残しておりました。あれは奥の手というより、いつでも使える便利魔法でしょうな」

「いつでもどこでも何度でも、大勢の人間を火薬でぶっ飛ばす魔法か、そりゃ便利だ」

「マデュラさん、素朴な疑問なんだけど、この星にもこの星特有の魔法はあるよね」

「ありますとも神流殿。ただしこちらは、特定の資格を持った者でなければ発動を許可されません。制限がございます」

「このあたりだと、セーレやシロガネが魔法発動許可を得た資格持ちだよ。

 ……そういやあいつらどうなってんだ?」

 月華はふと、名前を口にして思い出した。

「マデュラ、シロガネとセーレも捕まってるか?」

「しばしお待ちを……」

 そういってマデュラは上着の内ポケットにしまってある紙を取り出した。紙面に視線を滑らせ、首を横に振る。

「獣の報告によりますと、どうやら敵の手には落ちていない模様です」

「ほんとか!」

「左様でございます。ただ、これはあくまで獣の報告にないというだけです。見落としの可能性もございます」

「見落としなんてないよ。この森の獣たちは皆優秀だ」

「……そうですね」

「だろだろ。

 さて、では我々はどうすべきか」

 月華の声がとんと低くなる。ここからの月華は、狩りをするときと同じ目をしていた。


「こちらから街に攻め入るとしたら」

「街の住人を人質にとられて何もできず、こちらの負けでしょうな」

「とすると、森に籠城して迎撃が正解かな」

「そうでしょうとも」

 月華とマデュラが作戦会議しているのを、三途はそっと聞いていた。

 

 何となく心がざわつく。戦いに身を投じた経験は数え切れないが、今日の戦い(となるであろう事態)には落ち着くことができなかった。


 こうして延々と会議している間にも、街の住人の命は脅かされている。はやく助けにいきたい。守らなければ。そう心中が叫ぶのだ。

 今までは他人の安否など気遣う余裕もなかったというのに。投じられた戦いを生き延びるのに必死だったというのに。


「三途?」

「……あぁ」

 目の前に、心配そうな表情で見上げてくる神流がいた。

「平気だ。……少し気持ちが焦ってる」

「焦る? 三途にしては珍しい」

「こう……なんというか、街が心配で」

「三途らしくないね。いつもならそんなことまるで気にもとめてなかったのに」

「だよな……。俺でも変だと思うわ」

 これも夜穿ノ番人というシステムが作動したせいだろうか。月華の話によれば、王国を守るという使命感に支配されるとかそんな感じだったが、意識の変化も頷けるかもしれない。

「月華ちゃんが作戦考えてくれてるよ。それに沿って僕らも動けば、街も解放できる」

「……そうだな」

 犬モードに戻ったガムトゥが、三途の足を鼻でふんふんつついていた。彼女なりに元気づけてくれているのだ。

「ありがとな、ガムトゥ。神流も」

「わんっ」

「いいよ。……で、僕らどうしよう」

「月華に聞こう」

 机の地図を指さしながら、月華はあれこれと戦略を整えていた。


「あ、三途も! 神流も! ガムトゥも! ちょっと聞いて」

 こっち! と月華がひとつのポイントにピンをさしていたところだった。


「簡潔に言おう。森の中を駆け回ってゲリラ戦すっぞ」

 華奢な獣の王は、そう断言した。


「森には私たちに従ってくれている獣がまだいる。そいつらと連携とって、自分たちの有利な場所へ敵をおびき寄せ、これを撃破する。そんだけ」

「作戦ってそんなざっくりしてていいのか?」

「いい! 獣の森ではそれが一番! 考えてみろ三途、ガムトゥにあれこれ細かい作戦を教えてうまくいくと思うか?」

「……そうだな無理だな」

「むっ!? なんだかガムトゥ呼ばれた気がした! 月華様なに! ガムトゥの噂した!?」

「作戦をたてるうえでガムトゥが基準になるって噂した」

「よくわかんないけどやったー!」

(本当に何もわかってねえ……)

「私たちは獣に混ざってそれぞれ迎え撃つ。数ではあちらが多いが、森にさそいこんで立ち回るぶん、少人数の私たちの方が小回りがきいて有利だ。個々の能力も高いしな」

「俺たちは別行動ってことか」

「そうそう。三途には面倒な役を任せてしまうことになるがよろしい?」

「いいよ。月華の考える適材適所なんだろ。それで街を救えるならかまわない」

「ありがと! えっとな、三途には敵の目を引きつけててほしいんだわ。陽動だな」

「任せろ。得意分野だ」

「そんでな、敵を引きつけるってことは目立っていなきゃならないってことだ」

「うん」

「今の三途の姿だと、森になじんで目立ちにくいんだ」

「……うん?」

「舞台の時と同じく女装して立ち回ってほしいんだ」

「なんでそうなる!?」

 街を一刻も早く助けたいとはいえ、月華の唐突な提案にはさすがの三途も反論するしかなかった。

「衣装を戦いに汚してしまうのは抵抗があるだろうけどもさ……」

「いや、そういう問題じゃなくてな……?」

「大丈夫だよ月華ちゃん、リハーサル用の衣装ならいくら汚しても洗濯すればいいし、リハ衣装は汚してなんぼだから」

「よし」

「よしじゃねえ! 女装しなくたっていいだろが!」

「いや、こないだの舞台の盛況っぷりを思い出してみ? 三途はきれいな姉ちゃん衣装着て舞ってるとそれだけで人々の目をひきつけるんだよ」

「だからって女装じゃなくてもいいだろ……!」

「ごめん三途、汚していいリハ衣装、女物しかないんだ」

「神流……狙ってた?」

「いや、まったくの偶然」

 三途は頭を抱えた。

「これで街を救えると思ってやってはくれないか、三途」

 月華の声がまた真剣に戻った。恥と街を天秤にかけるなら、重く傾くのは街だ。

 どうせ自分の女装姿を目にした敵はひとりのこらず斬り伏せるのだ。だったら半ばやけになってやる。

「……わかった。引き受けた」

「ありがと、三途! さて、神流は屋敷の裏口から森の裏出口あたりまで敵を引き寄せて。カラスたちと大きなキツネが力を貸してくれるから、木に登って上から奇襲をかけて」

「いいよ」

「ガムトゥは森の入り口付近を犬たちと一緒に守るのだ。敵がかかってきたら殺っちゃって」

「おまかせー!!」

「マデュラは空から森の全体を偵察、押されている者たちがいたら森の獣たちに呼びかけて都度支援を送って」

「承りました」

「さて、作戦ざっくりこんな感じかな」

 月華は不敵に笑う。


「武器はそれぞれ武器庫から好きなの持って行って。


 じゃあ、開始するよ」

 月華の静かな宣言に、三途は刀と装束を握りしめた。

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